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尿失禁とそのケア~プロが教える在宅介護のヒント 「排せつ」のトラブル<3>

 専門家に在宅介護のヒントを教えてもらうシリーズ、今回は、前回に引き続き、尿失禁とそのケアについて。介護中の「排せつの問題」の中で、最もデリケートな対応が必要と、訪問看護師の長川清子さん解説する。

 尿失禁のケアは、高齢者自身の自尊心を傷つけないよう配慮し、適切な声がけと段階を経るのがコツという。

 * * *

不安解消から始める、尿失禁のケア

 訪問看護をしていて、ご家族から相談されることが多いことのひとつに、尿失禁があります。

 汚してしまった下着や寝具を隠してしまい、臭ってしまうことで清潔が保てないことで悩んでいるといったケースが見受けられます。

 要介護者には恥じらいと、親や年長者としてのプライドがあり、「不衛生」「臭い」など道理で迫っても、反感を買う一方で、事態が改善しないことが多いようです。そのような羞恥心は認知機能が低下している人も保たれていますどのような状態にある人に対しても、自尊心を傷つけないように対応することが基本で、良好なコミュニケーションをとるコツです。

 失禁をしてしまったことで、ご本人はとても傷つき、困っています。その気持ちを汲み取り、困っている人を「困った人」として扱わないことが大切です。

 まず、要介護者の不安をやわらげる声がけをしましょう。

「汚れてしまって、困っていたの?」という話ができたら、「気づいてあげられなくてごめんね」などと伝え、心地よく応じられる場面をつくる工夫を。気持ちをこじらせてしまうと、ケアを拒否されることは少なくありません。

高齢者の尿失禁の多くは骨盤底筋の筋力低下が原因 

 元気高齢者にも多い「腹圧性尿失禁(ふくあつせいにょうしっきん)」は咳やくしゃみ、重い荷物を持つなどして腹圧がかかると尿が漏れてしまうもので、骨盤底筋の筋力が低下して起こります。

 訪問看護でこのような場面に出会ったとき、私は、「筋力低下で漏れちゃうことはよくあること、私もこの年になったら……」などと、まず、困っているのは一人だけではないことを伝えます。

 そして、「尿漏れパット」や「リハパン(リハビリパンツ)」「大人用紙おむつ」など、便利で“いいもの”があり、気軽に対処できるとお話しています。

 その上で腹圧性尿失禁以外に尿失禁を起こしている原因がないか、会話から聞き取りするとよいでしょう。

 腹圧性以外の原因で、尿失禁が起こる場合は、泌尿器科の受診が必要です。以下の点がないか、日頃の様子をさりげなく確認してみてください。

・ 尿の回数が多い(昼間8回以上、夜間1回以上)
・ 急に激しい尿意が起こり、我慢できず漏れる
・ 冷たい水を触ったときや水の流れる音などに反応して、突然、我慢できない尿意が起こる
・ いつも「トイレに行かなきゃ」と思っている

 また、以下も尿失禁の原因になることがあります。

・ 脳血管障害や脳出血などの病気
・ 排尿障害(尿が出にくくなる排尿障害になると、トイレでは排尿できず、尿が少しずつ出てしまうようになることがある)
・ 持病の治療薬の服用(薬を飲み始めてから、薬が変わってから、失禁するようになったなど)

 泌尿器科の受診を勧める場合は、「多くの人がかかる病気のせいかもしれないから、一度診てもらうと安心ですよ」などと促し、困っていることが解消する可能性を伝えましょう。

失禁の放置は、腎不全や尿路感染の恐れも!速やかな対策を

 深刻なムードにならないように気をつけるのですが、失禁が続いていて、放置すると腎不全や尿路感染、かぶれなど皮膚疾患を起こすこともあるので、受診または対策(パットやリハパンなどの使用)は速やかに行われるよう配慮します。

 高齢者の中にはパットやリハパン、紙おむつなどに対する不信感やかぶれなどへの不安が強い方もいらっしゃいます。安心してもらうためには、実際に利用するとよいおむつなどに水を垂らして、その吸水性を見せるのがおすすめです。

 百聞は一見にしかず。吸収力を見て、逆戻りしないこと、肌触りなどを確かめてもらうと、不快な思いをするよりもずっとよいと分かってもらえ、スムーズな利用につながります。

 また、夜間に頻尿の傾向があり、ご家族が転倒を心配して紙おむつやポータブルトイレの利用を勧めても、拒否されることも多くあります。

 この場合も、今の紙おむつは非常に吸水性が高いこと、物によっては1リットル近く吸水することなどを伝え、実際に、目一杯、吸水させたおむつを手で持ってもらい、重量を感じたり、肌に触れる部分に触ったりすることで、機能の高さが実感でき、「失敗するよりまし」などと利用のきっかけになります。

 介護を受けている人の「できないこと」に目を向けて紙おむつやポータブルトイレの利用を勧めるのではなく、「いいものがある、使わなきゃソン」という感じにお伝えするのがコツです。

●運動機能や認知機能の低下が原因の場合

 ほかに、運動機能や認知機能の低下が原因で失禁することもあります。ズボンの上げ下ろしなど動作に手惑って間に合わない場合や、トイレの使い方が分からないなどです。

 そのような場合は、

・ 脱ぎ着しやすい服に替える
・ トイレへの動線を見直す
・ トイレのドアに分かりやすく表示する
・ 紙おむつ、ポータブルトイレを利用する

 など排泄環境を見直し、できないところは介助を行いましょう。

尿失禁に対するケアの段階

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この記事へのみんなのコメント

  • kokoちゃん

    母は齢96歳。昨年から入退院を繰り返し、今年6月初めに退院したばかりだったのに、私の不注意で「圧迫骨折」。背中が湾曲しているため、痛がる骨折の処置は不能。自宅療養が出来ないため、又、肺炎気味等の理由もあり、現在入院中です。そもそも「慢性心不全」の病を抱えていたので、むくみとか息苦しさには日頃注意していたのですが、母に痛い思いをさせてしまいました。本当になんの知識もない私がははを施設に入れずに、自宅で出来ることはあるのでしょうか?

  • 無理子

    家庭によっても違うと思いますが、全般的に介護は壮絶です。記事にあるようなあくまでも被介護者目線での介護は神対応だとは思いますが、それを継続しなければならない介護者の気持ちや身体の強さと、被介護者からの反応は全くバランスが釣り合わないもので、現実的ではない気がします。理想論を読んでいると、もっと頑張らなければいけないのかと切なくなってしまいます…。

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