2018.01.20   

なぜ認知症の人は昔のことを記憶し今のことを忘れるのか

 2025年に認知症患者は700万を突破するという。65歳以上の5人に1人が認知症となる計算だ。いま認知症についての正しい知識を持つことが求められてきている。『認知症 いま本当に知りたいこと101』を著した武蔵野大学薬学部教授の阿部和穂先生は、認知症を正しく理解してほしいという。

なぜ認知症患者は昔のことばかり覚えているのか

 阿部先生がまず指摘するのは、認知症は病気ではなく症状であるということだ。

 認知症になる原因となる病気は、アルツハイマー、脳血管障害などさまざまなものがある(詳しくは「糖尿病による認知症リスクで「2025年認知症700万人」」)。

 それらの病気がもたらす症状のひとつが認知症だ。その中でも記憶障害は最もポピュラーな症状だろう。

 とくに私たちが困惑するのは、認知症の人が70年も前の子供の頃の記憶は忘れずに鮮明に覚えているのに、昨日のことや1時間前のことを忘れてしまうことだ。

 これについて阿部先生は、「忘れるのではなく、覚えられないのです」という。

 記憶には長期記憶短期記憶がある。あることを見たり聞いたりすると、必要なものとそうではないものを仕分けて、必要なものは「覚えて」、倉庫の中にしまい込まれる。この倉庫が長期記憶だ。

 認知症のおばあさんが、子供の頃の記憶をいつまでも忘れないのは、それが長期記憶の倉庫にしまい込まれた、「覚えた」ものだからだ。つまり、「覚えた」ものは「思い出せる」のである。

 しかし、認知症で記憶にかかわる海馬の働きが弱くなると、昨日のことや1時間前のことが「覚えられない」状態となる。つまり、「思い出せない」のではなく、「覚えられない」のだ。

 60年前、70年前のことがどれほど鮮明に思い出せたとしても、それは「覚える」力によるものではない。

「あんなに昔のことを思い出せるのだから、認知症ではないのかも……」という認識は間違っていることを知っておこう。

認知症の人はなぜ遠くまで徘徊をするのか

 また、しばしば話題に上る認知症の症状のひとつに「徘徊」がある。

「徘徊」を辞書で調べると、「あてもなく歩き回ること」などと出てくるが、認知症の周辺症状としての徘徊は、決して目的がないわけではない。本人なりの目的があって歩き始めるのだが、認知症のためにそれを忘れてしまい、徘徊になってしまうのである。その理由は3つある。

 一つめは、時間が認識できないこと。たとえば昼夜逆転してしまい、夜に仕事へ行こうと出かけてしまうといったことが起きる。その結果、介護者が寝ている夜間に外へ出てしまい、行方が分からなくなってしまったりするのだ。

 二つめは、空間把握ができないこと。そのために、歩いた先から元の場所に戻れない。簡単に迷子になってしまう。この一つ目、二つ目は見当識障害によるものである。

 三つめは、感覚がマヒしているため疲れを感じないこと。私たち人間は運動をしたあと、疲労感を認識するから休憩を取ろうとする。しかし認知症患者はその疲労感を感じる感覚がマヒしているため休むことなく歩き続けてしまい、普通では有りえないほど遠くまで歩いてしまう。

認知症のことを正しく知ろう

 阿部先生は、認知症のことを正しく知ってもらおうと、『認知症、いま本当に知りたいこと101』(武蔵野大学出版会)を刊行した。

 その中には、アルツハイマー病の治療薬として広く普及しているアリセプトについての話や、サプリメントとして使用している人も多いイチョウ葉エキスの話もある。

 阿部先生は、700万人という数字の大きさから予防を強く意識することも大切だが、その数字だけを見るのではなく、個人としての認知症に向き合うことも大切だと説く。

 近くに必ず認知症の人がいる時代がもうすぐやってくる。認知症を学ぶことも、現代人の教養のひとつになりそうだ。

阿部和穂
あべ・かずほ 武蔵野大学薬学部教授
1963年愛媛県生まれ。東京大学薬学部卒業後、東京大学大学院薬学系研究科修士課程修了。薬学博士。専門は脳と薬。著書に『認知症、いま本当に知りたいこと101』『認知症とたたかう脳』『危険ドラッグ大全』ほか。

取材・文・写真/まなナビ編集室 写真/(c)freshidea/fotolia

初出:まなナビ

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