2019.10.08 |ヘルス   

「寝不足脳」が健康を脅かす|睡眠時間6時間未満は認知症や糖尿病リスクが激増。正しい睡眠とは

 日本には、睡眠を削って努力することをよしとする風潮がある。が、そうした睡眠不足・寝不足に、脳内科医の加藤俊徳さんは警鐘を鳴らす。日進月歩の脳科学の世界では、寝不足が脳の健康を脅かすことが解明されつつあるというのだ。そこで、あなたの不調を改善する「正しい睡眠」をお教えします。

「寝不足脳」による体のダメージは多岐にわたる(写真/PIXTA)

7時間睡眠が最も死亡率が低い

 人が能力を発揮するためには、昼は存分に活動し、夜は充分な休息を取る必要がある。

「そのためには概日(がいじつ)リズム(体内リズム)を守ることが大切です。最新の脳科学では『7時間睡眠を取ることが最も死亡率が低い』と解明されています。私自身も5年前に夜10時半から朝6時まで7時間以上の睡眠を確保するようになってから、心身ともに快調な生活を送っています」

 そう語るのは、最新著書『脳が若返る最高の睡眠~寝不足は認知症の最大リスク』を上梓したばかりの脳内科医・加藤俊徳さん。加藤さんは、夜10時半就寝・朝6時起床を5年間実践して、体重を8㎏減量したという。 

「概日リズムに伴う脳と体の変化」の図

「起床時と就寝時前後に、メラトニン(*1)とコルチゾール(*2)という2つのホルモンが、分泌を開始したり、停止したりすることで、私たちはスムーズに寝たり起きたりできています。特に、深い眠りが得られると右グラフのように成長ホルモンが分泌され、脳の老廃物アミロイドベータ(Aβ)を排泄する機能も1.6倍になります。さらに、脳波が1秒間に約1回(*3)になって記憶の書き込みがスムースに行われるようになって記憶力もアップします。つまり、7時間睡眠を続けると、脳はリフレッシュして若返るのです」(加藤さん・以下同)

 ところが睡眠統計では、20才以上の約3780万~4410万人の睡眠時間が、6時間未満という結果に。つまり、3人に1人が寝不足(*4)なのだ。

(*1)=体内にあるブドウ糖や脂肪をエネルギーに変える働きで覚醒を促す。
(*2)=脈拍・体温・血圧を低下させる働きで睡眠を促す。
(*3)=通常の脳波は1秒間に13~14回程度の周期。
(*4)=平成29年度「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)結果の概要より。

 人の脳内では夜9時頃から睡眠ホルモンのメラトニンが分泌され、入眠へ。そして夜10時〜夜中3時頃にかけて、深い眠りが得られると成長ホルモンが大量に分泌される。成長ホルモンが出る時間帯に深い睡眠を取ることが、若さを保つ秘訣でもある。

「睡眠時におけるホルモンリズム」の表

寝不足は想像以上に脳と体を蝕む!

 寝不足をすると万病を引き寄せ、脳や体やメンタルを蝕むこともわかっている。

「私も以前は寝る間を惜しんで働くショートスリーパーだったので、寝不足が脳に及ぼす弊害について知った時には、驚きを隠せませんでした」 

●寝不足が脳に及ぼす弊害

 その実体験で加藤さんが感じた主な弊害とは、次の通り。

●認知症リスクが上がる

「寝不足が続くと記憶力は低下し、いくら勉強しても成果が上がりづらい。実際、不眠症があると、仕事の生産性も20~30%低下するようです」

●何も食べなくても太る

「深夜、起きているだけで肥満ホルモンが分泌され、脂肪が蓄積されていきました。逆に、7時間睡眠にしたことで、自然と体重が8Kg減りました」

●感情をストレートに表してしまう

「寝不足の頃は、他人にキレやすかったのですが、今は人と衝突する回数も激減しました」

 具体的に、寝不足がもたらす8つのダメージについて見ていこう。

【1】脳に老廃物がたまりやすく、記憶力が低下しやすい

 睡眠時間が「6時間以下」「6~7時間」「7時間以上」の3群でアミロイドベータ(Aβ)の脳への沈着量を比較したところ、6時間以下群のAβの沈着量が最多だったという研究報告がある。「この結果は、寝不足で脳内老廃物の清掃機能が低下したために起こったと考えられます。Aβの沈着が海馬の近くに広がると、記憶力が衰えます」(加藤さん・以下同)。

【2】夜中起きているだけで太りやすい

 寝不足の人は体に脂肪をためやすく体重が減りにくいという研究結果もある。

「これは、夜中に起きていることにより、脳の視床下部がグレリンという食欲増進ホルモンを分泌し、『体に脂肪をためなさい』という指令を出すため。そのメカニズムの詳細はまだわかっていませんが、40代以降で食べていないのに太ると感じる人は、寝不足が原因の可能性大です」。

【3】不眠を5年続けると寿命が縮む

 睡眠が不足すると免疫機能が低下したり、全身に炎症反応が起こりやすくなるといわれている。この炎症が慢性化すると、認知症・がん・糖尿病・高血圧・うつ病などのもととなる。

「成人を20年間追跡調査した研究では、『不眠症なし』と『断続性不眠症(時々眠れない人)』に比べ、『持続的不眠症(常に眠れない人)』の5年生存率は低いとの研究報告もあります」。

【4】寝不足だと思考や感情が鈍感になりキレやすい

 徹夜での仕事など夜更かしが続くと、喜怒哀楽を感じる能力や思考、周囲への配慮が低下し、他人に対してキレやすくなり、幸せを感じなくなる傾向も。

「私も寝不足が続いた時は、人を思いやる気持ちが薄らいで、人当たりがきつくなっていました。ところが、夜10時半に寝て、朝6時に起きる生活に変えてからは、怒る気持ちが激減したのも事実です」

【5】不眠だとアル中などの依存症になりやすい

 不眠に悩む場合は睡眠導入剤やお酒の力を借りることもある。

「ただ、お酒は少量なら入眠に役立つこともありますが、酒量が増えやすく、飲みすぎると中途覚醒の原因になります。さらに、うつ病に罹患すると薬物依存症になりやすい。睡眠薬も徐々に耐性ができたりして用量が増え、中止困難になる場合もあります。使用する前に医師とよく相談してください」。

【6】成長ホルモンが出にくくなって、若さを失う

 骨、筋肉、臓器、血液など、全身の細胞は、成長ホルモンの命令により作られる。これは成長期だけでなく、死ぬまで続く営みだ。

「成長ホルモンは、入眠後の最初の深い睡眠で強く分泌され、浅い睡眠ではほとんど分泌されません。夜10時から夜中3時頃までの徐波睡眠(じよはすいみん)(深い眠り)時に分泌されます。これが分泌されないと老化が早まり、若さを失うのです」。

【7】男性より女性に睡眠障害は起こりやすい

 女性ホルモンの1つであるエストロゲンの分泌量の変動が大きいことから女性は、男性より睡眠障害が起こりやすい。出産期や生理前後にはエストロゲンの分泌量が増えるためよく眠れるが、出産後や閉経時に減少するため睡眠が乱れる。

「日本の女性は世界一睡眠時間が少ないとのデータ(*5)がある半面、平均寿命が世界一長い。これは、今後、大いに注目すべき点ですね」。

(*5)=経済協力開発機構の2018年度調査による。

【8】悪夢を頻繁に見るのは脳が不健康なサイン

 悪夢を見て目が覚めてしまったという経験は、誰にでもあるもの。だが、悪夢を見ると中途覚醒が起こりやすく、睡眠の妨げになるばかりか、自殺率も高くなるとの研究がある。

「悪夢を頻繁に見るようになったら、寝不足が続き、うつ症状が悪化しているサインだと自覚しましょう。医師に相談しつつ、睡眠時間を見直し、7時間睡眠を心がけることが大切です」。

 5年かかった睡眠改革は、大いに参考になりそうだ。

脳を休ませる入眠テクニック

 寝不足の怖さを知ったら、次に実践したいのが加藤さんオリジナルの「脳番地睡眠法」。8つの脳番地を意識し、脳を万遍なく使うのが寝不足解消のカギだ。

昼間の散歩と寝る前の日記を日課に

 寝不足解消のためには、スムーズな入眠がまず大切だ。

「脳はその働きによって、思考系・感情系・伝達系・運動系・聴覚系・記憶系、理解系、視覚系の8つの脳番地に大別できます。この8つを昼間、バランスよく使っていれば、眠りにつきやすいのですが、たとえば、昼間持った疑問や悩み事を思い出し、布団に入ってから考えてしまうなどが原因で、寝付けないこともあるんです。この場合、考え事や悩みを日記に書いて整理すれば、夜スムーズに眠れるようになります」(前出・加藤さん・以下同)

 8つの脳番地の働きは下図の通りだが、日中、いくつかの脳番地だけを酷使するなど、偏った使い方をしたり、使わなかったりすると、睡眠時に影響が表れる(*6)。

【「寝不足脳」を解消する8つの脳番地を覚えよう!】

脳番地を表したイラスト

【1】思考系脳番地
 考える時に働く。脳全体の司令塔。

【2】感情系脳番地
 喜怒哀楽などを感じる時に働く。

【3】伝達系脳番地
 自分の思ったことを言葉や働きで伝える時に働く。

【4】運動系脳番地
 全身を動かす時に働く。細かい動きも担当。

【5】聴覚系脳番地
 耳で聴く時に働く。

【6】記憶系脳番地
 情報を覚え、思い出す時に働く。

【7】理解系脳番地
 情報を整理する時に働く。

【8】視覚系脳番地
 目で見る時に働く。

睡眠不足でふらふらしながら外を歩く女性のイラスト

「脳番地をバランスよく使うのに、最も手軽でおすすめなのが日中、外出して歩くこと。外を歩くと手足を交互に動かして右脳と左脳を使うのはもちろん、目もスマホを見る時と違って遠くや近く、あちらこちらを見るため、眼球運動が自然にできるのです。そのほか、人と会って会話をすれば、話を聞いて言葉で伝えるため、聴覚系や伝達系、理解系などの脳番地がおのずと活性化できます」

 意識的に入眠しやすい状態がつくれれば、睡眠効果を高められるというわけだ。

(*6)=どの脳番地が眠れない原因なのかは、71ページの加藤さんの新刊にある24のチェックテスト、または、インターネットで提供される脳番地SRIテスト(https://www.nonogakko.com/information/)で調べられます。

記憶と感情のループを整理

寝る前に日記をつける女性のイラスト

 もう1つ覚えておきたいのが、理解系・感情系・思考系・記憶系という4つへの対処法だ。

 なぜなら、この4つは人が感じて考える時に働き、レム睡眠時も動くのでコントロールするのが厄介なのだ。

「なかでも、考えが堂々巡りしやすいのが記憶系と感情系です。記憶のループを避けるには日記の活用が有効ですが、感情のループを避けるには、ペットをなでたり、熱帯魚に話しかけるなど、気持ちが安らぐことを寝る前にするのが、コツになります」

 このほかにも、寝る前のコーヒーや紅茶、激しい口論、難しい話、スマホなどのチェックは避けたいところだ。

「いびきやアレルギー性鼻炎、睡眠時無呼吸症候群など耳鼻科や呼吸器系の疾患があると、睡眠時に脳が酸欠になりやすいので要注意。また、高齢者の場合は隠れ貧血になりやすいので、鉄分補給も大切です」

 このほか、下記の深部体温やセルフマッサージも参考に寝不足を改善しよう。

眠れない時の対処法

【1】AVA血管を使って深部体温を下げる

布団に入って眠る女性のイラスト

 入眠をスムーズにするもう1つのポイントが、深部体温を下げること。

 深部体温とは、直腸や脳など体内部の温度のことだ。深部体温は普段37.5℃くらいで、日中は上がり、夜間には下がるが、振幅は0.5℃程度。この体温調節をしているのが手先や足先にあるAVA(動静脈吻合)(どうじようみやくふんごう)血管で、深部体温を下げるためにはここが重要だ。

 具体的には、首・肩・腰を温めてAVA血管を開き、手のひら・足の裏が温かくなるのを待ち、温まったら、手と足を寝具から出し体の熱を冷ます。これで体幹は温めつつ、深部温度を下げられるため、スムーズに入眠することができる。なかなか寝付けない夜には、ぜひ試してみよう。

放熱状態を表した手と手首の血管のイラスト

 通常の動脈は毛細血管につながっているが、AVA血管は直接静脈につながっており、血液は心臓に戻る(上図参照)。手足を温めAVA血管を開くと、血流はそれまでの約5倍に増えるという研究結果もある。AVA血管で体が温まったら、右イラストのように寝具から手先・足先を出しながら眠るのがおすすめだ。

【2】ベッドの上で行う快眠マッサージ

●こめかみをグリグリマッサージ

こめかみをグーでグリグリとマッサージする女性のイラスト

 こめかみをグリグリと押す。動脈と静脈の2つの太い血管がこの辺りで枝分かれしており、ここをマッサージすることで頭部全体の血行が改善。酸素の供給や二酸化炭素の回収もスムーズになって頭も軽くなり、入眠しやすくなる。頭痛を和らげる時にも効果的だ。

 こぶしを軽く握ってこめかみに当てる。フーッと息を吐きながら、指の第2関節の先で両側からグリグリと動かす感じで押す。親指の先で押してもOK。

●眉間とその下をつまむマッサージ

眉間の下を親指と人さし指でつまむ女性のイラスト

 目のまわりにある動脈と静脈は脳内へと流れていくが、その出入り口になっているのが頭蓋骨(とうがいこつ)の上まぶたのくぼみの下側。親指と人差し指の先で、ここを軽く刺激すると緊張感が取れてリラックスできる。入眠がしやすくなるのはもちろん、目の疲れもスッキリ。

 両側の眉頭の間(眉間)と、その下の部分を、親指と人差し指の先でつまむようにもむ。この時、フーッと息を吐きながら行うと気持ちよさが倍増。

●頭と首の付け根を親指の先でマッサージ

女性の後頭部、耳の下から首の付け根に添ってツボを記したイラスト

 頭と首の後ろ側の付け根を刺激することで、静脈の血行を改善。脳にたまった血流がうまく流れ、脳の温度が下がりやすくなって快適な入眠につながる。親指の第1関節を少し曲げ、指先を食い込ませるように少し強めに押すのがポイントだ。

 親指の先で左右7つのツボを外側から内側へ、内側から外側へとずらしながら少し強めに押す。

●首のマッサージ

女性の上半身後ろ姿、首の後ろの筋肉と肩のツボを記したイラスト

 体重の10%ほどあるといわれる頭を支えている首への負荷は、首と肩のコリを引き起こすだけでなく、血流を妨げ、脳の温度が下がりにくくなる原因に。特に“スマホ猫背”の人は、ここをマッサージすることで血流が改善。入眠しやすくなる。

 人差し指・中指・薬指の指先で、首の後ろの筋肉と肩のツボを強く押しながらグリグリと動かす。

教えてくれたのは…

加藤プラチナクリニック院長 加藤俊徳さん: 脳内科医、MRI画像診断の専門家。「脳の学校」代表。新著は『脳が若返る最高の睡眠〜寝不足は認知症の最大リスク』(小学館新書)。

イラスト/サヲリブラウン

※女性セブン2019年10月17日号

●眠れないシニア…睡眠薬に頼るのは危険!うまく眠るためのコツ

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