2018.04.20 |暮らし   

障害・老化で着られなくなった服もリフォームで着られる

この分野の第一人者でありながら穏やかな人柄。装いの価値と意味を語る岩波君代先生

この分野の第一人者でありながら穏やかな人柄。装いの価値と意味を語る岩波君代先生

 障害や病気、老化でからだが不自由であっても、ふつうにおしゃれを楽しみたい──そんな思いを実現する工夫を教えてくれるのが、文化服装学院生涯学習のオープンカレッジで毎年開催されている岩波君代先生(福祉技術研究所(株)コンサルタント)の講座だ。岩波先生によれば、ちょっとしたリフォームで、不自由なからだでも着られるようになるという。

不自由だからと大きなサイズを選びがちだけれども

 岩波先生はまず、こんな話をしてくれた。

「私の知人に、生まれた時から脳性まひという障害をもつ、とても頭脳明晰な60代の女性がいます。彼女のように動きが不自由で服の着脱が難しい人は、たいてい本来よりかなり大きなサイズの服を着るので、着崩れてきれいに見えないんです。それは仕方がないと思うのが一般的だと思います。

 でも彼女は素敵な服を着たいと思って、ほぼジャストサイズのブランド物のコートや革ジャン、ブラウスなどたくさんの服を買ってタンスにしまっていました。頭の中でコーディネイトを楽しんでいたのかも。そしてある日、その何着かを持って私とヘルパーさんを伴い、リフォーム屋さんを訪ねたのです」

袖入れしにくい部分を開閉したり服地を足したり

「ヘルパーさんは当初、既製服を直して着るなんて無理だとか費用が高いとかブツブツ(笑)。でも要は、袖入れしにくい部分を開閉できるようにしたり、服地を足したりすればいいんです。

 技術的なところを私が説明してリフォーム屋さんに伝えたら、店員さんがとてもいい方で、知人のことも服の直し方もよく理解してくださり、後日、知人が恋い焦がれて買った服が見事にリフォームされて楽に着られたのです! そのときの彼女の喜びよう、そしてヘルパーさんの驚きようといったら……。

 今では彼女、ヘルパーさんと2人、そのリフォーム屋さんや、近所のリフォーム屋さんをみつけて足繁く通っているようです」

水着をリフォームすることで着脱が楽になり、その人はリハビリにもより熱が入るようになったという

水着をリフォームすることで着脱が楽になり、その人は水中リハビリにもより熱が入るようになったという

好きな服を着ると、天にも昇るような気持ちに

「好きな服を着られたとき、天にも昇るような気持ちになる。人間ってちょっとしたことで変わるもので、特にからだに不自由のある人たちは、それだけで外に出て行ったり社会参加したくなるんです」という岩波先生。

 障害の有無に関わらず、好きな服を着ることで“天にも昇るような”嬉しい気持ちになるのはよくわかる。今日選んで着る服は今日の自分の表現。今はそんな時代だ。

既製服の時代だからこそ、リフォームが難しい

「昔は一般家庭でも服を手作りしていたので、不自由な体に合わせて実用的に直すということも難なくできました。障害のある人もなるべく自分で着脱できるように直してもらっただけでよかった。

 でも今は既成服の時代。しゃれた服が手軽に手に入り、みんながおしゃれ。だから障害者用や特大サイズの服ではなく、既製服をおしゃれに着たいのです。これは決して贅沢じゃない、同じ社会に生きる人としてごく当たり前のことです」

 そして今は、どこの家にもミシンがあって洋服を作っている時代ではない。家庭では直せないから、プロに直してもらうことになる。

 とはいえ生活現場はまだまだ時代に追いついていない。たとえば一般のリフォーム店では、健常者の服を想定したマニュアルからはずれた要望に応えてもらうのはなかなか難しい。きちんとした店ほどそのあたりは頑なだ。しかし徐々に服の不便さをリフォームで解消しようとしているお店も増えている。

技術のある作り手も、気持ちが敬遠してできない

「既製服を“買って着る”とパターン化されて考えるようになっていると、動きやすく“直して着る”という発想が、なかなか浮かばないですよね」と岩波先生。

部分的に少しリフォームするだけで、からだが不自由でも既製服をおしゃれに着ることができる。このことだけでも知っておきたい

部分的に少しリフォームするだけで、からだが不自由でも既製服をおしゃれに着ることができる。このことだけでも知っておきたい

「服を作る高い技術のある作り手でも、障害による不自由をカバーするというと、技術的にはできるはずなのに気持ちが敬遠してできない。それは障害による“からだの不自由”が身近に知られていないからです。

 そして、障害のある本人やその家族、介護者が“直せば着られる”ことを知らなかったり、障害によってどう不自由なのかを作り手にうまく伝えられなければ、結局その人は“服難民”になってしまいます。

 この講座が服に対する発想転換のきっかけになり、着る人・作り手・介護者のコミュニケーション力を培う機会になればと思っています」

 今は超高齢社会。病気による障害だけでなく、誰でも年を重ねることで何かしら不自由になることがあり得る。好きな服を着ることで元気になったり、前向きな気力が湧いたりすることを知った時代だからこそ、新たな発想で服を考えることは、みんなの課題なのかもしれない。

文・写真/まなナビ編集室

初出:まなナビ

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