2019.11.02 |暮らし    1

介護施設訪問レポート|おむつゼロ!自立支援介護に取り組む特別養護老人ホーム<前編>

 高齢者向けの住宅の中から、話題の施設をピックアップ。記者が訪問し、施設で働く人の思い、設備、サービスなどをレポートする。今回は、東京都渋谷区にある特別養護老人ホーム(特養)「杜の風・上原」だ。

杜の風・上原

「おむつは買っていません」。そう語るのは、特別養護老人ホーム「杜の風・上原」施設長の齊藤貴也さん。なんと、ここでは入所したその日から全員、おむつを外すのだという。

特養の施設長

政府の未来投資会議に介護の専門家として出席した齊藤さん

おむつゼロで「健康で元気で、明るい生活」を実現

 杜の風・上原を運営する社会福祉法人「正吉福祉会」は都内を中心に8つの拠点を持ち、特別養護老人ホームやデイサービス、居宅介護支援センターなど104の事業を展開。杜の風・上原は2013年の開設当初からおむつを買わず、おむつゼロを目指してきたという。その結果、わずか半年で「常時の便失禁あり」33%が1.1%に減少、「常時の便失禁なし」が67%から98.9%に増加という劇的な変化が。おむつの必要がなくなり、おむつゼロを続けているという。

特養の外観

代々木上原駅から徒歩7分と利便性も高い

特養の隣りにあるこども園

併設されている認定こども園とも交流がある

 では、なぜおむつをゼロにすることができたのだろうか。「おむつを望んでいる利用者はいない」「排泄の失敗が自信を喪失させ、自立に対する意欲をなくしている」との考えが施設全体に浸透しており、職員が一丸となっておむつゼロの目標に取り組んでいるという。そして、おむつをすることになる原因である便失禁を防ぐために、「下剤の廃止」「規則正しい生活」「規則正しい食生活と常食」「水分摂取」「起床時冷水」「食物繊維(ファイバー)」「運動(歩行能力の回復)」「決まった時間の排便」「座位(トイレ等)での排便」など数々の施策を実施。これらを実施することで、生理的で規則的なトイレでの排便が実現できるようになるそうだ。

特養の避難訓練の様子

この日に行われていたのは避難訓練

「今までおむつが外れなかった人はいません。もちろん、最初は失敗しますが、できるだけ短い期間で成功まで持っていく理論や実践するための方法があります。例えば、水分を1500cc摂るために50種類の飲み物を用意し、液体で飲めない方はゼリーにするなどの工夫をしています。入所時は便失禁している方が多いですが、それは腸の機能が低下していて便が作れなくなっているから。うちでは下剤をなくして、ヨーグルトや食物繊維、オリゴ糖を摂ってもらい、腸の機能改善を図ります」(齊藤さん 以下「」は同)

特養で用意されている50種類の飲み物

温かさ、冷たさにも配慮して提供

おむつ外しにつながる歩行訓練

 おむつを使わない介護の背景にあるのは、自立支援介護の介護の考え方だ。水分、食事、運動、排泄のケアを行い、目に見える結果としておむつゼロを実現している。自立するため、そしておむつを外すために重要なポイントは歩けるようになること。90歳を超えると足の筋力が衰え、車椅子になっても仕方がないというイメージを持っている人も多いと思うが、齊藤さんはそれを否定する。

「今までは、車椅子の方たちを改善できなかった理由を、筋力の衰えのせいにしていたんです。しかし、そうではなくて、長期間歩かなくなったことによって、歩き方自体を忘れてしまっていることが原因であることが多いのです。こちらでは5秒立てるようになれば、すぐに歩く練習を開始します。トイレの時に立つ練習をしていると、立位が安定してきます。立位が安定すれば、歩行器を使って歩く練習を始めます」

特養の入居者の様子

入居時に寝たきりだった人が車椅子、車椅子の人が歩けるように

 水分、食事、運動、排泄のケアは認知症に大きな効果を出しているという。脱水と運動不足によって覚醒状態が悪くなっているが、水分を摂り、運動をするようになると、どんどん覚醒していくのだという。

 要介護度5、尿・便失禁があり、ほとんどベッドで排泄。移動は車椅子で、声かけにほとんど反応がなかった93歳の女性がいる。彼女は自立支援ケアによって便失禁がなくなり、半年後には歩行器で歩行し、会話も成立するようになったという。自立支援ケアに取り組んでいる様子を記録した映像を見せてもらったが、半年で別人のように表情が生き生きとしていくのが印象的だった。

国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授の著書

国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授が提唱する理論が支柱に

 このような取り組みは数字にも表れている。2017年4月から2019年3月の新規入所者の要介護度の変化を見てみると、入所時平均が3.95。そして、入所後に介護保険認定を更新した19人の数字が2.95となっており、要介護度が改善したことが分かる。

「悪化は0で、維持が9人、改善が10人という結果になっています。要介護度5の人は改善しにくいと言われていますが、逆の結果が出ています。要介護度5の5人が更新していますが、100%改善しています。その内訳は2人が4、2人が2、そして1人は1まで下がりました」

特養で働く医師

医師とも連携しながら自立支援に取り組む

 おむつゼロを実現し続けている杜の風・上原の取り組みは日本全国のみならず、世界中から注目されている。多くの人が視察に訪れており、齊藤さんの説明資料は英語に加えて中国版まである。取材で訪れてから帰るまで、多くの介護施設が悩んでいる便のにおいが、おむつゼロの効果で全くしなかったことも付け加えておきたい。

広々とした特養のロビー

お茶会も開かれる広々とした1階ロビー

撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ

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【データ】
施設名:「杜の風・上原」特別養護老人ホーム正吉苑
公式WEBサイトhttp://shoukichi.org/shibuya/
所在地:東京都渋谷区上原2-2-17
最寄駅:小田急線・東京メトロ千代田線「代々木上原駅」より徒歩約7分
類型:特別養護老人ホーム
事業主体:社会福祉法人「正吉福祉会」
敷地面積:3371.32平方メートル
延床面積:7913.89平方メートル
室数:80室
入居要件:介護保険の「要介護4~5」と認定された人。要介護1・2・3と認定された人であっても特例的に入所が認められる場合がある。(渋谷区ホームページより抜粋)
構造:地上階7階、地下階1階
開設年月日:2013年4月1日
料金:介護保険1割負担の場合の食費・居住費・各加算など込みの1か月(30日)あたりの利用料金は以下の通り。
要介護1:ユニット型介護福祉施設サービス費・利用者負担額2万880円
要介護2:ユニット型介護福祉施設サービス費・利用者負担額2万3070円
要介護3:ユニット型介護福祉施設サービス費・利用者負担額2万5440円
要介護4:ユニット型介護福祉施設サービス費・利用者負担額2万27690円
要介護5:ユニット型介護福祉施設サービス費・利用者負担額2万9880円
食費(段階4):4万5000円(1日あたり1500円)
居住費:6万180円(1日あたり2006円)

※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。

●全室個室のユニット型!従来のイメージを覆す特別養護老人ホーム<前編>

●小規模多機能居宅介護、保育園もある目黒区の特別養護老人ホーム<後編>

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  1. おくと より:

    認知症の解決がないからこそ ホントに明るい記事でした!これからも 施設の取り組み知りたいです。在宅でも使えるように取り上げて下さい!

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