2017.02.02 |ヘルス   

注目の認知症ケア「ユマニチュード」とは?<4> 5つのステップ

出会いの準備~再会の約束 5つのステップを軸に、家庭介護をスムーズに進める技術

 介護を担う人が追い詰められていく原因の多くは、心を込めてケアしているのに「こちらの気持ちが伝わらない」ことにある。「お風呂に入りましょう」と声をかけても拒否され、おむつをかえようと近づくだけで怒らせてしまう。こうしたことが日常的に続けば、介護する側のストレスは甚大なものになるだろう。

 こういった認知症介護などの問題を、人間関係として捉え、解決に導くのがフランスから入ってきた新しい技術「ユマニチュード」である。「認知症だから仕方がない」と諦める必要はない。今まで良かれと思ってしていたことが、認知機能が低下した人には「うまく伝わっていないのかもしれない」という点に気づけるだけで、ケアを受ける人が穏やかになり、介護をする側も満足感を得られる可能性があるというのだ。

 ユマニチュードをいち早く学び、日本に広める努力を続ける本田美和子医師にお会いし、その極意を伺った。今回は、在宅介護でも実践できる、介護の5つのステップをお話しいただく。

 * * *

認知症の方との絆をつくるケア

 介護をする中で、相手に「気持ちが伝わらない」と感じることがあるとき、もしかすると相手にいきなり要件を切り出してはいなかったでしょうか。たとえば、部屋に入るやいないや「お母さん、着替えましょう」「お父さん、おむつをかえますよ」と声をかけるといったように。

 介護で一番大切なことは、介護を行なうときには毎回、まず相手との良い関係性を築くことです。相手との関係をうまく結ぶことで、穏やかな介護を実現することができ、さらに結果的には介護にかける時間を短縮することができます。介護を行おうとして相手にいきなり要件を切り出すのではなく、ユマニチュードではすべてのケアを1つの手順に従って行ないます。

 この手順は、5つのステップから構成され、それぞれを

ステップ1「出会いの準備」

ステップ2「ケアの準備」

ステップ3「知覚の連結」

ステップ4「感情の固定」

ステップ5「再会の約束」

 と名付けていますが、名前を覚える必要はありません。この5つのステップは、わたしたちが社会生活を送るなかで「相手とよい関係を結びたい」と思うときに自然に行なっていることです。自分が5つのステップの中で何を今行なっているかを明確に自覚し、介護を行うことが重要です。

知人宅に招かれた状況を想定してみる

“社会生活を送るなかで「相手とよい関係を結びたい」と思っているとき”の例として知人のお宅に招かれ、食事をご馳走になることを想像してみます。

「美味しいカニが手に入ったので」とお誘いを受けていたとしましょう。

 招かれたお宅の玄関前に到着しました。まず何をするでしょうか。いきなりドアノブに手をかけ、扉を開けることはないですよね。チャイムを鳴らし、相手の応答を待つ。インターフォン越しに返事があり、ドアを開けてもらい「どうぞ」招き入れられて初めて、玄関の中に入ります。

 玄関では唐突に「カニを食べに来ました」とは言いません。「こんばんは。今日はお招きくださりありがとうございます」「お言葉に甘えて伺いました」といった、あなたに会えてうれしい、一緒の時間を過ごせることを楽しみにしている、という言葉を述べるでしょう。たとえそう思っていても「カニはまだですか?」といきなり求めることはなく、「お元気でしたか?」と相手を気遣ったり、自分の近況を話すなど、相手と共に過ごす時間を楽しんでいることを表現します。

 いざ、食事が始まってからも、無言で食べ続けることはありませんね。「美味しいカニですね」といった食事にまつわる話をしたり、共通の趣味の話題などの会話で楽しい時間をお過ごしになることと思います。

 さらに、食事が終わるやいなや「では、さようなら」と帰ってしまうのではなく、「今日はありがとうございました。今度はわが家へもいらしてください。ベランダから満開の桜が見えるので春になったらいらっしゃいませんか?」というように、次の約束を交わしながら、その日の楽しかった訪問をお互いに気持ちよく締めくくります。

 介護も、知人宅を訪問することも、相手と良い関係を結んで、楽しい時間を過ごすという点で全く同じ手順をふみます。

 では、具体的にどうするか。「出会い」から「別れ」までのステップを紹介していきましょう。

ステップ1「出会いの準備」

 相手のプライベートな領域に入って行くときには、必ずノックをします。

 ノックの音は周波数の帯域が広いため、聴力が低下している人には、声よりもより良く届く可能性が高くなります。相手からの返事が期待できないと思っていても、まずは部屋に入るときにはノックをしてみてください。たとえ認知の機能が低下していても、ノックの音は「だれかが来た」ということを知らせるものだ、という記憶が脳には残っています。ノックの音は、「これからだれかに会う」という予測を相手にもたらしています。A

【1】ノックを「トントントン」と3回行う

 3秒待つ

【2】ノックを「トントントン」と3回行う

 3秒待つ

【3】ノックを「トン」と1回行ってから部屋に入る

 3回ノックをして、3秒待つ、という方法は、相手の覚醒水準を徐々に高めるための手法です。【3】まで行って返答がなければドアを開けて入室します。それまでに返答があれば、もちろんそのまま部屋に入ります。もし、扉や仕切りのない場所にいる場合、また和室の障子や襖であっても同じです。ベッドの足下のボードや壁をノックすることで、「誰かがやって来ました」ということを振動でも伝えることができます。

【ステップ2「ケアの準備」へ進む】

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