2016.08.09 |ヘルス

認知症予防のペットは猫か犬の室内飼いが理想的

 認知症――自分、あるいは親がその当事者になる可能性。それは誰にも否定できません。その可能性を回避するために、今からできることとは? さまざまな方法を識者に尋ねます。

 今回は、予防のために「ペットを飼う」ということについての前編。獣医師・臨床心理士として、動物・人間双方を診る立場から、長年、高齢者や知的障害者と動物との関係とそのQOLの向上について実践・研究している川添敏弘さん(ヤマザキ学園大学准教授)にお話をうかがいました。

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認知症ペット_川添_1-1

ヤマザキ学園大学の自身の研究室にて

ペットが認知症予防にいい3つの根拠

 少し先行きが心配になってきた親御さんに、認知症予防にペットの飼育を勧めたいという話はよく聞きます。たしかに、ペットが認知症予防にいいという報告はたくさんあがっています。厳密なデータということでは、人間も動物も個性さまざまで動物のハンドラーによっても効果に差が出るなどの点から測定が難しいところはありますが、高齢者とペットを交流させる現場レベルでは、認知症患者の心理・身体・生理・社会性すべてに向上が見られるという実感が得られています。

 現在、認知症の予防については、主に「記憶」「運動」「会話」という3つの観点で研究が進められていますが、ペットを飼うと、これらをすべて網羅することができます。

「記憶」の面では、動物を飼っていれば、いつどれだけご飯やおやつをあげたから、次はいつどのくらいにする、など、覚えておかなくてはならないことがたくさん出てきます。記憶力の鍛錬になりますね。また、病院や予防注射などの行事も増えてきます。行事が増えるのはとてもいいことなんです。カレンダーに行事予定を書き込んで、しっかり日時を確認して遂行することで、見当識訓練にもなります。

「運動」でいえば、とくに犬を飼えば、散歩はほぼ必須ですから、否が応でも出かけることになります。散歩がマストではない犬種や猫であっても、お世話をしたり共に遊んだりすることで、日常の運動量は必ず増えます。

 最後に「会話」。たとえ人間の言葉がしゃべれない動物であっても、人が話しかけ動物が反応を返すことでじゅうぶん会話は成り立っています。そこに心の交流が生まれ、その積み重ねでまた会話が深まってゆきます。

 さらにこの3つのほかにも、責任感が生まれることも良いことのひとつです。食事の世話をきちんとしないと!と責任感が出てくれば、生活リズムにメリハリが生まれます。高齢になると、生活リズムがとかく単調になったりルーズになったりします。とくに独り住まいだと、食事も起床や就寝時間などもズルズルになることもありますが、ペットにご飯をあげたり水を換えたりと、決まった時間にすべきことがあれば、生活リズムが整ってきます。

いちばん高齢者向きなのは猫

 ペットを飼うとしたら、高齢者にいいのは、やはり犬か猫ということになるでしょうか。初めて飼うよりも、昔飼っていた動物を選ぶのがおすすめですので、犬猫なら飼育経験がある人も多いでしょう。それもできれば、室内で飼育できるものがおすすめです。“家族”として一緒に生活している、という感覚が認知症予防には理想的だからです。

 それぞれの良さや注意点を見ていきましょう。

 いちばん高齢者向きなのは、猫だと思います。お互い自由気ままですから(笑い)。噛みつきや吠え声などのトラブルの心配も少ないですしね。

 猫は、自分が遊んでほしいときだけやって来て、飽きたらぷいっといなくなる。人間が構おうとしたら去っていく。テレビを見ていたら、わざわざその真ん前に座って視界を遮る…。「もぉぉぉーー!」と言いながら、そこがまたかわいいと思ったりするのは、気持ちの高揚に良いようです。

 また、猫は「立体的」に動きます。(犬は平面で動きますが)。高いところにジャンプして登ったり、登ったはいいけれど降りてこられないとか。高齢者は視野が狭くなりますから、あっちこっちを見ることは、空間視の訓練にもなります。

 これらの、こちらの意のままにならないことに対して、登ってほしくないところに何かを置いたり、寄ってこない猫にどうすれば寄ってくるかとオモチャや釣り餌などを考えたりと、猫との“知恵比べ”で、脳を休ませてくれない。散歩が苦しい義務にならないことも良い点です。

 気をつけたいこととしては、できれば屋内で飼うことです。病気を持った野良猫との接触もなく感染症の心配もないですし。近年では、猫は外に出さず屋内だけで飼うことが推奨されています。とくに震災以降、逃げ出した後、捕まえられないケースもあり、猫の安全のために「ゲージ飼い」を勧める団体もあります。出かけるときには必ずゲージに入れて、帰ってきたら出してやるという飼い方ですね。時代的にそういうことが言われるようになってきました。

認知症ペット_川添_1-2

研究室の書棚

 犬については、コントロールがしやすいということがいちばんです。しつけができたり、芸を覚えさせたり。基本的に人になつきやすく飼い主に従順なので、情緒の相互交流がはかりやすいですよね。またそして、大きさや種類がさまざまで、選ぶときに選択肢が豊富にあることもメリットです。

 高齢者が飼うなら、小型の室内犬がおすすめです。昔のように“番犬”的に、屋外に犬小屋を作って別々に暮らすよりも、室内で生活を共にする方が、気持ちの行き交いもより深まりますし、犬の様子を常にチェックすることで注意力を維持することもできます。

 足腰が丈夫なうちから飼うとしたら、散歩を楽しめる犬種を選ぶのもいいですね。先ほども言ったように間違いなく運動の機会が生まれ、また、近所の方との交流が増えることにもなります。

 注意が必要な点は、犬にはしつけが必要ということです。吠え声や噛みつき、室内犬ならトイレのしつけなど、適切に飼えないと飼育を続けられない状況になりやすい。といっても、四六時中一緒にいられる高齢者が飼う場合は、のんびりと育ち、問題行動もしないケースが多いです。犬も寂しくないし、ねだればすぐに要求がかなえられたりもしますのでね(笑い)。

 次回は、ペットを飼う場合、留意しておきたいことや、犬・猫のほかのペットについてお話しします。

認知症ペット_川添_1-3

ヤマザキ学園大学の“宣伝部長”ヤギのあーちゃん・おーちゃんと

川添敏弘(かわぞえ・としひろ)/ヤマザキ学園大学動物看護学部動物看護学科准教授。獣医師・臨床心理士。「人と人とを動物を使って紡いでいく」ことを目標に、動物と子供・知的障害者・高齢者との関係について実践・研究。現在、学生やボランティアの人々とともに障害者や高齢者の施設で、さまざまなレクリエーション活動を主宰。地域コミュニティのなかでさまざまな困難を抱える人々との交流を重ね、独自のアニマルセラピーを実践中。

撮影/相澤裕明 取材・文/小野純子

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