2019.12.19   

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第20回 認知症は世間話が上手?】

 若年性認知症を患う兄と2人で暮らすライターのツガエマナミコさんが、巻き起こるハプニングや日常のあれこれを綴る連載エッセイ。

 引越しを機に、病状は進んだように見える兄だが、世間の人には、うまく取り繕うこともあるようで…。

「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。

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 * * *

何度も新鮮に同じ話をする兄

 引越しを境に、わたくしは世帯主になりました。そのほうが今後は良いだろうと判断したからです。

 そのきっかけはマンション売買でした。当時は兄が世帯主だったので、本来ならば兄が契約書類の数々に署名しなければならないのですが、住所を書くにも時間がかかるため、わたくしが代理人としてせっせと署名をいたしました。本人ならば1枚に1回住所氏名を書けばいいところを、世帯主の分、代理人の分、署名人の分として1枚に3回も同じことを書くという作業を何枚も繰り返したわたくし。お陰で新しい住所はあっという間に覚えました。覚えてほしいのは兄のほうなんですけれどもね…。

 そんな契約書を交わす前、世帯主の兄が署名しない事情を説明するため、はじめて兄の病気のことを不動産屋の紳士にお伝えすると「え?まったく気づきませんでした」とリアクションされました。

 多少気を使われたかとは思いますが、親戚や友人の感想でも「まったく普通。全然わからない」と口をそろえて言うくらい世間話はとても自然にできる兄。まるでわたくしが病気を大げさに言っているようでしゃくにさわるくらいです。

 とはいえ、わたくしが聞いている限り、不動産屋の紳士にも、保険屋の淑女にも、宅配便の青年にも話すことはだいたい一緒で、何度目だろうと「毎日大変ですね」「この時期は忙しいんですか?」「今日はこの後何軒回られるんですか?」の3ワードでございます。

 部屋を売りに出したとき内覧に来られたご家族には「ここは小中学校が近いからいいですよ、ハッハッハ」という話を20分ほどの間に3回して、わたくしは「もうそれ以上はやめて」とヒヤヒヤいたしました。

 その場の会話に合わせることはなんとかできますけれども、内容は風のように通り過ぎてしまい、何度でも新鮮に同じ話をしますし、どんなに印象深い映像も兄の記憶には残りません。

 例えば、同じ災害についての連日の報道にも毎回「え?何?どうしたの?」と実に鮮度のいいリアクションをなさいます。そうかと思うと今日起きたニュースに「これ昨日も見たな」と言ったりもします。

 実は、この言動は亡き母にもありました。夕方の速報に「今朝からやってるわね、これ」と言い、大きな事故や災害は何度見ても「えっ!?あら~どこ?」と驚いていましたから…。認知症にありがちなことなのでしょうか? それとも親子の遺伝? 

 最近兄がよく言うのは、バラエティ番組を見ながら「これ何本録りだよ。先週も先々週も同じ顔ぶれだな」との発言。すかさずわたくしの心の声は「いやいや、今食べたものも覚えてないのに?」と反応してしまいます。

 ただ、兄なりに現状維持を図りたいのか、テレビに映る人やモノの名前を小さく声にすることが増えました。兄、頑張っています。

 でも女子スポーツ選手が映るとみんな大坂なおみさん、男子はだいたいオオタニサン(大谷翔平さん)。

 最近の人の名前を覚えたことはエライですが、顔とは一致していない様子。しゃれたスパゲティが映るとペペロンチーノ、流行りの洋菓子は全部ティラミス……はい、ちょっと残念(笑)。

 訂正したほうがいいのか、そこは「美味しそうだね、ティラミス」と言ってさしあげたほうがいいのか、判断に迷う昭和生まれの妹でございます。

つづく…(次回は12月26日公開予定)

文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性56才。両親と独身の兄妹が、5年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現60才)。現在、兄は仕事をしながら通院中だが、病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

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第1回 これからどこへ引っ越すの?
第2回 安室ちゃんは何歳なの?
第3回 この光景見たことある
第4回 疑惑から確信へ
第5回 今日は会社休み?
第6回 今年は何年ですか?
第7回 アパート借りっぱなし事件
第8回 アパートはゴミ屋敷
第9話 全部処分していい
第10回 で、どうすりゃいいの?
第11回「奥さん」じゃないんですけど…
第12回 たびたび起こる出社拒否
第13回 退職金が出ない!?
第14回 兄の焼肉病
第15回 社長様のお説教
第16回 住所が書けない
第17回 マンション買い換え
第18回 引越しは大格闘スペクタク
第19回 兄、新居を覚える

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