2017.06.17 |暮らし   

“行列のできる”菊地弁護士「遺言書は万能ではない」

菊地幸夫弁護士

『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)でおなじみの菊地幸夫弁護士。相続をきっかけに親族同士が骨肉の争いになるケースは多く、いったん崩れた人間関係を修復することは相当に難しいと説明する。そうならないためにも生前から遺言を整えておくことはひとつの有効な手段だが、それが万能ではないことも念頭においておく必要がありそうだ。

「東の山」「西の田んぼ」は無効に

 相続でもめないために多くの専門家が勧めるのが、遺言を用意しておくことだ。遺言は大きく2種類に分かれる。自筆証書遺言と公正証書遺言だ。それぞれルールがあるのでそれを守って作る必要がある。

 自筆証書遺言はその名の通り、遺言をしたい人が自分で書く遺言のこと。まず注意しなければならないのは文字通り「自筆」であることだ。

 パソコンやワープロで書いてはいけない。財産目録もエクセルではいけない。すべて自筆だ。時代遅れのようだが、現行の法律がそうなっているのだからしかたがない。

 日付を忘れずに入れ、署名、捺印(認め可)する必要もある。自筆、日付、署名、捺印。この4つを忘れなければ自筆証書遺言は誰でもどこでも作ることができる。費用もかからず簡単、こっそり作ってしまっておくこともたやすい。

 長所の多い自筆証書遺言だが、短所もある。一番の短所は失敗しやすいことだ。

 まず、自筆、日付、署名、捺印という条件は簡単過ぎるためか、案外、忘れる人は多い。日付を入れるのを忘れたために、効力を持てなかった遺言は多い。「2017年春のよき日」ではいけない。「○年○月○日」とはっきりと書く

 また、内容が伴わなければ効力は発揮できない。財産には預貯金、土地、建物など形態はいろいろあるが、そのため見落としも多い。遺言に書かれていない財産については、当然、効力は及ばない。「東の山」「西の田んぼ」といった漠然とした書き方では無効になってしまう。

 恨みつらみを書き連ねてある遺言もあるそうだが、遺言として効力を持たず、“ただの紙切れ”にしか過ぎないという。

誰かが破り捨てても気づかれないことも

 秘密にしやすいという長所が短所になることもある。当人の死後、誰かが見つけて破り捨てても、気づかれないことがある。また、自筆証書遺言は家庭裁判所での「検認手続き」を経てオープンにする必要がある。突然の裁判所からの連絡に相続人が驚いて、それが感情の行き違いを生むこともある。

 もうひとつのパターンである公正証書遺言とは、公証役場に依頼して書いてもらう遺言だ。専門家が作るため失敗がないことが公正証書遺言の一番の長所だ。

 ただし費用はかかる。数万円程度から、遺産の総額によってはもっとかかる場合がある。2人の証人も必要になる。友人・知人に頼んだ場合、遺言の存在を秘密にしておくことは難しい。

菊地幸夫弁護士

菊地幸夫弁護士

「蚊帳の外」の悪感情も

 自筆証書遺言と公正証書遺言、それぞれ長所、短所はあるが、自筆証書遺言の場合、法律の無料相談を受けて内容を確かなものにすれば短所は補えそうだ。公正証書遺言はお金がかかるが、専門家に作ってもらうので法律的に問題はない。

 これでひと安心……には違いないが、その先にも難関は待ち受けている。「遺言が効力を持つということと、相続人が納得するとこととは全く別の話」と菊地先生は指摘する。

 まず、自筆証書遺言での「検認手続き」だが、相続人の一人(ここではAとする)だけが遺言の存在を知っており、それ以外の相続人は遺言については知らされていないケースは、もめる。「ましてや遺言がAに有利な内容なら、他の相続人は悪感情を持ちかねない」と菊地先生はいう。

“サプライズ”がうれしい驚きになった例がないわけではないが、多く場合、怒りを伴うものになってしまう。遺言は決して万能薬にはならない。 ではどうすればよいのだろうか。

〔この日の3ポイント〕
・まずは遺言を正しく作ることが出発点」
・自筆証書遺言、公正証書遺言、それぞれ長所、短所が
・遺言を作ってしまったために返って親族の亀裂を生むことも

講師Profile●菊地幸夫
きくち ゆきお。中央大学法学部卒業。元司法研修所刑事弁護教官。現在、社会福祉法人練馬区社会福祉事業団理事も務める。日本テレビ「行列のできる法律相談所」及び「スッキリ!! 」をはじめ、数本の番組にレギュラーとして出演。弁護士業務の傍ら体力作りにも勤しみ、各地のトライアスロン大会へも出場。地元小学生のバレーボールチームの監督等も務めている。

取材講座:弁護士菊地幸夫の「こんな事件をやってます」(中央大学 オープンカレッジ:クレセント・アカデミー・駿河台記念館)

文・写真/本山文明

初出:まなナビ

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