2019.10.04 |暮らし    1

認知症の母のラーメン調理に立ち会ってわかった衝撃の作り方【認知症介護の日常】

 料理が得意で、レパートリーも多かった母が認知症を発症し、少しずつできないことが増えてきた…。

 作家でブロガーの工藤広伸さんが、認知症の母を介護する日々をリアルタイムで紹介する。今回は、現在も調理を続ける母の様子を見たときのエピソードだ。

フライパンでの中でラーメンの麺をゆでている

ラーメンは母の得意料理の1つなのだが…(写真はイメージ)

 * * *

 認知症になる前の母は、テーブルに乗りきらないほどの料理を手際よく作り、家に遊びに来た客からは「レストランみたい」と言われるほど、料理が得意な人でした。

 しかし、認知症の進行とともに、使える調味料の種類が減って、料理の味が変わり、見た目にも決してきれいとはいえない料理が増えていきました。

 その中で「ラーメン」だけは、味も見た目も昔のままで、母が作ることができる数少ないレパートリーです。

 ある日の昼食のことです。わたしは母の作ったラーメンを食べようと、箸で麺を持ち上げたとき、明らかな違和感がありました。

 わたし:「あれ、麺同士がくっついてる」
 母:「あらそうね、いつも通り作ったけど」
 わたし:「なんか、麺がぬるぬるしてるけど、なに?」
 母:「でもいいじゃない、食べられるわよ」

 母は食べられると言いましたが、わたしは麺をスープの下に隠し、食べ終わったかように見せかけて、台所でこっそりラーメンを捨てました。

 得意料理だったラーメンも、いよいよ作り方を忘れてしまったのかも…。そう思ったわたしは、母のラーメン作りに立ち会ってみることにしました。

母のラーメン、その衝撃の作り方

 母はガスレンジの上に、鍋1つとフライパン1つをセットしました。

 ラーメンのスープを作るための鍋は理解できるのですが、フライパンはいったい何に使うのか?

 母はフライパンに「少しだけ」水を張り火にかけました。そこにラーメンの麺2玉を入れ、ゆで始めます。麺はほぐしませんでした。塊のまま少しのお湯に麺を投入したということです。湯量が少ないので、麺のぬめりは取れないわけです。

 後ろでその様子を見ていたわたしは、「お湯が少ないよ」と母に言いました。

 すると母は、台所の上に置いてあった、コップの水を追加しようとしました。

 わたし:「ちょ、ちょっと待って!その水は使っちゃだめ!」

 母が追加しようとしたコップの水は、使用済みのスプーンや箸を漬けていた水だったのです!

 認知症になってからの母は、コップを使った後に水を張っておけば、きれいな状態を保てると思いこんでいます。そして、そのコップの水に、使用済みのスプーンや箸を入れておくこともあります。

 母が麺のゆで水に使おうとしたのは、そんな水。そんな、いわば清潔じゃない水でゆでたラーメンは、食べたくありません。

 今回は、ギリギリのところで、その水は追加されなかったのですが、今までわたしや母が食べてきたラーメンには、おそらくそういった水が使われていたのだと思います。

「沸騰すれば、きれいになる?」「母もわたしも体調不良になっていないから、大丈夫?」…

 わたしの頭の中を、いろいろな思いが駆け巡りました。

 わたしの指摘を受け、改めて、たっぷりのお湯で麺をゆで始めたところで、母はラーメンのスープ作りを開始しました。皮をむき忘れた人参、玉ねぎ、煮干し、豚肉を鍋に入れ、しょうゆで味付けします。

 スープ作りのタイミングは、めちゃくちゃになりました。麺をゆでてからスープを作り始め、麺が伸びきってしまうこともあります。

 野菜や肉、煮干しで出汁をとる、ある意味本格的なラーメン作りをする母なのですが、時間の感覚がなくなってしまったようです。

 味の調整は、化学調味料で行います。

 スープのあくを取って、母は味見をしました。味が物足りなかったのか、再び化学調味料をふた振り。麺のゆで具合を気にしながら、再びスープの味を確認します。まだ化学調味料が足りないようで、今度は3回振りました。

 わたしは、母は化学調味料を入れた回数を覚えていないのだろうと思い、こっそり化学調味料を隠しました。母が再び、スープの味を確認しようとすると、先ほどまであった化学調味料がありません。

母:「あれ、化学調味料ここになかった?」
わたし:「ないよ」
母:「あらそう」

 あっさり納得してしまう母に少し驚きながらも、なんとかラーメンは完成しました。麺のゆで方さえ間違わなければ、いつものおふくろの味です。

ラーメン作りは母の生命線

 このことがあってから、母が麺類(日本そばやうどん)を作る際は、麺をゆでるところだけ、わたしが立ち会うようになりました。

 また、スープや麺をゆでる際に使用済みのコップに入れた水を使うので、母が料理を始める前に、コップの水はきれいなものに替えるようにしました。

 そんな面倒なことはせずに、介護者がラーメンを作ればいいと考える人もいるでしょう。あるいは、レパートリーからラーメンを外せばいいという人もいるでしょう。

 麺のゆで方が分からなかったり、水の量が分からなかったりしても、母は体で覚えたスープの味は再現できます。化学調味料を入れた回数を忘れてしまっても、煮干しで出汁をとればなんとかなります。

 認知症が進行し、できないことがどんどん増えていきますが、残っている母の能力はたくさんあります。その能力を活用できる環境を整えることは、母の自立につながります。

 自分でラーメンを作ったほうがよっぽどラクですが、たとえ少々おかしなラーメンでも母に作ってもらったほうが、母が元気でいられる期間が長くなるような気がします。

 ラーメンを作れなくなってしまったら、宅配弁当サービスを利用したり、ヘルパーさんの力を借りたりしなくてはいけません。ラーメンは、母の生命線でもあります。

 いつまでラーメンを作り続けることができるのか、後どれくらい時間が残っているのか分からないのですが、これからも母のラーメンを見守り続けたいと思います。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

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  1. 匿名 より:

    認知症患者に対して怒りを表すことはよくありませんよ。

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