2020.01.16   

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第24回 犬を飼う】

 若年性認知症の兄とライターの妹・ツガエマナミオコさんは、2人暮らし。心優しい兄を支えるツガエさんだが、日々起こる様々な出来事に思うところは多いらしく…その胸のうちを明かす連載エッセイ。

「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。

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兄はワンコが大好き

 兄が会社に行かなくなって、自分一人の時間がなくなり、以前よりもずっと兄との暮らしに窮屈さを感じています。

 一番面倒なのは毎日昼食を準備しなければならないこと。いままでが、ほとんど一人の時間で、昼食などあってないようなものだっただけに、このギャップは大きい。でも兄はカップラーメンでも喜んで食べてくれる優しい人なので、文句を言うほどではないのでございますが…。

 1日中リビングを兄に陣取られているので、わたくしが一人になるためには、自分が出掛けるしかありません。兄に買い物を頼んでも「なかった」とすぐに帰ってきてしまうし、片付けを頼んでも手順がわからず途中で止まってしまう。兄は決して逆らわない従順な人ですけれども、結局わたくしが「次はこうして、ああして」とつきっきりで指示を出さなければ何も進みません。それはもう、巷で大人気の「ざんねんないきもの図鑑」に載せてほしいくらいの生態でございまして、会社の社長様の気持ちが少しわかった気がいたしました。

 しかも指示を出しているうちに自分がどんどん偉そうになっていくのがわかるのです。「そうじゃなくて、こうだよ」とか「右側がどっちだかわかる?」とか言っている自分に「オマエなに様?」と自己嫌悪。しまいには「自分でやった方が気楽だし」と一人忙しく立ち回り、会話はさらになくなるという悪循環にはまっています。

 そうなることが薄々わかっていたので、「兄が会社を辞めたら犬を飼おう」とずっと思ってきました。兄はわんこが大好きなのです。そのためにペットOKのマンションを選んだのでございますから。

 そして先日、犬を一匹レンタルいたしました。正しくはボランティア登録し預かるという形ですが、キャリーケースとドッグフードとペットシート付きでもちろん無料預かり。そんなシステムがあるとは知らず、その日は見学だけのつもりだったので何の準備もないまま、持ち帰って1週間犬を飼ってみたのでございます。

 オスのチワワ10歳。兄と一緒に保護犬の施設に行き、一番人に慣れている子をお預かりしました。とても頭のいい子で、おとなしくて、人懐こくて、オシッコもシートにちゃんとできる優秀なチワワでした。でも賢いだけに序列がわかってしまうのか、2~3日するとわたくしには吠えないのに兄には吠えるようなったのです。

 兄は動物好きで、「きょうのわんこ」(朝の情報番組の一コマ)の時間になるとトイレも我慢するほどの犬好きでございます。でも実際は一度も動物を飼ったことがないので、兄妹揃って扱い方がまるでわりません。

 兄は病気を自覚しているせいか、何事にも自信がなく、抱っこもこわごわ、吠えられても叱れないのでチワワに負けてしまいます。それでも好きなので顔を見たくて覗き込み、また吠えられる…の繰り返し。大好きなのに嫌われる…可愛そうの典型でした。

 結局、叱るのはわたくしで、何度も叱り過ぎてしまった結果、犬はキャリーケースから出てこなくなってしまい、1週間が過ぎました。お返しに行くと犬は保護センターのおじさまに向かって「助かった~」と言わんばかりに嬉しそうに飛び跳ねていました。その姿を見て「辛い思いをさせて本当にごめんなさい」と平謝りの巻でございました。
この1週間でわかったのは、犬が家にいるとわたくしの気が散りまくるということです。兄は話し相手どころか吠えられて自室にこもってしまうし、わたくしは犬の行動が気になって仕事が進まない。「犬を飼うのは向いてない」と思い知りました。

 でも、わたくしども兄妹には、やはり何かクッション的存在が必要だと思い、次は猫を検討中。いっそアイボ(犬型ロボット)でいいか、とも考える令和2年でございます。

つづく…(次回は1月23日公開予定)

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性56才。両親と独身の兄妹が、5年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。現在、兄は仕事をしながら通院中だが、病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

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第1回 これからどこへ引っ越すの?
第2回 安室ちゃんは何歳なの?
第3回 この光景見たことある
第4回 疑惑から確信へ
第5回 今日は会社休み?
第6回 今年は何年ですか?
第7回 アパート借りっぱなし事件
第8回 アパートはゴミ屋敷
第9話 全部処分していい
第10回 で、どうすりゃいいの?
第11回「奥さん」じゃないんですけど…
第12回 たびたび起こる出社拒否
第13回 退職金が出ない!?
第14回 兄の焼肉病
第15回 社長様のお説教
第16回 住所が書けない
第17回 マンション買い換え
第18回 引越しは大格闘スペクタクル
第19回 兄、新居を覚える
第20回 認知症は世間話が上手?
第21回 兄、会社を休職
第22回 さようなら障害年金
第23回 はじめての「家族の会」

 

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