2019.02.28 |暮らし    1

「防水シートでぐるぐる巻き」体験レポ【身体拘束】の現実

 新人、中堅、ベテラン。どんな業界でも現場には様々なキャリアのスタッフが混在する。新人は中堅やベテランの姿を見て仕事を覚える。特に介護は現場に出て、体を使って身につけるスキルが多く、先輩からの指導は欠かせない。ただ、キャリアが長いからといって、いつも正しい指導がなされるかといえば、そうでもないこともあるようで……。

→「拘束されて居室に放置」記者が体験レポ【身体拘束】

利用者が防水シートで簀巻き(すまき)状態に

 前回から引き続き、介護評論家の佐藤恒伯氏に聞く。

佐藤恒伯氏

佐藤恒伯氏。介護付き有料老人ホームでケアスタッフとして働き、その後は新規ホームの立ち上げやコンサルティング業務に従事。現在は介護評論家として活動する

 佐藤氏はかつて大手の介護関連会社に在籍していた。これから紹介するのは、有料老人ホームのM&Aにたずさわっていた頃の体験談だ。(以下、「」内は佐藤氏)

「とにかく驚きましたよ。ホームの入居者さんが防水シートで簀巻き(すまき)にされているのですから」

防水シートで体を簀巻きにされた状態

佐藤氏に当時を再現していただき、筆者が実際に体験

ベッドの上で簀巻きにされている人

一見、おむつを触らないようにと工夫された対処の様だが…

 介護現場で働くひとたちの多くは『身体拘束は避けるべきである』と考えている。またどういった行為がNGで、拘束の道具にはどういうものがあり、どういった場合に拘束が許されるのか、基本的なルールは現場の誰もが知っている。

「数年前のことですが、仮に都内の有料老人ホームAとしましょう。そこにはベテランの看護師と、この人に忠実に従う3人のベテラン介護職員がいました。現場では『四人組』と呼ばれていました」

 ホームAでは利用者に対する暴言や身体拘束が横行していた。ネットの口コミなどで悪評判が広がり、経営不振に陥った同ホームに立て直し要員として送り込まれたのが佐藤氏だった。

「私が入る少し前から身体拘束ゼロに向けて、ホーム内でセミナーを開催するなど、環境改善に取り組んでいたようなのですが、なかなか実績が上がっていない状況でした。原因は“四人組”の存在です」

ベテランバイアスの罠

 当時ホームAには重度の要介護者が複数名入居しており、全員がおむつを使っていた。うち数人に、おむつを脱いだり中に手を入れて便をいじってシーツを汚すなど認知症に特有の行動が見られた。

「防水シートの簀巻きは、おむついじりを防止するために“四人組”の頂点にいるベテラン看護師が提案したものでした」

 連載の第4回目でもお伝えした通り、おむついじりをさせないために使う拘束の道具につなぎがある。上下の継ぎ目がないのでおむつを触ることができない。

「ホーム内で行われていた業務改善のセミナーでは『つなぎは最終手段。その前に別の方法を考えましょう』といった講義がなされていたのですが、ベテラン看護師は『つなぎがダメなら防水シートだ』となってしまった。決して悪意ではなく、よかれと思ってやったことでした」

防水シートを体に巻き付けるやり方を示した図

イラストのようにシートを敷き、体を転がして巻きつける

 実際に体験してみてわかったのだが、つなぎと防水シートの簀巻きでは、後者のほうがずっと窮屈だ。いったん巻かれると健常者でさえ身動きが取りにくい。

 ところがホームAの現場では「拘束なし」→「簀巻き」→「つなぎ」の序列が作られ、“四人組”が中心となり積極的に運用していた。

「中には違和感を覚える職員もいたのですが、“四人組”の勢力が強すぎて、直言できる者はいませんでした」

拘束しないことが、被介護者・スタッフ双方の利益になる

 介護と医療は同列で両者の間に主従関係はない。とはいえ、介護現場では介護スタッフが医療従事者の指示を仰ぐ場面が多々ある。自然、医療が主、介護が従の構図が作られやすくなる。要するに看護師は介護士より上の立場という認識だ。ホームAもその例にもれず、ベテラン看護師に向かって、他の職員が口出しできる雰囲気ではなかった。施設長ですらこの看護師の言葉には逆らえなかったという。

「目には目を、ではありませんが、それまでの施設長を別のホームに配置換えし、新たに看護師の資格を持つ施設長を据え、現場の改革を押しすすめました」

 新たな施設長をトップに、まずは身体拘束の問題点について改めて問い直した。

 拘束しないことが被介護者と介護スタッフ双方の利益につながるという事実を過去の実例を挙げて説明し、意識の統一を図った。

「おむつをいじってしまうのは、要するに気持ち悪いからです。履き心地、交換のタイミング、かぶれのケア。それらをきっちり管理することで多くの場合は問題行動を抑えることができます」

 新任施設長は被介護者の排尿・排便のタイミングについてデータを取り、各々の排泄リズムを把握させた。リズムを理解すれば排尿・排便の直前、もしくは直後におむつの交換ができる。半年ほどすると、おむついじりが原因の諸問題は大部分が改善された。

ベテランの知恵「尿パッドの重ね使い」の禁止

 改革をすすめていたある日、利用者の家族から以下のようなクレームが入った。

ーー母の太ももにひっかき傷がある、どういうことだ。

「ちょうど老人ホームでの職員の虐待問題が世間を騒がせている時期でした。私も当初は虐待を疑ったのですが、ひっかき傷の原因は別のところにありました」

 件(くだん)の入居者は簀巻きの下におむつをつけている状態だ。

 お腹の部分をテープで止めるタイプのおむつの中に、尿パッドを1枚だけ敷いて使うことはよくある。

 ところがホームAでは尿パッドを3〜4枚重ねて使っていた。1枚目のパッドが汚れれば、それを引き抜くだけで入れ替えの手間が省ける。

 看護師からすれば「ベテランならではのテクニック」だが、間違った使い方だ。

「今でも時々見られるのですが、尿パッドの重ね使いは絶対におすすめできません。パッドの内面は吸水性の構造ですが外側は水分を逃さない素材でできています。これを何枚も重ねて使えば当然蒸れます。防水シートで覆っているのでなおさら。蒸れた皮膚は傷つきやすくなる。利用者さんの内ももの傷はパッドを抜き取るときにギャザーがひっかいてできたものでした」

おむつの中に尿パッドを3枚重ねているイラスト

一見便利なように思える、おむつの中での尿パッド重ねだが…

 自宅介護でも「楽だから」と尿パッドの重ね使いをする例が見られる。だが、実際には重ねて分厚くなったおかげで外側のおむつに隙間ができ、漏れの原因にもなりやすい。かさばって不快だから脱いでしまう人もいる。

 ホームAでは新施設長の指示のもと、防水シートの簀巻きやパッドの重ね使いなどの悪癖を一掃することができた。

「ホームAは、今では優良ホームとして知られるようになっています。とはいえ、拘束がまったくのゼロかというとそうではありません。どうしても、ということはあります。ただ、そうした場合でも現場の全員が拘束以外の方法を最後まで考えることが大切です」

被介護者の自由を奪う行為は全て拘束!?

 一つひとつの案件について、『切迫性』『非代替性』『一時性』の3要件(第3回を参照→第3回【身体拘束】を考える 言っても伝わらないから…でいいのか)を満たし、担当の医師が許可した場合についてのみ、身体拘束は行ってよいことになっている。

「身体拘束の概念は非常に広く、全ての行為をピックアップしてルールブックに書き込むことはできません。厚労省が示す11種類の拘束(第1回を参照→第1回 介護の知らない世界【身体拘束】その1 )も例を挙げているだけで、全てではありません。私自身、『被介護者の自由を奪う行為は全て拘束』だと考えています。現場の一人ひとりがしっかりした判断基準を持っておく必要があるのです」

 ホームAの例は、「ベテラン看護師のやっていることだから間違いないだろう」という思いが悪い方向に流れたものだ。もちろんベテランでなければ解決できないことはたくさんある。ただ、過信すると思いもしなかったミスや見過ごしが発生する。こうしたベテランバイアスの罠はどの世界にもある。

 時々立ち止まって考えることが罠にハマらないコツといえそうだ。

※次回は3月7日公開予定。

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撮影・取材・文/末並俊司

『週刊ポスト』を中心に活動するライター。2015年に母、16年に父が要介護状態となり、姉夫婦と協力して両親を自宅にて介護。また平行して16年後半に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を修了。その後17年に母、18年に父を自宅にて看取る。現在は東京都台東区にあるホスピスケア施設にて週に1回のボランティア活動を行っている。 

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  1. より:

    勤務先老健で、まさに同じ事が起こっています。私は看護職ですが、介護のこの行為に夜勤の度に外して回っています、いっこうにやめる気はない様子で、悪びれもしません。介護の上下関係で弱い立場の人が、従わざるおえないようです。記事を読み
    然るべき対応をしようと決めました。

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