2019.11.01 |暮らし    1

認知症の母が切り抜いた新聞記事が切なすぎた話

 盛岡で一人暮らしをする認知症の母のもとに、東京から通い介護を続ける工藤広伸さん。工藤さんは、認知症介護の経験や知識をブログや書籍などで公開しているが、そのノウハウは直ぐに役立つと好評だ。息子が母の介護をする、しかも遠距離で!と驚かれることも多いというが、工藤さんの介護に対する心構えや向き合い方には、今介護中の人も、介護が気になる人も必ずや参考になるはず。

 母のために新聞を取り続けているという工藤さんに、その深い理由と新聞にまつわるエピソードを教えてもらった。

新聞紙の山と眼鏡

新聞をとる人は減少中。しかし、工藤さんの母は今もかかさず新聞を読んでいるという(写真はイメージ)

 * * *

 母は、新聞に目を通すのが日課です。

「工藤さんのお母さんは、新聞を読めるのですか?」

 雑誌の記者の方から、こう質問を受けたことがあります。認知症になったら、新聞が読めなくなるという意味だと思うのですが、母は読めます。ただ、記事の内容は、読み終えた数分後には忘れてしまいます。

 それでも、新聞を取り続けている理由が3つあります。

新聞を取り続けている3つの理由

 1つ目は、新聞がカレンダーの代わりになるからです。

 母は新聞の日付を見て、今日が何日で何曜日かを理解しています。その日付と、わたしが居間の壁に掛かっている大きな紙のカレンダーに書いた予定と照らし合わせます。

「今日はデイサービスの日だな」
「明日はヘルパーさんが、朝9時に来るな」

 母は1日に何度も、新聞とカレンダーの予定の両方をチェックします。新聞は今日という日付を示す、ツールの1つなのです。

 ただ、母が新聞を整理し忘れると、大変です。居間に残っていた昨日の新聞を読んだ母が、今日あった事件のように驚いたこともありましたし、デイサービスに行く日と勘違いして、出かける準備をしていたこともありました。

 そういったことのないよう保険をかけていて、デジタル電波時計が居間の紙のカレンダーの真下に掛かっています。

 デジタル電波時計には、いつも正しい日付と曜日、時間が表示されているので、最終的には新聞よりも、このデジタル電波時計の日付を優先して、母は今日の日付を認識しています。

 2つ目は、母が40年以上続けている、新聞を読むという習慣を守りたいからです。

 新聞の内容を読んだそばから忘れたとしても、文字を読んだり、触れたりする機会まで奪いたくありません。読んでいる瞬間はきっと、母は記事の内容から、何かを感じとっているはずです。そのときの感情も、すぐ忘れてしまうのですが。

 すでにたくさんの習慣を失ってしまった母ですが、いまだに残っている習慣もあるので、それらは継続して欲しいと思っています。

 3つ目は、母は新聞を切り抜くのが大好きだからです。

 孫が地元の新聞に掲載されたときは、100円ショップで買った額ぶちに切り抜きを飾りました。かわいい犬や猫の写真、岩手山の写真など、自分のお気に入りの写真を切り抜いては、額ぶちに飾っています。

 居間はたくさんの額ぶちであふれかえっているのですが、母はまだ「額ぶちが欲しい」と言います。わたしは「置くところがないから、やめようね」と、いつも返事しています。

居間の掃除をしているときに見つけた切り抜き

 ある日のことです。母がデイサービスに行ったあと、わたしは居間の掃除をしていました。

 母は認知症になってからも、掃除機をかけたり、床の拭き掃除をしたりしていた時期もあったのですが、最近は全く掃除をしなくなりました。それでも部屋をキレイに保つ意識だけはあって、部屋にある置き物を同じ向きに揃えています。

 椅子をどけて、掃除機をかけようとしたところ、折込チラシを見つけました。母は新聞の切り抜きの他に、気になる折込チラシがあれば、それも取っておく習慣があります。

 特に、リフォームのチラシが気になるようで、実家に帰るたびに必ずリフォームのチラシがあります。週2回のデイサービス以外は、ほぼ自宅にいる母。50年近く経った家の柱や天井の汚れが気になっているので、いつかリフォームをしたいと思っているのでしょう。

 このリフォームのチラシを、わたしは定期的に廃棄しています。なぜかというと、母が業者に電話をして、わたしの不在中に契約までこぎつけてしまうかもしれないからです。工事の詳細や契約の内容まで理解できなくても、母は取り繕って、契約してしまうかもしれません。
 
 リフォームのチラシの他に、新聞の切り抜きを1枚見つけました。いつものように、かわいい犬の写真を切り抜いたのかな?と思って、切り抜きを手に取ると、大きな文字でこう書いてありました。

「家族に迷惑をかけたくない!!」

「もの忘れが改善する?」と謳った、サプリメントの広告でした。

 母はなぜ、この広告を切り抜いて、取っておこうと思ったのでしょう?

 母は今でも自分は認知症ではなく、年相応のもの忘れで、同じ世代の人たちと何も変わらないと思う日もあれば、自分は認知症だから、毎日お薬を飲まなければいけないと思う日もあります。

 そんな気持ちが揺れ動く日々の中で、母はわたしに迷惑をかけたくないと思い、新聞を切り抜いたのかもしれません。また、わたしが東京から盛岡まで介護で通っていることを、申し訳ないと思っているのかもしれません。

 確かに母は、「いつも帰ってきてもらって悪いわね」と、わたしによく言います。そういった思いが母の中にいつもあるから、あの広告を切り抜いたのだと思います。

「大丈夫、迷惑なんてかかってないから」

 わたしは新聞広告の切り抜きを、古新聞の山の途中にそっと差し込みました。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

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  1. 匿名 より:

    記事の中に「感情も忘れる」とありますが、認知症の方は感情は残るといわれています(感情を司る脳の部分は障害されないため)。
    記事を読んだ方が誤解すると大変なので訂正。
    こちらの記事などが参考になるかもしれません
    認知症と家族の会の記事
    http://www.alzheimer.or.jp/?p=3371

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