2017.10.28 |暮らし   

冷泉家当主「国宝を守るには自助努力だけでは困難」

冷泉家第25代当主、冷泉為人氏

「国宝」とは、有形文化財(重要文化財)の中でも特に世界文化的に価値が高いものを〈国民の宝〉として国が指定したものだ。現在日本では、885件の美術工芸品と、223件の建造物が国宝に指定されている(2017年9月1日現在)。では、これらの“宝”は、どのようにして守られているのだろうか。数々の国宝を所有する、冷泉家第25代当主、冷泉為人(れいぜいためひと)氏がその実情を語った。

国宝・重要文化財の継承保存には自助努力が求められる

 冷泉家第25代当主、冷泉為人氏は、2017年10月7日に行われた立命館大学土曜講座の公開講演会「京都・若狭文化財の継承保存と文化行政」で、伝統文化財を継承保存するにあたって、どのような問題が立ちはだかっているのか、実体験をもとに語った。

「京都国立博物館で「国宝」展が始まりました。私ももう2回も行きました。2時間ほど見て回って、へとへとになりました(笑)」と語り出しながら、国宝と重要文化財がどれだけあるかをスライドで示し、「国宝と重要文化財を継承保存していくために国家予算が配分されます。しかしかなりの自助努力が必要とされるのです」と続けた。

国宝「明月記」を守り伝えるために必要な資金

 冷泉家は藤原定家の孫・為相(ためすけ)を始祖とする和歌の名家である。勅撰集を編むための家として800年余にわたってその伝統を受け継いでいる。昭和56年(1981)には、財団法人冷泉家時雨亭(しぐれてい)文庫を設立。定家の『明月記(めいげつき)』を始めとする国宝を5件、重要文化財を48件、点数にして1300点以上の古典籍古文書を所有している。また、住宅は、唯一残る公家住宅として、こちらも重要文化財に指定されている。

 これらの文化財維持のため、冷泉家では平成7年から「平成の大改修」が行なわれた。そこに大きな問題が立ちはだかった。改修資金である。

 聞いて驚くのがその金額。『明月記』60点あまりは2億2千万円、住宅の改修には6億6500万円。10年間の大改修に10億円もの金額がかかったという。そのお金はどうやって賄われるのだろうか。

 国が定めた文化財である。きっと国が出してくれるのだろう、と思いきや、そうではないのだと、冷泉先生は訴える。

「社会の皆様は、『れいぜいはん、国から補助金をもらって修理して結構ですな』と、こう思われている。実際に言われたことが多々ありました。『そうは言っても、所有者も財団も負担しておることをご存知ないと思いますが』と何回申したかわかりません」

文化財の継承保護は、所有者の役目

 文化財の継承保護には、所有者が多くの金額を割かねばならない現実がある。文化財の保護の予算には大きく分けて、国や地方自治体などの行政からの「公助」、企業やメセナからの寄付である「共助」、そして、所有者自体がお金を出す「自助」がある。

 国からの「公助」はもちろん国家予算から捻出される。その対象は、国宝と重要文化財である。日本には885点の国宝があるが、国家予算に占めるその割合は0.1%に満たない。

 平成29年度を例にとると、以下のようになる。

国家予算:97兆4547億9百万円
文科省の予算:5兆3096億98百万円
文化庁の予算:1042億72百万円

 この文化庁の予算のうち、文化財保護(継承保存・修理)のための予算475億22百万円のなかで、美術工芸品、建造物、文化財の修理の補助金が賄われている。うち美術工芸品に充てられる予算は平成25年度から5.8億円だったが、国宝・重要文化財の指定は増えているにもかかわらず平成29年度には4.9億円に削減されている

 例えば「文化国家」の誉れ高いフランスや、お隣の韓国の予算と比べても、国家予算に対する文化財保護の割合は低いのです、と冷泉先生は嘆く。逆にアメリカは、日本よりも割合が低いが、寄付に対する税制優遇措置を広げることでバランスを取っているという。

冷泉家を知ってもらおうと展覧会を

 冷泉先生は「平成の大改修」の際、約10億もの金額を前に途方に暮れたという。約半分は、国庫と京都府・京都市からの補助で賄うことができた。しかし、あと半分はどうするか。

 そこで冷泉家を知ってもらうために展覧会を開こう、と立ち上がった。しかも海外で。パリ・ギメ美術館で行われた「みやび―宮廷文化展」は話題をさらい、その後、日本でも各地で展覧会を開催し、その修繕費を捻出した。これが「自助」の力である。

「観光立国」を主張する前に文化国家としてやるべきことが

「個人の国宝、財団の所有する国宝や重要文化財の継承保存するための維持経費を、国が考えていただくと助かる」と冷泉先生は語る。そのために伝統文化財継承保存のための補助金の制約などを緩和できないかという。

国は“自助”で文化財の継承保存をやりなさいといいますが、それができひんから言うている。こういうことを言わなければいけないのは、日本が“文化国家”ではないからではないでしょうか。文化については“グローバル化”よりも“ローカル化”、ここで言えば“京都化”。文化というのはそれぞれに固有のものであって、一律に考えられるものではありません」

 決して国や文化庁を批判しているのではなく、現実を理解してほしいと冷泉先生は訴える。

「京都モデル」の提言に向けて

「例えば、来年度、京都では『宿泊税』の導入が検討されています。これを導入し、文化財の継承にそれらの収入を回すというのは、あってもいいのではないでしょうか」

 なぜ人は京都に訪れるのか。それは、どこにもないものがあるからだ。それは、日本文化の誇り高い「品格」であり、それを守り継承している町と人々だ。だからこそ京都は京都であり続けるし、人々は京都に訪れる。

 最後に冷泉先生は結論として、文化財の継承保存と文化行政には「結局の所”ヒト・モノ・カネ”が大事」だと訴えた。そして、立命館大学歴史都市防災研究所が提言する「京都創生プラットフォーム」という新たな取り組みにも言及した。行政と文化財の所有者の間で、マネジメントなど、文化行政のハブとして研究機関が介在していくという動きだ。

「観光立国」という国の方針の中で注目される京都。しかし、ただ観光を推し進めるだけでは、伝統文化を消耗、損傷、消滅させてしまう危険性もある。文化行政は極めて重要だ。2021年度には、文化庁が京都へ全面移転することも決定している。

「文化庁、そして研究機関としての立命館大学歴史都市防災研究所が協力し、新しい“京都モデル”を作っていってほしい」

 その言葉で講演は締めくくられた。

◆取材講座:「歴史都市の保全と継承政策」基調講演「京都・若狭文化財の継承保存と文化行政」(立命館土曜講座)

文・写真/植月ひろみ

初出:まなナビ

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