2019.07.09 |   

“ケトン体”を増やしてがんや認知症の予防も|食事で究極のアンチエイジング

 医療にかかわる多くの研究者たちは「人間は自然の一部」と捉えている。人の臓器も細胞も、自然が作り上げた最高傑作。その複雑な機能の解明は、学者たちの永遠の課題となっている。

 私たちがふだん服用している薬も抗がん剤も、バクテリアや植物、動物など、ほとんどのものが自然の中からアイディアをもらい、開発されている。今回ご登場いただく医学博士の佐藤拓己さんの研究課題も、海のバクテリアからヒントを得た化合物。食を通じたアンチエイジングを目指し、バクテリアが大量に持つ「ケトン体」に注目し、自らも食事の改善に努めてきた。「食」がどんな効果をもたらすのか、佐藤さんに聞いてみた。

 10年前に乳がんを患い、手術、抗がん剤治療、ホルモン治療等を行った本誌記者(59才・その後、再発なし)が、各種治療とともに真剣に取り組んだのが「食生活の見直し」。食事、運動、睡眠など日々の生活が、がん予防にいかに大切か、自らの体験を踏まえつつレポートします。

ケトン体は薬よりも優れているのか?

糖質を抑えたヘルシー料理の数々が並んでいる

ケトン体を増やすために糖質を抑えた料理を食べると良いという

─―ケトン体に注目したきっかけは何ですか?

佐藤さん(以下、敬称略) ぼくは以前より、どうやったら人間の脳の神経細胞が死なずに保てるのか、長年研究してきました。ところが薬を開発してもうまくいかない。試験管の中で効いても、実際に人間がのむと効果がないんです。その理由は、もともと脳には異物を遮断する「脳血液関門」という仕組みがあって、どうしても薬物が脳まで到達しない。

 例えば認知症やアルツハイマー病などの薬も、この脳血液関門を越えることができず効果が出ないんです。何か有効な物質はないものかと行き着いたのが「ケトン体」でした。ケトン体は体内で脂肪などが変化し、エネルギー源として利用される物質。このケトン体濃度が圧倒的に高いのが野鳥やコウモリです。彼らは長生きで、死ぬ直前まで飛行を続け、運動能力も落ちません。研究を続けるうちに、「ケトン体は薬物よりも優れている」と思えてきたんです。

─―どのように優れていると?

佐藤 まずなんといっても、薬物が越えられない脳血液関門を、フリーパスで越えられる化合物であるということです。例えば、薬が脳に到達できる割合は多くて数%、ほとんどがゼロです。ところがケトン体は25%も到達できる。脳に届くことにより、認知症やアルツハイマー病に劇的に効いたとの報告も多数あります。さらに、ケトン体が増えると体のエネルギーをコントロールする細胞「ミトコンドリア」が活性化し、それによって、がんを抑制する効果が非常に高まることもわかってきました。

糖質を控えて脂肪を摂る

─―では、どうやってケトン体を取ればいいのでしょうか?

佐藤 私たちの血液中にもケトン体は存在しますが、その濃度は一般的に約0.1ミリモル(物質濃度)。この濃度では糖尿病や認知症のリスクが高くなります。ところが砂糖や炭水化物などの糖質を控えて、代わりにココナッツオイルやオリーブオイル、バター、肉などの脂を多めに取ると、ケトン体が増えてきます。ケトン体が1ミリモルになると、脳のエネルギーの3~4割がケトン体、残りがブドウ糖で効率よくハイブリッドでまかなわれ、認知症やがん抑制に効果が表れます。

─―1ミリモルにするためには、どうすればよいのですか?

佐藤 実は5年ほど前にぼく自身、体の不調があって、ケトン体を増やすために食事を改善しました。これがかなり効果があって驚いたんです。例えば一般的に、大人の日本人男性の食事の摂取量は、1日最低でも約2000kcal取っています。その栄養は、炭水化物が1200kcal、たんぱく質が400kcal、脂肪が400kcalといわれています。ぼくはそれを、炭水化物400kcal、たんぱく質400kcal、脂肪1200kcalにするよう心がけました。

長寿の鍵はケトン体にあり

─―具体的にどのような食事を?

佐藤 まずは間食をしないようにして、食事でも糖質の多い食品を控えました。主食は1日1回だけに。時にはゼロに。そして糖を減らす代わりにしっかりと脂肪を取る。脂肪が足りないと思ったら、コーヒーにバターを入れた「バターコーヒー」を飲むなどして調整しました。するとあっという間にケトン体濃度が1ミリモル以上にアップしたんです。特に頭がさえ、以前より記憶力や集中力が増しました。そして何より、前向きな気持ちでいられる日が増えた。今もさぼらなければ、ケトン体濃度を1ミリモルぐらいにできます。

─―ケトン体を増やす「食」は長生きの秘訣であると?

佐藤 ぼくは長寿の鍵は「ケトン体」だと思っているんです。例えばストレスは、がんを誘因する要素の1つです。気分がのらなかったり落ち込んだりすることを、人間関係や仕事の忙しさなどの問題にしがちですが、私はそれよりむしろ「食」に原因があるのではないかと考えています。食を正してケトン体を増やすことで脳エネルギーが活性化し、日々の幸福感を得ることができる。精神と体の好循環がなければ健康な長寿は実現できません。もっと「食べ物」に向き合って、なぜ「食べ物」が寿命を延ばすのか興味をもっていただけるとうれしいですね。

 佐藤さんは現在、塩濃度の高い海に生息するハロモナス属のバクテリアで生産する「ポリケトン粉末」を研究開発中。「食べてケトン体を増やせれば、無理な糖質制限も必要なくなります。がんや認知症の救世主になればと日々研究に没頭しています」(佐藤さん)。

実践、検証!ケトン体を増やした献立

 佐藤さんがケトン体を増やすために実践した食事の一例。5年前、夕方になると疲れて体調が崩れるという糖尿病初期と思われる症状を発症、食事を改善した。

 当時51才、体重94㎏、身長178cm。朝昼晩の食事のカロリー2000kcalのうち、炭水化物400kcal、たんぱく質400kcal、脂肪1200kcalにすると、1か月間でケトン体が0.1ミリモルから1ミリモルに上昇。ケトン体濃度が上がるとすぐに体の不調が治った。

 ただし、やせた女性には効果がないので注意。体重が平均、または少ない女性は2000kcalをキープした上で、ふだんより糖質を減らしその分を脂肪で補うようにする。

「特に女性の場合は急激に食生活を変えると体調を崩す人が多いので、ゆっくりと着実に糖質から脂肪に変換していくとよいでしょう。外食した時だけスイーツを食べるなど、無理なくできる範囲で糖質制限を行ってください」(佐藤さん)

●1日の食事例【1】
・朝

卵焼きが皿にのっている

卵焼き

 卵2個分の料理。卵焼き、ゆで卵など簡単にできるものを食べる。

・昼

ステーキとブロッコリーサラダがワンプレートに盛りつけられている

ステーキと野菜

 ご飯やパンなどは食べず、ステーキや魚料理などをサラダと一緒に食べる。

・夜

1人前のしゃぶしゃぶ鍋と豚肉、ほうれん草がテーブルにのっている

しゃぶしゃぶ

 豚肉とほうれん草(1束)のしゃぶしゃぶ。

●1日の食事例【2】
・朝

ベーコンエッグとゆでたブロッコリーが皿に盛りつけられている

目玉焼き、ベーコン、ブロッコリー

 ベーコンエッグ+ブロッコリー。卵は2個分。ベーコンは約2枚。

・昼

コーヒーとソーサーにのったバターがテーブルに置かれている

バター入りコーヒー

 バター入りコーヒー。バターは無塩のものをスプーン1杯分入れる。

・夜

焼き鮭とブロッコリーが皿に盛りつけられている

焼き鮭とブロッコリー

 鮭(2切れ)とブロッコリーのみそマヨネーズオーブン焼き。

糖質を抑えたヘルシー食!「江戸料理」のレシピ

●貝焼

網の上でホタテ貝が焼かれている

貝焼き

<材料>(2人分)

帆立貝……2枚
好みの魚介類(あわび、えびなど)……適量
煎酒(作り方は写真キャプション参照)……適量

煎り酒がドレッシングの容器に入っている

煎酒は、日本酒200ml、梅干し2個、かつおぶし10gを弱火で煮詰めて作る。多めに作って冷蔵庫で保管しておくと便利。

<作り方>

【1】帆立貝の殻の上に材料を並べて炭火にかける。
【2】煎酒をかけて、表面がぐつぐつ煮え始めたら火から下ろす。

●小丼

大豆などがたっぷり入った小丼が盛りつけられている

小丼

<材料>(2~3人分)

干ダラ(乾物)……3~4切れ
大豆(水煮)……140g
削りかつおぶし……適量
しょうゆ……大さじ2

<作り方>

【1】鍋に干ダラと水100ccを入れてもどす(もどし汁も使う)。
【2】【1】に大豆の水煮、もどし汁、削りかつおぶし(大量に入れるとおいしい)、しょうゆを入れて煮る。
【3】器に【2】の具材をすべて盛りつける。

●粉肉桂(にっき・シナモン)入り利休あへ大根

利休あへ大根が盛りつけられている

粉肉桂入り利休あへ大根

<材料>(2人分)

大根の輪切り……4枚
黒ごま……大さじ2
みそ……大さじ1
シナモン……小さじ1

ボウルで黒ゴマとシナモンを混ぜている

黒ごまにみそとシナモン(粉肉桂)を混ぜる。シナモンは漢方薬にも利用され江戸時代に流行した食材。

<作り方>

【1】大根を炭火、またはフライパンで焦げ目がつく程度に弱火で焼く。
【2】黒ごまにみそとシナモンを混ぜてペースト状にする。
【3】大根に【2】のペーストをつけて食べる。

●ほうれん草の白和え

ほうれん草の白和えが器に盛りつけられている

ほうれん草の白和え

<材料>(2~3人分)

木綿豆腐……200g
ほうれん草……1把
にんじん(3cmの細切り)30g
こんにゃく(3cmの細切り)100g
ひじき……20g
〈A〉
白ごま……大さじ1
しょうゆ……大さじ1
酒……少々
かつお昆布だし……大さじ1

<作り方>

【1】豆腐をキッチンペーパーにくるんでレンジで約1分温め水切りをする。
【2】ほうれん草、にんじん、こんにゃく、ひじきを茹でて水切りする。
【3】ボウルに【1】と【2】、Aを入れて混ぜ合わせれば完成。

教えてくれたのは

医学博士・佐藤拓己さん/1961年、岩手県生まれ。東京大学農学部・畜産獣医学科卒業。京都大学大学院医学系研究科・分子医学専攻・博士課程修了。岩手大学工学部・応用化学生命工学科・准教授。大阪バイオサイエンス研究所・研究員。現在、東京工科大学・応用生物学部・教授。著書に『ケトン体革命』など。

撮影/茶山浩 料理協力/新谷君子

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