2020.01.07   

“ラジオの寅さん”毒蝮三太夫が明かす渥美清さんの秘話【第8回 寅さんと俺】

 最新作が公開中の映画『男はつらいよ』シリーズ。寅さんとまむしさんは、実は深い絆で結ばれていた。「ラジオの寅さん」と呼ばれ、かつて寅さんの“恋敵”も演じたまむしさんは、寅さん的なちょっと困った存在をどう考えるのか。今こそ『男はつらいよ』の世界から学びたいこととは。とっておきの“秘話”を盛り込みながら語ってもらった、高齢者との望ましい接し方について。(聞き手・石原壮一郎)

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毒蝮三太夫

寅さんを演ずる渥美清さんとの絆とは?

「ラジオの寅さん」と呼ばれた

 今、映画館に行くと『男はつらいよ』の50作目(『男はつらいよ 50 お帰り 寅さん』)をやってるじゃない。大ヒットなんだって。すごいよね、渥美清さんも山田洋次監督も。

 渥美さんなんて亡くなってもう20年以上経ってんだよ。だけど、新しい作品でお客さんを集めて、みんなに感動を与えている。

 自慢じゃないけど、俺も「ラジオの寅さん」なんて言われてたんだぜ。尊敬する渥美清さんが国民的シリーズで演じた役と並べて言ってもらえるなんて、光栄の至りだよね。

 俺のラジオの「ミュージックプレゼント」と、映画の『男はつらいよ』シリーズが始まったのは、同じ1969(昭和44)年なんだ。いつだったか浅草ビューホテルのロビーで、渥美さんにバッタリ会ったときにそのことを言ったら、「そうかい。じゃあ、お互いに長く元気でやらなきゃね」って言ってたんだよな。

 渥美さんっていう人は、ほんとにすごい人だった。芝居は上手だわ歌は上手だわ、おまけに人間性も素晴らしい。あの人は昔の下谷区(現・台東区)の車坂町っていって、絵に描いたような下町で生まれ育ったんだ。ガキの頃は近所の寺の息子だった永六輔さんなんかこき使って、鉛の水道管とか電線とか集めて売りに行ってたらしいよ。

第11作「寅次郎の忘れな草」に出演

 柴又っていう町は、寅さんのおかげですっかり有名になって、帝釈天(たいしゃくてん)にもたくさんの人がお参りにやってくる。映画の元になったテレビの『男はつらいよ』をやるときに、帝釈天と足立区の西新井大師のどっちにしようかって話もあったらしい。柴又のほうは江戸川の広い河原や渡し船があるから、そのほうが絵になるってんで選ばれたそうだ。

 だから、西新井大師の参道の店とかに行くと、「まむしさん、あっちは寅だけどこっちは蝮ってことで、どんどん盛り上げてよ」なんて言われるんだよね。テレビ版の寅さんは最後にハブに噛まれて死んじゃうんだけど、俺は蝮だからなあ。惜しかったな。

 俺も1回だけ、映画の『男はつらいよ』に出てるんだぜ。シリーズ第11作の「寅次郎忘れな草」で、最後のほうにちょこっとな。浅丘ルリ子さんが演じる歌手のリリーが、寅さんへの恋心を抑え込んで堅気になろうってんで、寿司職人の俺と結婚して店を開くわけさ。

 目の前でリリーに「ねえ、さくらさん、あたしほんとはね、この人より寅さんのほうが好きだったの」なんて言われて、「またそれ言う」って困ってる。あれは、なかなかいい男だった。口数も少なくてな。言ってみりゃ、寅さんから大事な女性を奪うわけだ。それも浅丘ルリ子だぜ。どうだ、おそれいったか。ま、すぐ離婚されちゃうんだけどね。

寅さんみたいな面倒くさいジジイやババアを受け入れる

「ラジオの寅さん」と言われるのは光栄だけど、俺は寅さんほどはた迷惑でいいかげんな男じゃない。あんな困った男はいないよ。だけど、みんなが寅さんを見捨てないで、しょうがないなと思いながらやさしく受け入れてやってる。世の中も今よりおおらかで、寅さんみたいなヤツが生きていける場所がある。そこがいいよね。

 ジジイやババアの中にも、面倒臭くて扱いづらい寅さんみたいなヤツもいる。いいじゃないか、そういうふうにしか生きられないんだから。丸ごと否定したり見下したりする権利は、誰にもないよ。おいちゃんやおばちゃんやさくらになったつもりで、やさしく受け入れてほしいね。ときにはケンカ腰で言い合ってもいいから。

「ちゃんとした人間」しか受け入れられない世の中なんて、窮屈でしょうがない。誰だって、どっかちゃんとしてないんだからさ。面倒臭いジジババにやさしくすれば、いつか自分に返ってくる。俺はそう思うな。先の話はさておき、そう接したほうが気分いいしね。

■今回の極意

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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう) 

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からTBSラジオの「ミュージックプレゼント」でパーソナリティを務めている。83歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう) 

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載ではまむしさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

撮影/政川慎治

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第1回 ありがたい存在
第2回 ヨイショ
第3回 みんな図書館
第4回 戦争体験
第5回 高齢者との付き合い方
第6回 日野原重明さんに教えてもらった大切なこと
第7回 親との正月

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