連載

認知症介護で怒鳴らないために くどひろ流「PDCAサイクル」とは?

 東京―盛岡の遠距離で、認知症の母の介護を続けながら、その記録を介護ブログで公開している工藤広伸さんが、息子の視点で“気づいた”“学んだ”数々の「介護心得」を紹介するシリーズ、今回は、介護者の感情をコントロールし、介護する人もされる人もストレスをためない方法を伝授してもらう。わかっていても我慢できないイライラ、怒り。工藤さんが実体験にもとづき体得したこととは?

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 * * * 

 認知症の介護をしていると、同じことを何回も言われたり、いきなり暴言を吐かれたり、ありもしない話が出てきて驚いたりということは、よくあることです。そういったとき、皆さんならどう対応しますか? 

 認知症という病気だということは分かっていても、つい言い返したり、ケンカをしたり、間違っていると指摘したりするのではないでしょうか?

 認知症ご本人にとっては、同じ話を繰り返してもすべて1回目という気持ちで話していますし、どんな作り話でもご本人は本気で正しいと思い込んでいます。

 こういった事実を知らずに、認知症ご本人と何年もケンカをし続けて、介護者側が疲弊してしまうというケースがよくあります。時には、手をあげてしまう介護者もいます。認知症の方は、ケンカしたことや暴力を振るわれたという記憶は残らないのですが、「わたしが話すと何でも否定する、なんとなくイヤな人」という感覚だけは残るのです。

 わたしは、介護者として疲弊したくないし、母の認知症の進行をできるだけ遅らせたいと思っています。どうしたらいいか考えているうちにPDCAサイクル」という方法を見つけ、今も実践しています。認知症介護における「PDCAサイクル」について、解説します。

ビジネスシーンで利用される「PDCAサイクル」とは?

 会社員の方なら、「PDCAサイクル」というコトバを、耳にしたことがあるかと思います。念のため、おさらいしますと、

 P・・・Plan(計画)
 D・・・Do(実行
 C・・・Check(評価)
 A・・・Action(改善)

 この4つを繰り返すことで、業務を改善していくというものです。

 わたしの会社員時代の経験を、例にしてみます。期が始まる前には、予算(P:計画)を立てていました。実際に販売(D:実行)してみると、売れる商品と売れない商品がはっきり分かれました。それをデータ分析(C:評価)し、売れない商品を棚から外して、よりいい棚作り(A:改善)を目指していました。このビジネスの「PDCAサイクル」を、認知症介護にも応用してみたのです。

認知症介護における「PDCAサイクル」とは?

 P・・・Permit(許す、許可する)
 D・・・Down(降りる)
 C・・・Control(感情をコントロールする)
 A・・・Accept(受け入れる)

 認知症の母親と接している中で、介護者として自分は、どのように感情をコントロールしているだろうと考えて体系的にまとめたのが、このサイクルです。会社員の方が知っているこのサイクルに当てはめることで、日頃の介護生活でも思い出して使えるようにしてみました。ひとつずつ説明していきます。

P・・・パーミット(許す、許可する)

 大前提として、目の前の方は「認知症」という病気だということです。肺炎で苦しそうにしている母親に、「なんで肺炎になったの!」と怒る人はいません。なのに、認知症だけは、かわいそうではなく、怒りがこみあげてきます。認知症という病気が、同じ言動や暴言を言わせているのです。介護者が想定していない言動があったとしても、病気が原因だからと無条件に許してあげるというのが、Pです(ちなみに本来の英語はForgiveですが、分かりやすくするためにPermitを使用しています)。

D・・・ダウン(降りる)

 認知症の方の特徴として、ついさっきの出来事を忘れてしまうというのがあります。介護者は悪口を言われたりすると、反射的に怒りたくなりますが、この特徴を利用します。ケンカという土俵から、介護者はまず降りるのです。降りて時間を置き、家事をしたり、お風呂に入ったり、話題を変えてみたりします。そうすることで、認知症の方は悪口を言ったことを忘れ、時には笑顔になっていることもあります。

C・・・コントロール(感情をコントロールする)

 土俵から降りたあとは、自分自身と向き合います。認知症の人を怒ってしまい、良心が痛んだり、後悔したことありますよね? そういった過去の気持ちと向き合うことで、後悔してしまう自分を想像して、自分自身の怒りをコントロールします

A・・・アクセプト(受け入れる)

 最後は、認知症の症状のひとつだからと受け入れます。相手を許して、土俵から降り、自分の感情をコントロールできたということは、認知症の方の言動を受け入れたということです。明日にはまた、同じ話を何度もしてくる可能性があります。しかし、このPDCAサイクルを回すことができたということは、自分自身のストレスを解放するばかりか、認知症ご本人の記憶にイヤという気持ちが残らないのです。認知症の方のストレスを減らすことは、進行を遅らせることにもなるのです。

 いかがでしたか? ビジネスの世界で使われている「PDCAサイクル」は、認知症介護の世界でも応用して使うことができます。この方法をより詳しく、『医者は知らない! 認知症介護で倒れないための55の心得 (廣済堂健康人新書)

にまとめてあります。気になる方は、あわせて読んでみてください。

 今日もしれっと、しれっと。

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工藤広伸 (くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間20往復、ブログを生業に介護を続ける息子介護作家・ブロガー。認知症サポーターで、成年後見人経験者、認知症介助士。 ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)

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