2020.02.07   

長谷川式認知症スケールを受けた母の最新結果でわかった大切なこと

「長谷川式」と呼ばれる認知症の検査指標を開発したことでも知られる認知症研究の第一人者、長谷川和夫先生は、自らも認知症であることを公表している。

 認知症の母の介護中で、祖母の介護経験もある工藤広伸さんも、長谷川先生の説く理念に大きく影響を受けたという。工藤さんの母も、毎年受ける「長谷川式認知症スケール」。今回は昨年末に出た母の結果についてのお話だ。

質問に答える高齢者

毎年母が受ける認知症の簡易検査「長谷川式認知症スケール」(写真はイメージ)

 * * *

 認知症のテストとして、広く用いられている長谷川式認知症スケール(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)。母はこのテストを、毎年12月にものわすれ外来で受けています。

 特に今年は、テスト結果に母の面白い特徴が表れました。

長谷川式認知症スケールとは?

 長谷川式認知症スケールは、すべて口頭で行われるテストです。

 テストは30点満点で、認知症と確定している人は20点以上で軽度、11点~19点は中等度、10点以下は高度と判定されます。認知症と確定していない人は、20点以下で認知症の疑いがあると判定されます。

 質問内容は、テストを受ける人の年齢やテストが行われている場所、計算問題など、全9問で実施され、所要時間は5分から10分程度です。

 医師や看護師からの質問に対して、テストを受ける側はその場で回答していくのですが、わたしはいつも母のテストの様子を、母から見えない場所で聞くようにしています。

 わたしが姿を隠す理由は、母は答えが分からなくなると、同席しているわたしに答えを求めてしまい、テストが進まなくなるからです。

 母は28点を取ったこともありましたが、ここ数年は点数が少しずつ下がり続け、2018年12月の結果は15点で、中等度と判定されました。さて、2019年の結果は?

→長谷川式認知症スケールとは?

野菜の名前を連呼する母

 テストが行われていた診察室は扉が開いており、わたしは母から見えない診察室の外に立ち、部屋の中の音だけを注意深く聞いていました。

 母の認知症の症状の1番の特徴は、同じ話をする時間の間隔が、極端に短いことです。多いときで、1分間に5回も同じ話をしたこともあります。

 テストも終盤に差し掛かり、野菜の名前を10個言う設問になりました。

看護師:「それでは、野菜の名前を10個思い出してもらえますか?」

母:「野菜ですね、分かりました。まず人参ね。」

看護師:「はい、人参」

母:「あとは、大根」

看護師:「そうですね、大根」

母:「セロリは言いました?」

看護師:「まだ言ってませんね、セロリですね」
 
 わたしは、「よしっ、その調子で野菜10個言っちゃえ!」と心の中で叫びました。

母:「あと、人参でしょ」

看護師:「人参は、先ほど言いましたね」

母:「あらそうなの。じゃぁ、大根は?」

看護師:「大根も、先ほど言いましたね」

母:「じゃぁ、あれは?人参はまだ言ってないでしょ?」

 途中まで絶好調だった母はどこへやら。いつもの母に戻ってしまいました。その後も人参や大根を何度も繰り返し、看護師さんは母が言った野菜の回数をカウントしました。そのカウントした、テスト結果がこちら。

 結局、人参4回、大根4回、キャベツ2回、ホウレンソウ4回と、同じ野菜ばかりを回答し続け、野菜は5種類しか回答できませんでした。

 短時間のテストで、これだけ同じ野菜を何度も繰り返した母に驚きつつも、家での母の様子がそのままテスト結果に出たとも思いました。

→認知症とは?

テスト結果はそれほどショックではなかった

 結局、2019年12月のテスト結果は12点。もうすぐ高度と判定されるレベルまで、母の状態は悪化していました。

 テストの点数が悪くなれば、認知症が進行したと考え、落ち込むご家族は多いと思います。しかし、わたしは母のテスト内容を聞き、ある見立てができていたので、それほどショックではありませんでした。

 わたしの見立ては、母は病院という環境に緊張してしまい、いつもなら言えるはずの野菜が言えなかったのではというものでした。

 後日、家で母に野菜10個を言ってもらったところ、スラスラと回答しました。もし、野菜を10個言えていたら、テスト結果は15点となり、1年前と同じ点数になるのです。そのことが分かっていたので、それほどショックは受けなかったのです。

 他にも、看護師さんや医師がいい雰囲気を作ってくださるかどうかでも、母の緊張感が変わるため、テストの点数に差が出ることもあります。

 このようにテストを実施した環境を含めて結果を見ると、点数だけでは分からない部分まで分かるので、わたしはテスト内容をいつも離れた場所で聞くようにしているのです。

長谷川和夫先生から教わった大切なこと

 長谷川式認知症スケールを開発された長谷川和夫先生は、2017年に自らも認知症であることを公表しました。

 わたしは先生の講演会に参加したときのこの言葉が、とても印象に残っています。

「テストの設問は、受ける人によっては簡単すぎて、プライドを傷つけることもある」

 さらに、

「テストの結果で、家族は一喜一憂する必要はない」

 講演会に参加する前のわたしは、母に何度もテストを受けてもらって、結果に一喜一憂していました。しかし、先生の話を聴いてからというもの、必要以上にテストを受けさせることは止めましたし、結果に一喜一憂しなくなりました。

 そして、先生のこの言葉に、わたしは救われた気がしました。

「長谷川式認知症スケールの結果だけが、その人のすべてではない」

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

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