2017.11.03 |暮らし   

84才、一人暮らし。ああ、快適なり<第7回 夢の続き>

 才能溢れる文化人、著名人を次々と起用し、ジャーナリズム界に旋風を巻き起こした雑誌『話の特集』。この雑誌の編集長を、創刊から30年にわたり務めた矢崎泰久氏は、雑誌のみならず、映画、テレビ、ラジオのプロデューサーとしても手腕を発揮、世に問題を提起し続ける伝説の人でもある。

 齢、84。歳を重ねてなお、そのスピリッツは健在。執筆、講演活動を精力的に続けている。ここ数年は、自ら望み、一人で暮らしている。そのライフスタイル、人生観などを矢崎氏に寄稿していただき、シリーズ連載でお伝えする。

 今回のテーマは、「夢の続き」だ。矢崎氏の夢とは、そしてその続きとは…。

 悠々自適独居生活の極意ここにあり。 

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幼い頃からよく夢を見たという矢崎氏

 * * *

 いつの頃からか、はっきりしないが、「夢の続き」が見られるようになった。老いの功績に違いない。

 幼い日から、私はよく夢を見た。と、言うより誰でも必ず夢は毎日見るのだが、私は、その夢を明確に覚えていた。

 眠りは浅い眠りと深い眠りが交互に訪れるらしいが、覚えているのは目覚める寸前の夢である。

 浅い眠り、つまり「レム睡眠」と呼ばれる眠りの後、夢が覚めるのは誰も同じだ。

 ところが夢には終わりがわからない。突然、目覚める。完結すると決っていないのである。

 中途半端なまま目覚めると、いわゆる夢見が悪いというか、すっきりしない。その後はどうなるのかと、続きは想像するしかない。それすら出来ないことの方が多いと思う

 ところが私は、これからと言う瞬間に目を覚まし、トイレに行った後で、再びベッドに入ると眠りが訪れ、夢の続きを見ることが出来るようになったのである。

 これには、欣喜雀躍(きんきじゃくやく)した。

 例を挙げれば、女性を口説いている最中に、パッチリ目が覚めたとする。成功したかどうか当然判らない。口惜しがっても、後の祭りなのである。その続きを見ることが出来るようになったのだ。

 この楽しみを味ってから、私は納得行くまで、何回もレム睡眠を味方につけ、女性を抱きしめたり、失恋して嘆き悲しむことが可能になった。結末を知って納得するわけである。

 だんだん大胆になって、もっと意外な展開を希望して、それを見ることに挑戦し、ついに成功するようになったのだ。

夢にまつわる学説は信用できない

 夢の続きを見ることによって、私は満足する。

 登場するのは、若い私だったり、中年の私だったり、老いた私だったり、バリエーションも豊かである。望外の喜びとはこのことだろう。

 夢ほど不思議なものも少ない。現実的な夢もあれば、非現実的な夢もある。

 脳波を研究している学者によれば、多くの人の夢は”バラ睡眠”とか名付けられる逆説的なものだとされるが、夢の続きを見られるようになってから、どの学説も信用に足らないと確信した。

 もちろん非論理的で時間的・空間的制約を受けないという説は否定しないが、フロイトの言う「抑圧された願望・欲求・本能が意識に現れたもの」が夢だというのには、はっきり異を説えたいと思うようになった。

 自慢するわけではないが、これは大きな発見をしたような気がしている。

 私は現実主義者であると同時に、以前から実存主義(※1)に傾注しているが、空想家でもある。

 この矛盾を質(ただ)してくれるのが夢だと思っている。したがって心理学でいうところの「自由連想法」(※2)に組しているに違いない。

 つまり、勝手気儘こそが、人間の本質だと考えるわけである。

 だからこそ私の夢は、次第に闊達(かったつ)になり、老いてようやく、その境地を体得したのだと思うのだ。

夜更かしを直してくれた「夢想術」

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夢の続きを自由に操るコツを得た

 若い頃は寝る時間が惜しくてならなかった。なるべく睡眠時間を減らして、あれもこれもと欲張った。平均して3時間位しか眠らない時期も少なくなかった。

 新聞記者時代も雑誌編集者時代も、仕事が楽しくて時間がいくらあっても足りなかった。それでいて遊び大好き人間だったから、眠ってなんか居られなかったのである。

 しかし、今は老いた。

 80歳を超えてから、俄然老いた。やたら眠い。疲れる。朝風呂に入ると、一日中トロトロと眠りを貪(むさぼ)ってしまう。糊口(ここう)の道を絶たれかねない。

 タイム・スケジュールを作って、それに忠実に生きるように心がけるようにしたのだが、そのためには、早寝に徹するしかない。

 もちろん長い習慣であった夜更かしを改めるのは至難の業であったのだが、それを直してくれたのが、「夢の続き」なのだ。

 まぁ、騙されたと思って、やってみて下さい。

 なるべく早寝する。そして夢を貪るように見る。コツは、寝る直前にガブガブ水を飲むこと。但し、満腹で寝ないこと。

 最初の内は、トイレを探す夢を見て眼を醒ますが、慣れてくると違う夢を見て、急いでベッドに戻れば、必ず夢の続きを見ることが出来るようになるはずだ。

 ただ、尿道のシマリが悪いお方は、紙オムツの着用を!

 私は今でも好奇心だけは旺盛である。肉体の衰えは如何ともし難いが、精神、つまりそれを司どる脳は本人次第である。

 夢と遊ぶには、好奇心が大切である。

 もう少し長生きするようなら、「夢想術」なる分野を開拓してみることにしよう。

【編集部注釈】
※1:人間の実存を哲学の中心におく思想的立場。合理主義・実証主義に対抗しておこり、20世紀、特に第二次大戦後に文学・芸術を含む思想運動として展開される。キルケゴール・ニーチェらに始まり、ヤスパース・ハイデッガー・マルセル・サルトルらが代表者。

※2:ある言葉を与えられたとき、その言葉から心に浮かぶ考えを自由に連想していくこと。精神分析では、心の中のしこり(コンプレックス)を見つけるために用いる。

以上、『デジタル大辞泉』(小学館)より引用

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矢崎泰久(やざきやすひさ)

1933年、東京生まれ。フリージャーナリスト。新聞記者を経て『話の特集』を創刊。30年にわたり編集長を務める。テレビ、ラジオの世界でもプロデューサーとしても活躍。永六輔氏、中山千夏らと開講した「学校ごっこ」も話題に。現在も『週刊金曜日』などで雑誌に連載をもつ傍ら、「ジャーナリズムの歴史を考える」をテーマにした「泰久塾」を開き、若手編集者などに教えている。著書に『永六輔の伝言 僕が愛した「芸と反骨」 』『「話の特集」と仲間たち』『口きかん―わが心の菊池寛』『句々快々―「話の特集句会」交遊録』『人生は喜劇だ』『あの人がいた』など。

撮影:小山茜(こやまあかね)

写真家。国内外で幅広く活躍。海外では、『芸術創造賞』『造形芸術文化賞』(いずれもモナコ文化庁授与)など多数の賞を受賞。「常識にとらわれないやり方」をモットーに多岐にわたる撮影活動を行っている。

→このシリーズの次の記事を読む
85才、一人暮らし。ああ、快適なり【第8回 耽るということ】

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第1回 そもそものはじまり
第2回 老いはするが老人にはならぬ
第3回 自由って何だろう
第4回 おいしい生活
第5回 通院の帰り道
第6回 好色のすすめ
第7回 夢の続き
第8回 耽るということ
第9回 テレビの功罪
第10回 遊び
第11回 ギャンブル好き
第12回 便利は復讐する
第13回 老作家が描くエロスの凄み
第14回 スマホって何だろう
第15回 不倫スキャンダル
第16回 明治維新と向き合う
第17回 無駄遣い
第18回 ラブレター
第19回 老いらくの恋
第20回 料理人(シェフ)はアーチスト
第21回 エロティシズム礼賛

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