2019.12.03   

高木ブーが免許返納を決めた深イイ話 【シリーズ連載第5回 運転免許証の返納】

 何歳になっても楽し毎日を過ごす秘訣とは!? ザ・ドリフターズのメンバーとして、私たちを大笑いさせてくれた高木ブーさん。まだ今ほど高齢者の免許証返納が話題になる2年ほど前に、84歳でクルマの運転から潔く引退した。そのときの心境や免許証返納を通じて気づいたことから、上手に年齢を重ねる秘訣を学ぼう。(聞き手・石原壮一郎)

→第1回 ウクレレ
→第2回 家族
→第3回 おままごと
→第4回 大切な仲間

免許返納を決めた理由

「お父さんは今までずっと子どもたちを笑顔にしてきたのに、人生の終わりになって悲しませるようなことをしちゃいけないと思う」――。

 娘にそう言われて、免許証の返納を決めたんだよね。2年前の春かな。その頃はまだ珍しかったからか、返納した直後に小池百合子知事や警視総監が出席する東京都のセレモニーに招待されちゃった。

 娘のかおるはもうだいぶ前から、僕が運転することに不安を抱いていたらしい。だけど、本人はまったく自覚がなかった。目も耳も問題ないし身体も元気だから、免許を返納しようとか返納しなきゃという発想自体、まったくなかったんだよね。

 実際は免許を持っていた最後の何年かは、クルマはたいして乗っていなかった。毎日通ってるスポーツクラブと、あとたまに近所の銀行に乗ってくぐらい。そもそも「スマート」っていう二人乗りの小さいクルマだったから、遠いと言ってもせいぜいお台場が限界だったけどね。10年乗ってたけど、走行距離はたった5000kmだった。

 クルマを自分ちのシャッターに軽くぶつけちゃったことがあって、娘はそれをきっかけに「どう説得して免許を返納させよう」と思い始めたらしい。もし頭ごなしに「もう歳なんだから、運転しないで!」って言われてたら、カチンと来て「俺はまだ大丈夫だ。返納なんてするもんか」って意固地になってたかもしれない。

 ある日、娘に諭された。ウチの前はスクールゾーンで朝と夕方に子どもたちがたくさん通る。まかり間違ってその子たちにケガでもさせたら取り返しがつかない。ニュースを見た全国の人たちも「あの高木ブーが……」ってガッカリする。ダメ押しに最初の言葉を言われて、たしかにそうだなと納得したんだよね。

 娘も言いづらかっただろうけど、言ってくれてよかったよ。ずっと人を笑わせる人生を歩いてきたんだから、最後までまっとうしなきゃと思った。

作画/高木ブー

免許返納、どう親を説得するか

「親をどうやって説得するか」で悩んでいる人も多いようだけど、「今までの人生の積み重ねが台無しになっちゃうよ」とか「事故なんか起こしたら孫の○○が悲しむよ」とか言うと、けっこう響くんじゃないかな。

 何日かあとに「返納することにしたよ」と言いながら、免許証を赤いひもで十字に縛って娘にわたした。自分なりに封印したつもりでね。そのときは、まだ有効期限が半年ぐらい残ってたけど、未練はなかった。家族で旅行に行ったことや亡き妻と二人でドライブしたりしたときのことは、チラッと思い出したかな。

 いよいよ返納する前の日に、日テレが「高木ブー・ラスト運転」っていう番組を作ってくれた。局が用意したクルマに乗ってスタジオの周辺を走るんだけど、それが高級国産車で運転しててすごく快適だったんですよ。日本のクルマってよくできてるじゃない。そのときは「やっぱり運転って楽しいな。早まったかな」って少し後悔した。まあ、そんな番組まで作ってもらって、「やっぱり返納やめます」とは言えないもんね。

 僕は今、必要があれば娘の旦那さんが運転してどこでも連れて行ってくれるし、都会だとまあどうにでもなる。でも、クルマがなかったら病院にも買い物にも行けないっていう人は、簡単に返納できないよね。みんなそれぞれ事情があるから、僕には「○歳になったら絶対に返納すべきだ」とは言えない。難しい問題だなあ。

 とりあえず大切なのは、「自分はまだまだ若い」と過信しないことかな。何か言われるとすぐ「年寄り扱いするな!」なんてムキになる人たちも、昔はそんなこと言ってる高齢者を笑ってたと思う。自分の老いを認めて、歳を取ったなりにできることをできる範囲でやろうと思うことが、ずっと楽しく過ごしていくためには必要な気がする。

「ずっと人を笑わせる人生を歩いてきたんだから、最後までまっとうしなきゃ」

 

高木ブー(たかぎ・ぶー)

1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1963年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。2020年2月16日にハワイで開催される「ウクレレ・ピクニック・イン・ハワイ」への出演が決定!

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。

撮影/菅井淳子

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●毒蝮三太夫が伝授!高齢者と話すきっかけ作り

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