2017.11.20   

トカゲの唾液から糖尿病薬が!? その理由はなんと

 武蔵野大学薬学部の阿部和穂教授によれば、いま日本では40種類くらいの薬が糖尿病の治療に使われており、動植物の研究に端を発するものも多くあるという。なんとその中にはアメリカドクトカゲの唾液から生まれたものも!? 武蔵野大学公開講座「糖尿病の基礎から治療・予防法まで」から、武蔵野大学文学部3年生の山口杏菜記者が糖尿病薬についてレポートする。

古くから糖尿病治療に使われたガレガソウから

 最初に紹介されたのは植物の「ガレガソウ」。糖尿病治療薬の発見につながったもののひとつだ。ヨーロッパで中世以前から民間療法で糖尿病治療に使われてきたマメ科の多年草で、上に写真を挙げたように、ルピナスにも似たきれいな花をつける。ヨーロッパでは牧草としても利用され、これを食べた牛は乳の出がいいとされていた。

 ガレガソウには血糖値を下げる作用があることが古くから知られていた。20世紀初頭にガレガソウから、血糖を下げる有効成分として「グアニジン」が分離された。しかしこれには強い毒性があったため、グアニジンを2個統合させた「ビグアナイド系薬物」が考案されたという。

 このビグアナイド系薬物から生まれた薬が「メトホルミン」だ。メトホルミンは1929年に合成されていたが、その頃すでにインスリンが登場しており、あまり注目されなかった。しかし1950年代後半、フランス人のジャン・スターン医師が糖尿病治療に用いて成功したことから注目を集めることとなった。

 ところが、1957年に登場した「フェンホルミン」というビグアナイド系薬物が、体液が酸性に傾く乳酸アシドーシスという副作用を起こして死亡する例がアメリカで報告され、ビグアナイド系薬物は使用中止になった。

 しかしその後、フェンホルミン以外のビグアナイド系薬物で乳酸アシドーシスが起こるのはごく稀であるとわかり、近年その有益性が見直されている。現在、メトホルミンにはインスリン抵抗性を改善する効果もあることが判明し、インスリン分泌に影響せずに血糖を下げる薬として、WHOが選ぶ糖尿病の必須医薬品の一つとされている。

 メトホルミンの薬には、「メトグルコ」(大日本住友)、「グリコラン」(日本新薬)などがある。

アメリカオオトカゲからの唾液腺からは

 食べ物を食べると、食べ物は消化管を通っていく。その時、腸管から分泌されるのが消化管ホルモン「インクレチン」だ。インクレチンは、膵臓のインスリン分泌を促進する役割をするもので、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激 ポリペプチド)とGLP1(グルカゴン様ペプチド-1)が知られている。

 しかしインクレチンは分泌後すぐにDPP4(ジペプチジルペプチダーゼ4)という分解酵素によって分解されてしまうため、インクレチン自体を投与しても十分な効果が期待できないでいた。

 そこで発見されたのが「エキセナチド」である。そのルーツとなったのが、アメリカドクトカゲだ。1992年、アメリカ人のジョン・イング医師は、アメリカドクトカゲの唾液腺に、インクレチンの一つであるGLP-1と似た物質「Exendin-4」が含まれていることを発見した。このExendin-4は、先のGLP-1と同じ作用を示すが、GLP-1とはアミノ酸配列が異なるために、分解酵素DPP4の影響を受けないことが分かったのである。

アメリカドクトカゲ

大食いなのに血糖値が上がらないアメリカドクトカゲ

 なぜアメリカドクトカゲなのか。

 アメリカドクトカゲは、アメリカのアリゾナ州などの砂漠地帯に棲んでいる。乾燥して餌の限られている環境に生きているために常に空腹で、餌を見つけると大食いをする。大食いがいかに血糖値を上げるかは、「糖尿病になる危険大 避けたい3つの食習慣とは」で解説したとおりだ。

 しかしアメリカドクトカゲは人間と違い、血糖値が食後と食前でほとんど変わらないこれは唾液腺にExendin-4が含まれているからだ。口に餌が入った途端にこれを分泌して膵臓に信号を送り、早めにインスリンを分泌する準備をして血糖値を上げない仕組みになっているのである。

 エキセナチドの薬は「バイエッタ」、「ビュリオン」(アストラゼネカ)などがある。

 糖尿病という、いわば現代病ともいえる病気を治療する薬が、古くから使われてきた薬草や、砂漠に生きるトカゲから開発されていたとは……。薬について知ることは、病気と理性的に付き合うことにもつながる。

〔今日イチ〕
 ガレガソウから発見された「メトホルミン」は効果もあり薬価も低いため、世界で最も使用されている糖尿病治療薬の一つだが、実は日本での使用は少ない。日本では高価な薬を使う傾向にあり、インフルエンザの時に使われるタミフルも同様。タミフルのなんと75%近くは日本で使われているという。
〔学生記者の眼〕
 受講をしていてカタカナだらけの薬名に圧倒される。薬には「一般名」(専門家が使うもので、たとえば「メトホルミン」とか「エキセナチド」)と「商品名」(私たちがよく目にするもの)があり、薬学部生はそれらを全て覚えなければいけないという。あらためて薬剤師さんの仕事の大変さがよくわかった。

◆取材講座:「糖尿病の基礎から治療・予防法まで」(武蔵野大学公開講座・三鷹サテライト教室)

取材・文/山口杏菜(武蔵野大学文学部3年)写真/(c)agatchen/Steve Byland/fotolia

初出:まなナビ

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