2017.10.06 |ヘルス

「せん妄」を認知症と間違わないために知っておくべきこと

 東京―岩手と遠距離で、認知症の母の介護している工藤広伸さん。家族の目線で”気づいた””学んだ”数々の介護心得をブログや書籍などで公開し話題となっている。

 当サイトでも、介護にすぐ役立つ情報を連載で執筆してもらっている。今回のテーマは、認知症と間違えやすいと言われている「せん妄(もう)」についてだ。

 先日、他界した父の介護中に「せん妄」を目の当たりにしたという工藤さん。家族ならではの気づき方を教えてもらう。「しれっと」をモットーとする工藤さんの介護術、必見だ!

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「せん妄」は、認知症に症状がよく似ているため間違いやすいという(写真/アフロ)

 * * *

集中治療室で「蚊がいる」「幽霊が出た」と言い始めた父

 わたしの父(当時75歳)は小腸に穴が開いたため、切除してつなぎ合わせるという手術を受けました。術後の父は口に管を通し、人工呼吸器を使っていました。抜管した後から少しずつ話せるようになった父は、わたしにこう言いました。

「この部屋には、蚊がいる」

 わたしは最初、何を言っているのだろうと思いました。というのも、父の居た集中治療室に家族が入るためには、手を除菌し、マスクにガウン着用をしなくてはいけません。そんな厳重管理された部屋に、蚊などいるわけがありません。

 さらに父は「幽霊が出た」と言い、看護師さんに暴言を吐くようになりました。また、寝言のように「(自分が住む)部屋の畳を変えてくれ」と、繰り返し言うようになったのです。
 
 集中治療室から出た父は、さらに検査が必要となり、別の病棟で数週間入院することになりました。検査の結果、悪性リンパ腫と判明し、新しい医師が担当することになりました。

 その医師は父の言動から、「認知症の疑いあり、今後の治療方針はお父様ご自身の判断ではなく、家族の判断が必要」と診断書に書きました。

 とうとう父は、自分で判断できなくなるまで弱ってしまったのか…そう落ち込んでもおかしくない状況でした。しかし、わたしは認知症ではなく「せん妄」ではないかと疑ったのです。

「せん妄」は数時間、数日で急に発症する

 わたしは、認知症の母の介護中に「せん妄」について勉強していて、「認知症」と「せん妄」の症状がよく似ていることを知っていました。大きな違いは、数か月から数年かかって発症する認知症とは違って、「せん妄」は数時間から数日で「急に」発症するといわれています。また日中は普通なのに、夕方や夜間になると症状がひどくなることもあるそうです。

 せん妄をよく知る医師に聞いたところ、父のように入院や手術の影響で外部との情報が遮断された人がせん妄になったり、酸素や鎮静剤の影響で症状が出たりすることがあるそうです。具体的な症状としては「不眠」「昼夜逆転」「幻視」「妄想」「見当識障害」「興奮」「錯乱」「無関心」「無気力」「無表情」などがあるそうで、認知症の症状を知っている方なら、どれも共通するものばかりです。

 入院する前の父は、認知症の症状はありませんでした。しかし、入院してから急に蚊や幽霊などの幻視が見えるようになり、看護師さんに暴言を吐いてしまうなど、すべて「せん妄」の症状に当てはまるものでした。

 せん妄の治療方法について別の医師に聞いたところ、「薬物による治療もありますが、環境を変えると治ることがあります」という回答を頂きました。父は転院ではなく、在宅で介護することを決めていたので、家に帰ればこれらの症状はなくなるだろうと考えました。

 自宅に戻ったら、父の「せん妄」は本当になくなりました。自宅という慣れた環境に戻った結果、幻視が見えなくなり、暴言も減って、自分で正常な判断を下せるまでになったのです。

医師でも「せん妄」を「認知症」と診断してしまう

 今回の経験で学んだことは、すべての医師が「せん妄」や「認知症」についての知識が十分にあるわけではないということでした。他の医師からも、このような間違いはよく起きると言われました。父は小腸の手術をした医師には「せん妄」と診断され、別の科の医師には「認知症」と判断されてしまったのです。
 
「せん妄」の疑いがある場合、家族はどう対応したらいいのでしょうか?

 まず、入院する前の状況を、家族が医師に伝えるといいそうです。認知症らしき症状が入院前はなく、入院後に幻視が見えたり、乱暴になったりといった急な変化であることを医師に伝えます。また、いつも使っていた時計やカレンダー、ラジオ、家族の写真など落ち着く環境を病院内で作ることも大切だそうです。
 
 病院のベッドに寝ていた父は、1日中天井ばかりを見て、見慣れない管や機械に囲まれる毎日でした。そんなストレスかかる状態で1週間、1か月と過ごせば、わたしだって気が変になるのは想像がつきます。

「せん妄」の症状から点滴を抜いてしまったり、ベッドから転落してしまったりすることもあるそうで、それを鎮静させるための薬剤が投与されることもあります。そうなると、入院が長期化して、さらに「せん妄」が深刻になることもあるそうです。

 病院で安静にしていると家族は安心してしまいますが、実はこのような強いストレスによって「せん妄」のリスクがあるということを覚えておくといいと思います。

 家族には見極めが難しいと思いますが、「知識」として覚えておくことは大切ではないでしょうか?
 
 元気に回復した父は、自宅の畳を変えていました。わたしは、

「せん妄の症状で、畳、畳と言っているかと思ったよ」

 と父に言うと、

「バカ言え、俺はいつでも本気だ」

 と言っていました。年齢を重ね、弱った姿を見ると認知症になってしまったと勘違いすることもありますが、病院での急な変化の場合は「せん妄」を疑ってみてもいいかもしれません。
 
 今日もしれっと、しれっと。

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工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、ものがたり診療所もりおか地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/

 

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