2019.01.02 |ヘルス   

寿命100年時代を生きるために~天皇陛下執刀医インタビュー「若い人に増える心臓疾患」

「平均寿命は年々延びているが、がんと心臓疾患による死亡数は、一向に減少の兆しが見えず、しかも、心臓病は高齢者だけではなく、20~30代の若い世代にも増えています」

 こう語るのは、通算8000例以上の手術を担当し、天皇陛下執刀医としても知られる順天堂医院院長の天野篤医師だ。新著『100年を生きる 心臓との付き合い方』(セブン&アイ出版)を上梓した天野医師に、寿命100年時代を健康に生きるための心臓との付き合い方や、突然死を招く心臓病から身を守る生活習慣について聞いた。

胸を抑える女性

若い世代にも増えている心臓疾患(写真/アフロ)

ゆとり世代の生活環境が一因か!?

「心臓病は高齢になって発症する人が多いですが、成長過程での食事や睡眠などの生活習慣が大きく左右し、20~30代の若い世代でも発症することはまれではありません。心筋梗塞や致死性の不整脈で命を落とすケースは少なくないんです」と天野医師は警告する。

 弁膜症や大動脈解離など、今の高齢者が若かった頃には見られなかった病気が、若い世代に増えているというのだ。原因は、遺伝子性の不整脈疾患や心臓のつくりが少しだけ違うといった体質的なこと以外にも、生活習慣病に起因する高度の肥満や糖尿病など、さまざまだという。

「ゆとり世代に代表される若い患者さんは、モノがあふれ、不自由がない中で育ってきたためか、自分に対しての厳しさが感じられず自己管理ができない人が多い印象です。まず食環境が全く違います。今の70代以降の人は、夜10時以降は主食を食べない方は多くいますが、20~30代の人は、24時間食べ物を手に入れられる環境に育ち、深夜でも食べる生活習慣により、病気の発症の仕方も変わってきているといえます。

 睡眠環境も大きく違います。情報通信の発展により、若い世代は睡眠と覚醒のバランスが乱れていますね。若い世代は心臓のつくりが脆弱になっているのも特徴で、栄養状態はよくなったため体のつくりは大きいですが、昔に比べて日常的な運動量が落ちているため、体の成長に心臓のつくりが追いついていない印象です」

「“若いから心臓病は大丈夫”ではなく、調子が悪いと感じたら、早めに循環器専門医に診てもらうことが命を守ることにつながる」と天野医師。

 加えて、体の弱い部分は遺伝の可能性が高いことから、家族に心臓病の人がいる人は、心臓ドックを受けることを勧める。

「両親や祖父母といった近い家族に心臓疾患で亡くなった人や、心臓手術を受けた人がいないか確認をして、2人以上の突然死があるようなら、遺伝性の心臓疾患は濃厚です。また、両親がともに心臓疾患の人は、そうでない人に比べて2倍も心臓疾患を発症しやすいという研究報告もあります。

 血縁が罹った心臓疾患を招いた原因を確認して、自分の中に隠れている不良因子を、あらゆる手段を使ってあぶり出すといいですね。たとえば両親が高血圧や糖尿病の場合、まずはそこにターゲットを絞って受診し、そこからそれ以外の異常がないかも探してもらいましょう。予兆がある人も早めに心臓ドックを受けましょう。心臓に異常がない人でも80才を過ぎたら受けた方がいいですね」

心がけるべき生活習慣、食事、運動

 心臓病発症リスクを下げるために心がけるべき生活習慣、食事、運動とは──。

 食事に関して、即やめるべきは「ドカ食い」だという。

「ドカ食いは、肥満と体質的な糖尿病を生み、さらには心臓病を発症しやすくします。心臓病の発症には食事が大きく関わっているので、心臓病の代表的なリスク因子である高血圧、高血糖、高LDLコレステロールを招かない食事をしてください。血糖値が高い状態が続くと、血管を傷めたり、動脈硬化が進んで狭心症や心筋梗塞の引き金になってしまいます。いきなり食習慣を変えられなくても、最低限、ドカ食いだけはしないようにしてください」

 睡眠不足も、心臓病の発症率を高める原因となる。

「1日の睡眠時間が6時間未満の場合、狭心症や心筋梗塞の有病率が上がるといわれています。私の経験でも、心臓の手術を受ける患者さんには、夜型の生活をしている人が年齢問わず多い印象です。交感神経が優位になる時間が長くなると、それだけ神経伝達物質のアドレナリンが大量に分泌されて血圧も上昇します。心臓を守るためにもしっかりとした睡眠をとるようにしてください」

 心臓の機能を衰えさせないよう、運動で適度な負荷をかけて、心臓の筋肉を鍛えることも大切だ。

「加齢により筋力が衰えてくると、『サルコペニア』となり、心臓でも心筋が薄くなって機能も衰えてしまうため、適度な運動は非常に重要です。心臓病にかかっている人こそ、病気を自己管理し、お医者さんにも管理してもらいながらリハビリをして、適切な負荷をかけて心臓を鍛えてください。心臓手術を受けた患者さんは再発予防のためにも、負荷をかけすぎないよう注意をしながら有酸素運動を心がけてください」

運動強度は「心拍数が130」が適切

順天堂医院 心臓血管外科医の天野篤医師

心臓を守る生活習慣について語る、天野篤医師

 運動強度の目安は“心拍数が130”を超えないよう、心拍数をモニターしながら体を動かすことが大切。

「少しずつ、10分間くらいかけて少しずつ心拍数を上げていけば安全ですね。心臓のトラブルを抱えている人は、最大運動負荷の一歩手前で止めること。冷え込む時間帯は避けて行ってください」

 心臓病を抱えている人でもスキーやゴルフ、水泳をしても大丈夫な場合もあるという。

「サルコペニアにならないためにも、やれる運動をすればいいのです。無理なく運動するなら、ラジオ体操がいちばんいいですね」

心臓の異常を示す「6つの危険サイン」

 大きな発作が出る前には、心臓から“サイン”が出ていることがほとんどだという。代表的な初期症状は、

【1】胸痛
【2】動悸や脈拍の異常
【3】息切れや呼吸困難
【4】むくみ
【5】めまい
【6】一時的な失神

 などだという。

「普段とは違う、なんかちょっと変だなっていう体の変調が繰り返し起こるのもサイン。胃が重いなど、直接心臓にサインが現れないこともあります。なかでも注意が必要なのは、激しい胸痛です。左の肩や腕、あごやみぞおちに痛みが出ることも。強い痛みとともに吐き気やめまいを感じたり、冷や汗が出るのは、ショック状態に陥りつつある危険な状態です」

 動悸や脈拍の異常も不整脈の恐れがあるため、甘く見てはいけない。突然の全身の倦怠感にも要注意。普段から自分の心臓の状態を把握しておくためにも、朝起きてすぐ、呼吸を整えてから脈拍を計る習慣をつけるようにしたい。

「成人の場合、安静時に1分間に60~80回。100を超える、もしくは50を下回る場合や、血圧が高い状態が続く場合には受診をしてください」

突然死のサインとは?

 突然死する危険がある主な心臓疾患は、「急性冠症候群」「大動脈瘤破裂や大動脈解離」「致死性不整脈」の3つ。

「2016年に大阪で起きた乗用車の暴走による死傷事故が起こりましたが、これは、亡くなった運転手が急性大動脈解離を起こしたのですが、何のサインもない突然死だったのです。心臓のまわりに血が集まって秒単位で意識が薄らいでいくため、タイミングと場所が悪いと助からないのです」

 大動脈瘤破裂と急性大動脈解離は、動脈硬化や外傷などにより一部が膨らみ“こぶ”ができてしまうもので、急激に膨らんで破裂すると突然死する可能性が高い。

「食生活の欧米化や高齢化社会の加速により患者は増えていますが、多くの場合、自覚症状がなくとても危険。防ぐには、高血圧を放置しないことが重要です」

 急性冠症候群は、冠動脈に形成された粥腫(プラーク)が破綻して血流が途絶える虚血が起こり、脳に血液を送ることができなくなって死に至るもので、脂質異常症、高血糖、高血圧が危険因子だ。

「致死性不整脈は、主な自覚症状として動悸や脈が抜ける感じがありますが、そうした症状や心電図の異常が指摘されている人は、放置せず受診を。本当に突然、急に息切れしてバタンと倒れてしまうのは、糖尿病ベースの人が多いですね」

心臓病につながる意外な病気

 高血糖や高血圧だけでなく、高尿酸値や虫歯といった意外な病気も心臓病につながるという。

「虫歯を放置していると、虫歯菌が血液にのって心臓にまわってしまいます。心臓に軽い弁膜症があるなど、血流の乱流が起こっているところに付着しやすく、さらに悪化させます。弁が壊されて虫歯菌の塊が体中にまき散らされると、脳の血管で詰まって脳梗塞になったり、冠動脈で詰まれば心筋梗塞にもなります。

 歯周病も心臓疾患につながります。手術を受けるほど心臓が悪い患者さんは、口腔内の健康状態が悪いケースが多くあります。最近は心臓や消化器の手術、がんの手術や抗がん剤治療といった大きな治療を受けている患者さんに口腔内ケアを行うと、入院日数が短縮されるというデータが発表されています。病気の予防のためにも、意識して口腔内ケアをしてください」

順天堂医院 心臓血管外科医の天野篤医師
撮影/疋田千里

■天野篤(あまの・あつし)
1955年生まれ。埼玉県出身。心臓血管外科医。順天堂大学医学部附属順天堂医院院長。日本大学医学部卒業後、医師国家試験合格。関東逓信病院(現・NTT東日本関東病院)、亀田総合病院、新東京病院などを経て、2002年、順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月、東京大学医学部附属病院で行われた天皇陛下の心臓手術(冠動脈バイパス手術)を執刀。2016年4月より、順天堂大学医学部附属順天堂医院院長。心臓を動かした状態で行う「オフポンプ術」の第一人者で、これまでに8000例を超える手術を執刀し、98%以上の成功率を誇る。


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