2018.08.09 |ヘルス    1

「年だから…」と放置しているその症状、もしかしたら【心臓弁膜症】?

 65才を超えてから、以前よりも疲れやすくなった。ちょっと動くと動悸がする。普通に動いていて「休憩したいな」と思うことが増えてきた――。

 こうした症状は、単なる「年のせい」ではなく、心臓弁膜症の兆候かもしれない。

「患者さんに『あなたは心臓弁膜症ですよ』とお話しすると、たいていの方が『まさか、そんなはずはない』と否定して、なかにはそのまま病院から帰ってしまう人もいます」

 こう話すのは心臓病のエキスパートで、東京ベイ・浦安市川医療センターハートセンター長の渡辺弘之先生。

 ごくありふれた症状ばかりであるために気づきにくく、じわじわと進行して心不全や死亡にもつながりかねない心臓弁膜症。早期に発見するには? どう対処すればいい? 渡辺先生に解説してもらった。

渡辺弘之先生

「作り置きなのにヘルシーな、心臓にやさしい『ハートレシピ』発表会」(8月1日・東京)に登壇し、「心臓と塩」を中心に、心臓弁膜症について解説した渡辺弘之先生(撮影/政川慎治)

心臓は1日10万回動く「ポンプ」

 心臓は、全身に血液を巡らせるポンプの役割をする器官だ。全身に酸素を届けた後の「静脈血」は、心臓の右心房と右心室を経て、肺に送り出される。肺で酸素を受け取り、「動脈血」となった血液は再び心臓に戻り、左心房と左心室を経て、大動脈を通って全身の細胞に酸素を届ける。

 この一連の動きは止まることがなく、ドッキンドッキンと1日10万回も拡張と収縮をくり返している。


  ポンプとして働くために重要な組織が「弁」だ。弁には、血流を一定の方向に維持し、逆流を防止するという働きがある。

 「心臓には4つの弁があります。動脈のほうでは、左心室の入り口に『僧帽弁(そうぼうべん)』、出口に『大動脈弁』があります。僧帽弁は心臓が収縮するときに、左心室から左心房に血液を逆流させないための弁、大動脈弁は心臓が拡張するときに大動脈から心臓への逆流を防ぐ弁です」(渡辺先生、以下「」内同)

 右心房と右心室の間には「三尖弁(さんせんべん)」、右心室と肺動脈の間には「肺動脈弁」がある。

 この4種類の弁に障害が起きて、血液の流れが悪くなる病気が「心臓弁膜症」だ。

 弁膜症は、どの弁にどのような障害が起きているかによって複数のタイプに分けられる。

 大動脈弁を例にすると、心臓が拡張するときにきちんと閉じないと、血液が左心室に逆流する「大動脈弁閉鎖不全症」が起きる。その反対に、心臓が収縮するときにきちんと開かないと、大動脈へ血液を送り出しにくくなる「大動脈弁狭窄(きょうさく)症」となる。

「どの弁にも障害が起きる可能性がありますが、心臓弁膜症がもっとも多いのが僧帽弁で、次は大動脈弁です。また、心臓血管外科や循環器内科で、治療法の開発が注目され始めているのが三尖弁です」

「年をとれば息切れくらい当然」と放置しないで

 心臓弁膜症の代表的な症状が「息切れ」だ。

 渡辺先生たち医師が利用する分類では、息切れは「I度」から「IV度」の4段階に分けられる。運動しても息切れしない状態がI度で、一番軽い状態。一方、安静にしていても息切れするのがIV度で、もっとも重い状態だ。
 
「普段からあまり動かない高齢者の場合、久しぶりにちょっと動いてハアハアしてしまう、つまりいきなりⅢ度の症状が出ることがあります。普段から動いていれば『この頃、ちょっと息切れするな』と気付きやすいのですが、たまにしか動かない人は『年齢のせいだ』と思い込んで、病院を受診しないのです。

 また、『じっとしていて息切れすれば病気だけれど、動けば息切れするのが当たり前』と、勘違いしている人も多くいらっしゃいます。その結果、IV度になるまで検査を受けず、心臓弁膜症の発見が遅れるケースが多々あります」
 
 心臓弁膜症の症状には、以下のようなものがある。

□以前より休憩が増えている
□以前より行動範囲が狭くなった
□体がだるく、疲れやすい
□動悸がする
□息切れの頻度が増えている
□胸の痛みを感じる
□めまいがする
□ときどき脚がむくむ
□食欲不振。または肝臓のあたりが重く感じられる
□気を失うことがある
(心臓弁膜症サイトより、渡辺先生監修のチェックリスト http://www.benmakusho.jp/

 1つでも心当たりがあったら、かかりつけ医か循環器科などの専門医を受診しよう。このチェックリストを持参して、弁膜症が心配だと話すのもいい。

「患者さんから心エコー検査(心臓の超音波検査)をしてください、と言い出してもよいのです。今はそれくらいのことで気分を害する医師はほぼいませんから、安心して検査を受けてください」

弁膜症 最大のリスク要因は「加齢」

 心臓弁膜症になりやすいタイプは「とくにない」と渡辺先生は言う。逆に言えば、誰にでも起きる可能性のある病気だということ。

「最近は、加齢にともなって弁が変性したり、石灰化したりして起きる弁膜症が増えています。また、心臓弁膜症の患者さんは若い人よりも65歳以上の高齢者が多いことも特徴です。65才をすぎたら、一度は心臓の検査を受けることをお勧めします」

 加齢のほかに、心臓弁膜症のリスクとなるのは「高血圧」、「弁の感染症」、交通事故などの「外傷」がある。

ポイントは「高度かどうか」

 心臓の弁にトラブルがあっても、その程度が高度かどうかが、治療の際の重要なポイントとなる。

「心臓は血液を送り出すポンプの役割があります。例えば、このポンプの力で10個の荷物を1階から2階に運んだとします。それが次の瞬間、5個が1階に戻っている。これがいわば『逆流率50%』で、高度な心臓弁膜症の一例です。荷物(=血液)が戻ってしまったら、もう一度運ばなければなりません。これを毎日10万回もくり返すのですから、心臓には大きな負担がかかるのです。

 心臓弁膜症が軽度な場合は、放置しても何も起こらないこともあります。しかし、高度な状態で放置すると、じっとしていても苦しいほどの心不全や死亡のリスクがあります」

演壇で説明する渡辺先生

「心臓弁膜症による心不全や死亡のリスクもある」と、その恐ろしさを強調する渡辺先生(撮影/政川慎治)

心臓弁膜症の治療・手術は?

 心臓弁膜症の治療には、3つのタイプがある。1つは薬によって症状を緩和する「保存的治療」、2つ目は外科手術で胸を開いて、弁の修復や交換をする「外科的治療」、3つ目は胸を開いたり心臓を止めたりすることなく、カテーテルという細い管を心臓に通して、人工の弁を設置する「カテーテル治療」だ。

 高度な心臓弁膜症になると薬では対応できないため、外科的治療かカテーテル治療によって、心臓弁を人工の弁に取り替える「人工弁置換術」を選択することになる。

 人工弁には、チタンなどの人工材料でできた「機械弁」と、牛や豚の生体組織からできた「人工弁」がある。国際的なガイドラインでは、「50~70代は機械弁か生体弁のどちらか、70才を超えたら生体弁に」というのが一般的だ。

機械弁

外科的治療で使用される機械弁

生体弁

外科的治療で使用される生体弁

カテーテル治療で使われる生体弁

カテーテル治療で使われる生体弁

カテーテルの先端にあるバルーン部分に装着された生体弁

カテーテルの先端にあるバルーン部分に装着された生体弁

「最近は50代でも生体弁を選ぶ患者さんが増えています。その理由はまず、ワーファリンという血液を固まりにくくする薬をのみ続けなくてよいこと。また、ワーファリンをのむ場合には食事制限があり、納豆やクロレラなどビタミンKを含むものを摂取できません。生体弁を選ぶと、このような制限なく食事できます」
 
 このような治療が選択できるのは、早期発見あってこそ。心臓の機能が衰えてからでは、人工弁置換術を受けても効果が期待できないこともある。65歳をすぎて、「そろそろ歳かな?」と感じたら、それを機に一度、心臓の検査を受けてみてはいかがだろうか。

取材・文/市原淳子

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  1. 青木幸助 より:

    早期発見、早期治療だな。

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