2020.01.02    1

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第22回 さようなら障害年金】

 ライターのツガエマナミコさんは、若年性認知症を患う兄と2人暮らし。病気がわかってからも、会社勤めを続けてきた兄だったが、とうとうそれも厳しい状況になり…。引越し、休職など刻々と変化する生活を綴る連載エッセイ。

「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。

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退職金なし。年金も雀の涙。そして障害年金まで…

 兄は、会社に行かなくなってからというもの、ずっとリビングのテレビ前を陣取っており、何をするでもなくテレビに向かい、ときどきベランダに出て外を眺めるというご隠居生活を送っていらっしゃいます。

 厳密にはまだ休職中となりますが、もうすぐ61歳という年齢からしてもまさに「定年後の夫」像そのもの。夫婦に例えるのは気持ち悪いですが、「熟年離婚」につながる「妻のストレス」を疑似体験しているようでございます。

 それでも妻なら退職金や年金目当てで我慢するという理由もございましょう。ですが、我が兄は退職金なし、年金も長期未納があったので雀の涙ですから、収入面ではあまり恵まれません。兄妹間には遺族年金(夫が亡くなった後、妻に負荷される年金)もありませんしね。

 おまけに先日、もうひとつの事実が判明いたしました。

 障害基礎年金(※参照URL)でございます。これは病気やケガで仕事ができなくなった場合に受け取ることができる国の公的な年金です。年金は収めているので、これはいただかなくては、と思い、いそいそ年金事務所に行ったのですが、結論から申し上げると「出ない」というお話です。

 兄は障害基礎年金をいただける条件を満たしていなかったのでございます。

 障害基礎年金をいただくためには、いくつかの条件がございまして、とても簡単に言うと、兄の場合は病気になった1年前に年金を納めていなかったのでアウトとのことでした。

 いや、納めてはいるのです。わたくしが兄の年金未納に気づいて、できる限り遡って支払ったので、その頃の分も納入済みではあるのですが、病気が分かってからの納入だったので、認められないのです。

「いろいろ忘れてしまう病気なのになぁ」と理不尽を感じずにはいられませんでした。でもラインはライン。いろいろな例外を作ると判断が難しくなるのだろうとグッと飲み込みました。

 ただ、わたくしが腹立たしかったのは、そのプロセスでございました。

 年金事務所に出掛けた初日「今日は混んでいるので予約がない人は無理」と言われたのです。なんとも冷たい塩対応に「そんなことなら予約必須とアナウンスしろ!」と心で叫びました。わたくしの後に来た方も「今日やっと仕事を休んで来たんです。待ちますから」と切実でしたが、結局予約を取ってお帰りになりました。

 わたくしも「一番早くて3週間後」という予約を取って出直しになり、そのあげく2度目には「初診日」をめぐって結論が出ず、後日正確な初診日を調べ直して電話でお伝えしたら「残念ながら」という結論でございました。

 みなさま、障害基礎年金をいただくにあたり、もっとも肝心なのは「初診日」でございます。これが分からないと何も始まらないのでお気をつけあそばせ。

 わたくしは、てっきり認知症と診断していただいた大学病院の初診日だと思って疑わなかったのですが、大学病院に紹介状を書いてくださった内科があったことをお話しすると「その病院の初診日です」と言われたのです。

「そっち!?」と、もうがっかりでした。

 兄に訊いても分かるはずがないので、後日、大学病院に電話をし、どこの病院の紹介状だったかを調べていただき、その内科病院に電話をし、兄が受診した日をやっと聞き出したのに、それもこれもまったくの徒労に終わりました。

 というわけで、兄は退職金に続き、障害基礎年金もいただけません。けっこう真面目に働いてきたのに、なんだか気の毒でございます。ただ、そう思っているのは強欲なわたくしだけで、兄は今日もテレビを見て楽しんでおります。

つづく…(次回は1月9日公開予定)

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性56才。両親と独身の兄妹が、5年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。現在、兄は仕事をしながら通院中だが、病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

この連載の一覧へ!

第1回 これからどこへ引っ越すの?
第2回 安室ちゃんは何歳なの?
第3回 この光景見たことある
第4回 疑惑から確信へ
第5回 今日は会社休み?
第6回 今年は何年ですか?
第7回 アパート借りっぱなし事件
第8回 アパートはゴミ屋敷
第9話 全部処分していい
第10回 で、どうすりゃいいの?
第11回「奥さん」じゃないんですけど…
第12回 たびたび起こる出社拒否
第13回 退職金が出ない!?
第14回 兄の焼肉病
第15回 社長様のお説教
第16回 住所が書けない
第17回 マンション買い換え
第18回 引越しは大格闘スペクタクル
第19回 兄、新居を覚える
第20回 認知症は世間話が上手?
第21回 兄、会社を休職

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  1. れれたん より:

    障害年金のお話ですが、例外で認められる場合がありますよ。もう亡くなりましたが、わたしの知人が糖尿病でかなり進行して大変な状況の時に申請し、やはり初診の病院の初診日が必要とかで、20数年前の遠方の病院で、しかも現在は無くなってしまっている病院の初診日がわかるはずもなく、何度か年金事務所に掛け合ったらしいです。何度掛け合ったのかは知りませんが…。すると、障害年金を支給する人を決める会議に議題に上がり、特例として受給が決定したそうです。残念ながらその知人は折角貰える事になった年金をもらえる前に心臓発作で急逝してしまいましたが。

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