2020.05.19 |暮らし   

ピック病の父をワンオペ介護する娘に学ぶ認知症との付き合い方

 認知症なのに、絶対に免許証を手放そうとしない父。医師の協力があれば説得できるかと思いきや、医師の信じられない言葉にア然……。認知症や介護に少しでも携わったことのある人なら「わかる〜!!」と、深くうなずきたくなるエピソードをユーモアを交えて率直に綴った書籍『お父さんは認知症 父と娘の事件簿』が共感を呼んでいる。著者はライターの田中亜紀子さん。現在は、「奇跡的に脳の働きが保たれている」と医師にも驚かれる父(83歳)との暮らしぶり、コロナの影響などについて聞いた。

ごく普通の父が「ピック病」のせいで、人格変化や粗暴な態度に

 1963年生まれの田中亜紀子さんはバブル期に社会人となり、会社員を経てライターに。結婚と出産経験はなく、母の病気と死、祖母のための介護サービス利用といった悩みはあったが、「30代後半まではお気楽に生きてきた」(本人談)。

 田中さんの父は小学校の校長まで務めた教育者。退職後、講師の仕事をしていたが、2003年に妻(亜紀子さんの母)を亡くした後に仕事も終了。以前は孫の世話をしていたが、近年は買い物や自分の身の回りのことをする以外には部屋でテレビを見て過ごす生活に。

「父は、ごく普通の人でした。ユーモアと好奇心はそこそこあって、仕事には真面目なタイプ。私とは仲がいいわけでも悪いわけでもなくて、2人暮らしになってからも普段から必要なこと以外は会話もしないし、行動も別。私の世代では、まあ普通の親子関係なんじゃないかな」(田中亜紀子さん。以下、「」内同じ)

 そんな父の人格が10年ほど前から徐々に変わり始めた。物忘れも増え、近年はちょっと注意すると、すぐにキレる。拳を振り上げ、殴りかかってくる。役場の窓口で、「いつまで待たせるんだ!」と職員を威嚇する。捨てたゴミを拾って自室に隠す。

●ピック病とは

 こうした行動に困り果て、「認知症かも」と考えた田中さんは父をなだめすかして、病院に連れて行き、2017年の夏に「認知症」、年末には「ピック病」の診断を受けた。ピック病とは日本で4番目に多い認知症の一種。その特徴は、理性的な行動がとれなくなる、反社会的行動をする、短気になる、粗暴になる、ものに執着する、時計的行動(決まった時間に決まったことをしないと気が済まない)、甘いものを食べたがる、などだ。

「ピック病と診断されたときはショックだったけれど、もともとの悪い性格が出てきたわけではないとわかって、ちょっとはホッとしました。病気のせいと知る前は、父が異常な行動をするたびに情けない思いもしたし、腹が立ったり、泣いたりしていましたから。今でも、粗暴な振る舞いをされれば頭にくるし、嫌な気持ちにはなるけれど」

運転を絶対にやめさせる!父と娘の1年間の壮絶バトル

『お父さんは認知症』の最初に登場するのが、父に運転をやめさせるまでの顛末だ。70歳代後半から道がわからなくなり始め、「そろそろ運転をやめたら?」と言うたびに大げんか。車は父の大切な足であるし、不愉快な言い争いを避けたくて問題を先送りにしていた田中さんに、「絶対に運転をやめさせなければ」と決心させる事件が立て続けに起きた。

「お父さんは認知症 父と娘の事件簿」より(イラスト/おぐらなおみ)

「そもそも病院に連れて行ったのは、私の説得を全く聞き入れないので、認知症と診断されれば、医師が説得してくれて運転をやめるだろうと考えたからなんです。でも、その考えは甘すぎました。最初に父を診察した医師が危機感のない方だったんです。認知症と診断されれば運転問題は解決するとずっと信じていたのに、その期待が裏切られたときの絶望は、忘れられません」

 その医師は父に「自分に運転をやめさせる権限はない」と前置きした上で、「おやめになったほうが」と軽くアドバイス。その言葉を聞いた父は「運転はやめません」と医師に宣言し、そのまま何も言われなかったことで認められたと思いこみ、運転を続行する。

 その後も説得に耳を貸さない父親に、田中さんはさらに医師に説得をお願いする。が、認知症の診断がおりているにも関わらず、医師は「ご本人の意志もありますし」などというばかりだった。

「最初にかかるお医者さんはすごく大事だと、つくづく思います。私はここで失敗したせいで、免許問題はものすごく長引いたし、『万が一、父が事故を起こして人を傷つけることになったら』と、気が気じゃなかった」

 困り果てた田中さんは、地域の運転免許センター、別の医師などに次々と相談する。最終的に都道府県の公安委員会に相談すると、そこから運転免許センターの「適正相談室(当時)」に電話が回り、「道路交通法で『認知症になったら運転してはいけない』と決まっている」との回答。さらに、日本医師会のガイドラインでは、認知症その他、運転に適さない病に診断された患者が運転しているとわかった場合、「運転しないように指導する」と方法も示されていることもわかった。

「医師に、『認知症の方は運転していけないと法律で決まっています』と説得され、それでもやめなかった場合に、『ご家族と相談の上、公安委員会に報告すると免許取り消しの行政処分もありえますよ』と言われれば父だって理解できますから。不名誉な事態を避けようと、自主返納したと思います。それなのに、最初の医師が法律もガイドラインも知らなかったことでこじれ、運転をやめるのにトータルで1年もかかってしまいました」

 田中さんは、親が認知症の疑いがあり、運転が危険な状況にあるときの、家族の行動についてアドバイスしてくれた。

「家族で話し合い、本人を説得することが基本ですが、そういう時の医師選びで重要だと思うのは、道路交通法や上記ガイドラインについての正しい知識をもった医師を選ぶこと。運転免許センターや警察の交通課に、そういったことに対処できる医師を紹介してもらうのもいいですね。病院のホームページで、認知症患者の運転について考えが書いてある医師を見つける方法もあります。その他、これという病院や医師を見つけたら、保険外診療になっても、事前連絡の上、家族が医師に相談に行き、運転についての考えや対処法を聞いてみるのもいいと思います」

 田中さんはこんな経験を重ね、認知症の父との付き合い方を自分の体と頭で1つ1つ学び取ってきたのだ。

 ※警察庁は2019年11月22日より、運転に関する相談窓口につながる専用ダイヤル「♯8080(ハレバレ)」で高齢ドライバーやその家族からの相談に対応している。

→認知症の介護をラクにする言葉がけ|「運転をやめさせたい」「薬をのんでくれない」の対処法

父と娘のルーティーンを支える「小規模多機能型居宅介護」サービス

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