2018.11.29 |サービス    1

ケンタロウさんのリハビリを支える希望の車いす「COGY」に試乗してみた!

 先日、料理研究家・ケンタロウさんが自宅周辺を車いすで散歩する姿が報じられ話題を呼んだ。

 ケンタロウさんといえば、数年前まで 料理番組『男子ごはん』(テレビ東京系)で、TOKIOの国分太一さんと共演し、簡単で美味しいレシピと、気さくなトークで男性からも女性からも人気を博していた。ケンタロウさんが突然表舞台から姿を消したのは、2012年2月のこと。バイクで首都高を走行中、カーブを曲がり切れず、6メートル下に転落する事故を起こしたのだ。一命はとりとめたものの、頭部骨折により高次脳機能障害が残り、一時は両手両足の麻痺や言語障害などで寝たきりの状態に陥っていた。

 目撃されたケンタロウさんは、自身の足で「こいで」車いすを動作させているという。事故から6年、足こぎ車いすを使うことでリハビリ効果が格段に上がっているというのだ。

2012年に事故以来、療養生活を続けているケンタロウさん(撮影/高柳茂)

下肢麻痺の人の足が自然に動きだす「車いす」

 ケンタロウさんが愛用する車いすの名前は『COGY(コギー)』。

 見た目は車いすだが、足を置く部分が自転車のペダルのようになっており、乗っている人が足を踏み込むことで、前にも後ろにも動かすことができる。

 驚くことに、下肢麻痺の人でも、『COGY』に乗ると、足が自然と動き出し、自らの力で車いすを動かすことができるのだという。懸命のリハビリを続けても、一度失った機能の回復は難しいものだが、立って歩くことができない人であっても、『COGY』ならこぐことが可能なのである。

 ケンタロウさんが『COGY』をこぐ姿が報じられてから、『COGY』のメーカー、株式会社TESSには、足に障害を持った人やその家族、高齢者施設からの問い合わせが殺到しているという。早速、株式会社TESSの鈴木堅之社長に話を伺うとともに、『COGY』に試乗させてもらうことにした。

「原始歩行」という反射機能を利用

「私たちが歩くときには、脳から『足を踏み出せ』という信号が発せられます。信号は脊髄を介して足の筋肉に伝わり足を踏み出すことができます。しかし足の不自由な人は、脳からの指令が足に伝わらないために、足を動かすことができません。頚椎や脊椎を負傷した人が四肢に麻痺を起こすのはそのためです。脳の指示が届かないわけですから、厳しいリハビリを続けても、思うようには回復しないのは当然なのです。

 しかし、『COGY』に乗ると、生まれてから一度も自力で足を動かせなかった人でも、事故や病気で麻痺が起きた人でも、自然に右足、左足と交互に踏み込むことができます。このときの「こぐ」動作は、脳からの指示で行われているわけではありません。原始歩行 という反射機能を利用しているのです。

 たとえば赤ちゃんの上半身を抱きかかえて足を床につけると、足をバタバタさせてまるで歩くような動作をするのですが、 あれも原始的歩行の反射です。右足を動かしたあとは左足、左足を動かしたあとは右足というように、足が交互に動く反射行動が人間には備わっているのです」(鈴木社長、以下「」内同)

『COGY』に使われている原始歩行を引き出す 理論は、鈴木社長とともに『COGY』の開発に携わってきた東北大学名誉教授の半田康延博士によって構築されてきたものだ。半田博士は30年以上も研究を続け、薬や手術に頼らず神経調節を行う技術をニューロモジュレーション』と名づけた。

 その研究から、『COGY』の座面とペダルの距離や角度は、ニューロモジュレーションを引き出 しやすいように設計されているため、足に麻痺のある人でも、反射行動によって「こぐ」動作が可能になると考えられている。 パーキンソン病の患者、認知症の方たちの多くが、『COGY』に乗ることで、自力で移動し、生活の幅を広げているという。

身長150㎝の記者が『COGY』に乗ってみた

 実際、『COGY』に試乗をさせもらった。身長150cmの記者が試乗したのは標準型のMサイズ。このタイプは身長145~180cmに対応している。タイヤのサイズは車いすにしては小ぶり。

  タイヤには太めのチューブが採用されており、マウンテンバイクのタイヤを思わせる。メインの2本のタイヤ以外に、前後に2本、後ろにも小さな補助輪が2本ついている。乗降時に転倒する事故の多い車いすだが、前輪と補助輪があることで、どの角度から力が加わっても転倒が防げるようになっている。

 車いすは使用する人を座らせる際に 介護者が苦労することが多いが、サイドについたアームレストを後ろに倒すことができるため、乗降はスムーズ。ストッパーは座面のすぐ下にあり、座ったまま操作できる。ストッパーの強さを調整できるので、指先の力が弱い人でもロックの開閉が可能だ。

 座ってみると、一般的な車いすと目線の高さは変わりない。座面のクッションはほどほどに柔らかく、凹凸のある場所でもお尻が痛くなることはなさそうである。座ってペダルに足を乗せると、背もたれの角度、それにペダルの動く方向が絶妙に計算されていることがわかる。背もたれに体重を預けることで、ペダルに足が吸い付き、自然に動かしたくなる感覚が生まれるのだ。

 オリジナルのペダルは、ベルトがついており、足に力の入らない人の足をホールドさせるようになっている。オプションでさらに強固にホールドできるタイプと 、通常の自転車のペダルのようなタイプも用意されている。今回は自転車ペダルタイプ を装着して試乗した。

 ハンドルは自転車のグリップが縦についた形状。グリップを握り、円を描くように動かすだけで左右に曲がることができる。ブレーキは自転車同様に、握るタイプで操作は非常に簡単である。

狭いエレベーター内もラクラク方向転換

 もっとも驚いたのは、こぎながらハンドルを一気に切ると、その場で車いすが360度回転する点。一般的な車いすは、方向転換に場所を取るものだが、『COGY』はエレベーターの中や、狭い病棟のベッドの間でも楽に回転できるように設計されている。エレベーターに鏡がついているのは、車いすの人がバックでエレベーターから降りるためだが、360度回転する『COGY』であれば、正面を向いて乗降が可能というわけだ。

 また、介護者とのコミュニケーションも『COGY』では変わってくる。通常、介護者は車いすを後ろから押すものだが、『COGY』の場合、自力でこげる人が乗っているのであれば、介護者は横についてサポートすることができる。
 記者もこぎながら、鈴木社長に横についてもらったが、連れ添って歩いているような感覚で、介助されているという印象は一切ない。介護というより、一緒に散歩しているような気分になれるのだ。

プロレスラーハヤブサ 選手や“あの有名人”も愛用

 色は、ビビッドなイエローとレッド。今までの車いすの印象を大きく覆すおしゃれな外見である。なぜ、この2色を選んだのか鈴木社長に伺ってみた。

「車いすをつくろうと思ったときに、まず、介護施設や介護者の方たちに車いすの印象についてアンケートをとってみました。すると『冷たい』『見るだけで気分が暗くなる』『地味』というネガティブなものばかりでした。まずはイメージを払拭しなければと思い、スポーツカーのカラーを参考に、この2色を選びました」

 サイズは記者が試乗したMサイズ以外に、身長180㎝以上の人を対象にしたLサイズと、子ども用の小さなSSサイズ が用意されている。ケンタロウさんが使用しているのはLサイズとのこと。

「もともとはMサイズだけを販売していたのですが、競輪選手やプロレスラーなど、過酷なスポーツをされていてケガで歩けなくなった人からのオーダーが多く、大きなサイズをつくりました。試合中のケガで四肢麻痺になったプロレスラーのハヤブサ 選手も愛用されていました」

 デスマッチと呼ばれるような試合にも多く出場していたハヤブサ 選手はケガで動けなくなってから、落ち込み、家から一歩も出ない生活を送っていたそうだが、レスラー仲間から『COGY』をプレゼントされ、その場で足が動いたことに感動し、家の周囲を爆走するようになったという逸話が残っている。

 病気で他界されたが、24時間テレビのリレーに『COGY』で参加し、最期はリングの上に自分の足で立つまでに回復したというから、『COGY』のリハビリ効果は相当のものだと考えられる。

 ほかにも、100歳を超えて現役の医師を続けていたあの方や、今年逝去した著名な歌手も脳梗塞のリハビリに『COGY』を使っていたそうだ。

「車いすというと、移動手段として捉えますが、『COGY』は『自分で何かがしたくなる』道具だと考えています。難病で足が動かなくなった方が、神奈川から大手町のオフィスまで『COGY』で毎日通勤していたり、脳疾患で麻痺の残った会社社長が、現場に復帰して経営を続けているケースもありますし、マラソン大会に出場を果たしている人もたくさんいます。今年は、ホノルルマラソンに『COGY』で参加することが決まった方もいます」

教師時代の「車いすの教え子に何でもやらせたい」という思いが出発点

 鈴木社長の経歴を伺うと、驚いたことに元小学校教諭だという。

「山形県で 小学校の教諭 をしていたころ、自分のクラスに車いすで生活をする生徒がいました。何にでも積極的で、親御さんも一生懸命にサポートしていましたが、運動会や遠足では、見学や欠席を余儀なくされることがたくさんある。何でもやらせてあげたい、こういう子たちにたくさん笑顔になって欲しい、そう思っていた矢先、テレビで東北大学の先生たちが足こぎ車いすの研究をしているという映像が流れたのです。

 自分も若かったのですよね、いきなり東北大学に出向いて、大学の先生たちを質問攻めにしてしまいました。それからほどなく、大学でベンチャーを立ち上げるというので参加させてもらったのです。ただ、大学の研究というのは”商品をつくる”という考えではありません。当時の足こぎ車いすは重さ80㎏で一台の価格が130万円くらいで設定されていました。これでは一般の人が使うのは難しい。そうこうしているうちに大学のベンチャーが終了してしまったので、足こぎ車いすの研究は頓挫することになってしまいました。どうしても商品化したかったので、大学にかけあったところ、快くライセンスを許諾して くれたのです」

 2008年、小学校の教諭を辞め、株式会社TESSを立ち上げることになるのだが、右も左もわからないビジネスの世界。ニューロモジュレーションを最大限に引き出せる設計、軽くて安くてかっこいい、そして360度その場で回転できる足こぎ車いすをつくりたい。その情熱だけで鈴木社長は日本中を駆け回った。

「自転車メーカー、車いすメーカー、日本中の工務店に片端から掛け合いましたが、すべて断られました。それでもと何度も頭を下げ、ようやく試作品の製作に協力してくれたのが、プロの車いすテニスプレーヤー国枝慎吾選手の車いすを製作している株式会社オーエックスエンジニアリングでした。

 こちらが要望したものを遥かに超える、スタイリッシュな足こぎ車いすの図面が完成してきて感激しました。コスト、重量ともに軽量化され、すぐに商品化にこぎつけることができたのです」

カンヌ国際広告祭でのブロンズ賞を皮切りに数々の賞を受賞

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  1. かなん より:

    素晴らしいですね。
    足こぎ車椅子についてはニュースや小さな記事など(私はテレビを持たないので)5回ほど読みました。
    この記事からは社長の情動が周りをも巻き込み大きなうねりとなってきた様子が感じられ、気付いたら涙がこぼれていました。

    信頼する人にどんなに肯定されても自分でも頭でわかっている事であっても、自分で出来たという事にまさる一歩はなく、その一歩で人生は色付きます。
    車椅子の枠を越え、認知症や体を動かす事が困難なみなさんへのアプローチも素晴らしいと思いました。“自分にも出来る”という手応えと自信を得る一歩、それを促すツール。夢のような素晴らしいものと思います。
    この記事からは社長の情熱や佇まい、こういう方が存在するという事実に感銘を受けました。良かったです。
    感謝します。

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