2016.12.27 |暮らし   

【著者インタビュー/松本秀夫さん<前編>】最愛のオフクロへ溢れる想い

「9回に入ったあたりで、あぁもうこの試合(介護)は勝てないなと。つらいゲームでした」
熱闘! 介護実況~私とオフクロの7年間』(バジリコ刊)。

 看取ってから三年過ぎた今でも、母を語れば涙してしまう松本さんに、介護と闘った日々についてうかがった。
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「母を死なせてしまった…」そんな後悔がこみ上げて

 松本秀夫さんは、ニッポン放送のスポーツ実況看板アナウンサー。メジャーリーグに挑むイチロー選手や佐々木主浩投手などをアメリカまで追いかけて活躍を伝える熱血漢、国内では悲願の優勝を遂げたチームを称えた“号泣実況”が伝説になるほどの人情派としても知られる。

 そんな松本さんから、こちらも思わず息を飲むような吐露がこぼれ出た。

「オフクロが死んだとき、何てことしちゃったんだろう。死なせてしまったと、愕然としたんです。今もその気持ちは変わらず残っています」

惨敗…野球実況のようには行かなかった介護

 実況席に着くと球場の隅々まで、完璧に神経が行き渡り、白熱の試合をリズミカルに伝える松本さんが、介護生活を振り返るとき、繰り返し出て来る言葉は「後悔」なのだ。

「振り返ればつらかったことだらけです。最初は、母を絶対によくしてあげる、僕が治すというつもりだった。オフクロもがんばっていい兆しも見えたけど、そこで空回りしてしまった。

 実は介護中、自分の家庭もうまくいっていなくて、介護がつらかったというより、自分の人生のいちばんつらい時期と介護が重なったのです。イライラしてオフクロに八つ当たりし、叩いてしまったこともある。

 僕自身が充実していなかったから、いちばん労わるべきオフクロにやさしくできなかった。自分から買って出た介護だったのに。そこがいちばんの後悔。まぁどうすればよかったのかという答えは、今も見つからないんですけどね」

働き盛りの時期に始まった介護

 1999年、松本さん38才。まさに働き盛りで仕事に夢中だったある日、母・喜美子さんが体調不良を訴えた。原因は胆石だったが、その手術後、うつ症状に見舞われる。

 ちょうどその頃松本さんは、2000年のシドニーオリンピックで実況し、翌年にはイチロー選手のメジャーリーグのシアトル・マリナーズへ移籍が決まり、実況アナウンサーとして4か月間のシアトル出張…と、意気揚々と仕事にまい進していたときだった。

「もう仕事がいちばんおもしろい時でね。立ち止まって考える余裕はなかったですね。猪突猛進。メジャーに行くんだ! オフクロは何とかなるだろう、病院に行けば必ずよくなるはずだと。シアトルに行っている間は、オフクロのことを忘れていたくらい。

 今思えば母は、僕がシアトルに行っているときにすごく具合が悪くなったんです。でもあのとき、行かないという選択肢は僕の中にはなかった。この後、14年にもわたる母の闘病と介護生活が始まるとは、夢にも思っていなかったです」

オフクロの生い立ち、人生を振り返り「これじゃ、病気にもなるな」と

 松本さんに限らず、親の介護は子供世代のいちばん忙しい時期に重なることが多い。そこでいろいろな葛藤があるのも世の常だ。しかし松本さんは真向から立ち向かう。本の中では、母の生い立ちまでさかのぼり、詳しくその人生を語っている。

「母のライフストーリーは、子どもの頃から母や祖父母によく聞かされていて、僕の脳裏に刻み込まれているんです。

 母は小さい頃から苦労して、大変な人生を送った人でした。結婚後は親父が家に珍しく帰って来なくて、ほとんど母子家庭だった。いい思い出も悪い思い出も、いつも母と僕と弟と3人。とても濃密だった。だから昔のこと、特に親父がたまに帰ってきた時の情景などはすごく鮮明に残っているのです。

 母の人生が大変だったことはわかっていたけれど、何度も見聞きしているうちに慣れっこになって。母が生きている間は、その記憶は風化していました。いつも明るくて元気だったから、離婚して気ままな一人暮らしになって、『オフクロにはもうここから先は幸せな人生が待っているはず』と、自分に言い聞かせていたんです。

 でも改めてその人生を文章にしてみると、書きながらウワッと怯むほど生々しくよみがえってきた。『これじゃ病気にもなるよな』と、改めて思いしらされました」

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饒舌なアナウンサーの姿からは想像できないくらい、言葉を振り絞るようにインタビューに応じる

介護も野球の実況をするように俯瞰できれば…

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