2019.06.28 |暮らし   

認知症と近所の付き合い方|なぜ認知症の母が町内会の班長になったのか?

 離れて暮らす認知症の母を遠距離で介護している、作家でブロガーの工藤広伸さん。工藤さんは、実家と東京を行き来し、さまざまな介護保険サービスや家電などのツールも駆使しながら、母の生活を支えている。最近、母の住む町で思いがけないハプニングが起こったという。今回はその顛末を教えてもらった。

一軒家が並ぶ

認知症の人と家族が日々生活する地域で起こる、思いがけないこととは(写真はイメージ)

 * * *

 盛岡で暮らす母のヘルパーさんから、わたしにこんな連絡がありました。

「本日のお宅を訪問の際、町内会班長の当番札がありましたので、玄関先にかけておきました」

認知症の母が町内会の班長になった!? 

 認知症で1人暮らし、誰かの介助なしでは外を歩けない母。母に班長の仕事が務まるはずがありません。しかもお隣さんには、母の認知症の件を伝えていたにも関わらず、順番通り班長の仕事が回ってきてしまったようです。

 なぜ、母は町内会の班長になってしまったのか…。これは緊急事態だと思いました。

 町内会の班長の役割は、次のとおりです。

1.町内会費の集金
2.町内会員の異動報告
3.会員や家族の死亡報告
4.連絡文書の戸別配布
5.回覧板の作成
6.ゴミ集積所の掃除
7.街灯故障の連絡

 早速、トラブルが発生しました。

 最初に起きた問題は、回覧板です。前班長であったお隣さんは、なかなか回覧板が回ってこないので、

「先日引き継いだ回覧板、そろそろ回したほうがいいですよ」

 と心配して、母に声をかけてくださったのです。班に所属する住民は約20人。回覧板が回らなければ、地域への連絡が途絶えてしまいます。

 たまたまヘルパーさんがこのやりとりを聞き、都内に居たわたしに連絡をくださったので、状況を把握できました。

 もしヘルパーさんが不在で、母1人で対応していたら、お隣さんとの会話を忘れ、回覧板はそのままになっていたと思います。

 わたしも予定があり、すぐには帰省できません。さて、どうしよう…。途方に暮れました。

遠距離では対処が難しい

 都内に居たわたしは、まず、岩手に居る妹に実家へ行ってもらい、班長の仕事に必要な書類一式をどこかへ隠すよう、電話で依頼しました。

 母が、見たこともない町内会関連の書類を不思議に思い、廃棄する可能性があったからです。

 次に、町内会の事務局の電話番号を妹に調べてもらい、わたしは東京から電話をしてみました。ところが、電話が全く通じません。

 子育てで忙しい妹に、班長の調整を依頼できなかったわたしは、結局、盛岡へ行き、これら問題を解決することにしました。

 事務局宅を訪問するも、やはり不在。困ったわたしは、町内会のトップである町内会長に電話をしました。会長は、わが家の事情を汲んではくれたのですが、班長を誰がやるかはご近所と話し合いで解決して欲しいとの返事。

 そこで、わたしは前班長であるお隣さん宅を訪問し、今回の件について聞いてみました。

なぜ母は、班長の仕事を受けてしまったのか?

 回覧板のことを気にかけてくれたお礼を言いながらも、わたしには大きな疑問がありました。それは、母が認知症であることを知っているお隣さんが、なぜ班長の仕事を引き継いでしまったか、ということです。

 お隣さんは、こう言いました。

「お母さまが、『班長の仕事やります』と言ったので、引き継ぎました」

 なるほど。この母の対応は、アルツハイマー型認知症の方に多いと言われる「取り繕い」です。「取り繕い」とは、認知症の人が忘れてしまったことを覚えているかのように振る舞い、相手の話に上手に合わせ、その場の会話を成立させようとすることです。

 母にも「取り繕い」の症状があるため、その場の会話を成立させるために「班長やります」と答えてしまったのだと思います。

 母と何年も生活を共にしているわたしならば、すぐ「取り繕い」と判断できます。しかし、玄関先で母と数分話した程度で、「取り繕い」という症状を知らなければ、班長の仕事が務まるかもしれないと、お隣さんが考えても不思議ではありません。

認知症の症状について周囲に伝えるときは、分かりやすく

 自分の家族が認知症であることを、近所に伝えるべきかどうか悩んでいる方は多いと思います。わたしは伝えたほうがいいと思いますが、必ずしもすべての人が認知症について詳しいわけではないという前提で、分かりやすく伝えたほうがいいと、今回の事件を踏まえて思いました。

 具体的には、生活していくうえでできること、できないこと、ひとり歩きや火災といった考えられるリスクを、町内会やご近所、地域の身近な相談相手と言われる民生委員に伝えておくといいと思います。

 家の事情を周囲に伝えておくことで、地域の見守りの目が届くようになるかもしれませんし、地域の会合等へのお誘いが増えるかもしれません。

→認知症になると親戚や近所の人は付き合い方をどう変えるのか

 町内には、1人暮らしで体が不自由な高齢者の家が何軒かあり、班長の仕事や地域行事への参加が免除されていました。こういった家が町内でも増えていますし、全国的にも増えていく傾向にあるので、地域の理解も得られやすくなっていると思います。

 一方で、個人情報保護法の施行によって、昔ほど家庭の事情に踏み込めなくなったと、町内会の方が言っていました。町内会からのアプローチを待っているだけではなく、介護家族側からも歩み寄る姿勢が大切です。

 2019年6月、政府が認知症の人が地域で安心して暮らせる「共生」を指針として発表したばかりです。認知症の人が住み慣れた自宅で長く生活できるよう、地域の力を借りてみてはいかがでしょうか?

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

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