2020.01.09    1

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第23回 はじめての「家族の会」】

 若年性認知症の兄と暮らすライターのツガエマナミコさんが、日々の生活を綴る連載エッセイ。

 会社を休職した後、自宅でのんびりする兄。その様子を見ながらさまざまな想いが去来する妹のツガエさん。今回は家族会に参加した時のお話だ。

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情報を求めて家族の会に参加したものの…

 わたくしは誰かと共に暮らすことが向いていないような気がいたします。

 せっかくキレイに掃除したところを汚されると腹が立ちますし、誰かのせいで自分の段取りが狂わされることにもイラっとする器の小っさい性格でございます。つくづく独身向きであり、伴侶や子どもに恵まれなかったことは正解だったと思うなか、ボケゆく兄というやっかいな生きものを引き受けることになってしまって、とどのつまり人生の試練は回避できないのだと悟りました。

 たとえボケゆく兄を回避しても、違う形で同じ質量の試練が待っているに違いない。そしていつか、掃除したばかりの床を汚されても「なんでや、ぼけー」と思わないくらい心の広い人間になるまで修行が続くような気がいたします。

 そんなわたくしが、ずっと回避してきたもののひとつに「若年性認知症の人と家族の会」がございます。平たく言うと若年性認知症本人や家族が集って情報交換をする場でございます。

 兄が認知症だとわかった頃からその存在は知っていましたし、2年前に資料も取り寄せてはいたのですが「まだ仕事しているし」という言い訳で先延ばしにしてきました。

 先日、そんな家族の会に意を決して参加してきました。その頃まだ兄はかろうじて仕事をしていたので、わたくし1人参加です。

 わたくしが参加した家族の会は、みなさんの顔が見えるよう、ロの字に机を並べた会議室でした。参加者は各地域の区役所の福祉担当や若年性認知症支援コーディネーターと呼ばれる人たちが7~8人と認知症専門医、会長、そして若年性認知症本人とその家族が4~5組でした。

 自分の名前を書いた札をテーブルに置き、まずは唱歌「ふるさと」をみんなで歌うというセレモニーから始まり、もうこの時点で帰りたいほど苦手な雰囲気でした。

 会で話された内容は決して口外しないという約束の下、自己紹介や病気の経緯などを順番に話していきました。わたくしは、兄のような人間でも働ける場所があるのかどうか知りたかったのですが、11時~15時までいて結局わからず、わたくしにとって実のある話しはほとんどありませんでした。ただひとつ学んだことは、わたくしの不満や不安はほかの方に比べたら足元にも及ばないということでした。

 若年性認知症が老人性認知症と違うのは、子どもにまだまだお金がかかる年代に収入が激減してしまうこと。会社はやめさせられないまでも部署の異動、給料の減額は当たり前で、小さな会社では自主退社に追い込まれたり、個人経営者ならば文字通り死活問題です。同時に親の介護も絡んでくる年代なので苦しみは何重にもなってしまいます。50代の夫が認知症であるというお隣のご婦人の話しを聞きながら、わたくしの試練はまだまだ甘い方だと痛感いたしました。

 さらに言えば、兄をネタにこうして文章を書いているのですから試練だなどと言っては罰が当たるのかもしれません。

 家族の会には、それ以来行っていません。年会費を支払って正式に入会すればもっと多くの情報が得られるのかもしれないですが、以前兄に「行ってみない?」と言った時、「行って何するの?」と訊かれて、「何するって…情報交換とか…モゴモゴ」と口ごもってしまい、我ながら行く意味がわからないことに気づかされました。

 なんとなくプライベートを晒すだけで終わってしまった印象がぬぐえません。ただ、兄はもしかしたら自分と同じ病気の方々とお目にかかることで「自分だけじゃない」と安堵したり、心強く思うかもしれません。

 だとすればやはり、兄を連れて参加する意味は大いにございましょう。わたくしのえり好みで家族の会を避けてはいけないと、いま振り返りながら改心いたしました。

 いつか兄を連れていきます。そう、たぶん、いつか絶対…。

つづく…(次回は1月16日公開予定)

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性56才。両親と独身の兄妹が、5年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。現在、兄は仕事をしながら通院中だが、病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

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第1回 これからどこへ引っ越すの?
第2回 安室ちゃんは何歳なの?
第3回 この光景見たことある
第4回 疑惑から確信へ
第5回 今日は会社休み?
第6回 今年は何年ですか?
第7回 アパート借りっぱなし事件
第8回 アパートはゴミ屋敷
第9話 全部処分していい
第10回 で、どうすりゃいいの?
第11回「奥さん」じゃないんですけど…
第12回 たびたび起こる出社拒否
第13回 退職金が出ない!?
第14回 兄の焼肉病
第15回 社長様のお説教
第16回 住所が書けない
第17回 マンション買い換え
第18回 引越しは大格闘スペクタクル
第19回 兄、新居を覚える
第20回 認知症は世間話が上手?
第21回 兄、会社を休職
第22回 さようなら障害年金

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  1. ジュニア より:

    お兄さんの介護お疲れ様です。まあ、私は、親の介護で、56歳で早期退職して、実家に帰って何年か、介護しましたが、後は、入れる施設で他人に介護してもらうことを考えた方が良いと思います。予約しても、なかなか順番待ちで大変ですが適度に頑張って下さいね。他人には他人、人の目は気にせずに。

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