2020.06.27 |暮らし   

親がうつっぽくなって「死んでしまいたい」と言ったら…|700人以上看取った看護師がアドバイス

 親が、繰り返し後ろ向きな話をするようになったという悩みを抱えている家族は少なくない。看護師として700人以上を看取り、精神科の患者にも多く接してきている宮子あずささんが、親がうつっぽくなって「死んでしまいたい」というときにはどうしたらいいかを、アドバイスしてくれた。

頬杖をつく高齢の女性の横顔

親の気分が落ち込んで「死んでしまいたい」と言い始めたりすると戸惑ってしまうが…(写真/gettyimages)

「うつ病」と「うつ状態」はどう違うか

 うつとは活力がなくなった状態のことです。「うつ病」が疾病であるのに対して、「うつ状態」は症状をさします。

●「うつ状態」は感冒症状を思い浮かべるとわかりやすい

 風邪などの感冒症状のことを思い浮かべていただくといいかもしれません。

 感冒症状とは、ちょっと熱が出てだるくてのどが痛くて咳や鼻水も出るものです。風邪のときだけでなく、肺がんでも膠原病でも新型コロナでも感冒症状が出ます。

「うつ状態」も、感冒症状と同じです。憂鬱な気分になったり、意欲がなくなったり、いやなことばかり考えたりする症状が、疲れただけでも出るし、うつ病でも出るし、統合失調症でも出るのです。不調なときに出やすい症候群のようなものです。

 余談ですが、「風邪は万病のもと」という言葉には、ふたつの意味があります。ひとつは、風邪をひどくしてしまうと、そこからいろんな病気になる危険があるという意味。もうひとつは、多くの病気の初発症状は風邪のような感冒症状であるので、馬鹿にできないという意味です。

 うつ状態も、同じです。ひどくしてしまうと、そこからいろんな病気になる危険がありますし、多くの病気の初発症状であるので、注意深く見守る必要があります。

●うつっぽくなっていくメカニズムは、疲れから始まる

 うつ状態で一番多いのは、年を取って体力が落ち、疲れやすくなるところから始まるものです。本人は今まで通りに動いても、疲れがたまっていってしまう。そうして、元気がなくなってしまいます。若いときのように元に戻らなくて、疲れが蓄積されていくのですね。

 本人は病気ではないかと不安になります。年のせいなのか、この先どうなっていくのかと嘆いてどんどん活力が失われていく、というのが、うつっぽくなっていくメカニズムです。

●こじらせると、治療が必要になってしまう

 体力の落ちたことに慣れてきて、それなりに生活ができていくようになればいいのです。無理をしないで休養を取りながら過ごしていくということですね。ところが、自分の老いを認めることができず、疲れも不安もたまってこじらせると、治療が必要になっていってしまいます。

 これも、感冒症状と同じですね。通常は、感冒症状が出たとしても治っていくが、こじらせると肺炎になってしまったりするというわけです。

●ペースを落とせる人、落とせない人の違い

 年を取って体力がなくなったことをあきらめて、ちょっとペースを落として暮らしていくことができる人たちもいます。

 しかし、かつて元気だった人ほど、やることをたくさん抱えていますし、求める水準が高いのでペースを落とせなかったりします。自分が得意だった、同窓会や冠婚葬祭の仕切りとか、ホームパーティーとかが、うまくできなくなったことがショックになるのです。

 元から元気な人は、ちょっと元気がなくなっても辛いものです。他の人からは、まだまだ元気だと言われても、自分の求めるレベルに達していないと自分は納得できない。わかってもらえないのでますます辛くなって、死んでしまいたいような気持ちになっていくというのが、元気な人の陥りやすいパターンです。

 不安が強くて休めない、眠れないのでますますこじらせて薬が必要な状態になってしまいます。

 身体と気持ちのギャップで消耗することから、うつっぽくなることが多いのは、覚えておいたほうがいいでしょう。

「死んでしまいたい」と言われてしまったら

「死んでしまいたい」「生きていても仕方ない」と多くの高齢者が口にします。

 ベースにあるのは不安。このままどんどん調子が悪くなっていくのかと、老いへの恐怖がふくらんで、生きていたくなくなって厭世的になり、「死んでしまいたい」というような言葉を発するのです。

●元気だった親に慣れた子どもほど、驚くことになる

 日頃から元気がない親の子どもだと、お互い慣れているのですが、元気だった親に慣れた子どもほど、びっくりすることになるんですね。人間は落差で驚いて不安になりますから。

「お宅のお母さんは100才までお元気そうね」というような親御さんが、70代後半でつまずいたりすることは結構あります。

●生きたいという気持ちのあらわれでもある

「死にたい」と言われると、介護する側はどうしたらいいか悩むけれど、「死にたい」というのは、生きたいという気持ちのあらわれだという考え方もあります。

「こんなじゃあしょうがない」とネガティブな言葉で出てくるけれど、その裏には「なんとか良くなりたい」という気持ちがあるわけです。

●「もう別れてしまいたい」が、本心は別れたくないのと同じ

「もう死んでしまいたい」と何度も言う人は、「もう別れてしまいたい」と何度も言う人とちょっと共通しているのかもしれません。何度も別れるという人ほど、別れたくなかったりするのと同じということですね。

●ただ聞いてあげるしかない

 だからと言って「それって本当は生きたいと思っているってことでしょう?」と言っても無理なのです。親に前向きに言い換えてもらうのは無理なので、自分のほうが読み替えて、ただ聞いてあげるしかありません。

 ましてや、「人として命をまっとうすることは大事だ」などという抽象的な話をして説得しようとしても無理です。抽象的な話をするぐらいなら、黙っていたほうがまだいいくらいなのです。

 私は、母を介護しているときに「死んじゃいたいぐらい辛いんだよね」と、受け止めたことを示すのにとどめていました。

●うまく忘れて聞いてあげる

 余裕があれば、どうして死んじゃいたいの?と聞いてあげるといいかもしれません。うまくすると新しい情報が得られるかもしれません。ただし、「死んじゃいたい」を聞き飽きているとなかなかそうして聞き返してあげるのも難しいと思います。

 こちらは、またかとうんざりするけれど、本人は、日々、新たな気持ちで言っているんですよね。ですから、聞く側も少しうまく忘れられるといいということでしょうか。介護では「忘れる力」が結構大事です。

<親が物忘れや意欲低下になったときのためのまとめ>

●うつとは活力がなくなった状態のこと。「うつ病」は疾病で、「うつ状態」は症状をさす

●「うつ状態」は、疲れただけでも出るし、うつ病でも出るし、統合失調症でも出る症状。不調な時に出やすい症候群のようなもの。

●年を取って体力が落ち、疲れがたまっていくところからうつ状態が始まることが多い

●身体と気持ちのギャップでうつっぽくなっていく

●こじらせると、治療が必要になってしまう

●元気だった人ほど、ペースを落として暮らしていくことができない

●「死にたい」というのは、「生きたい」という気持ちのあらわれだという考え方もある

●説得することは無理なので、ただ聞いてあげるしかない

●余裕があれば、どうして死んでしまいたいと思うか聞いてあげる

今回の宮子あずさのひとこと

●正解の答え方はない。こちらが悪いとは思わないこと

 親のほうに、求めている答えがあるわけではありません。だから、こういう風に言ったらバッチリはまって、もう二度と「死んじゃいたい」と言わなくなるというような正解の答えかたはないのです。ともかく、こちらの世話の仕方が悪いとは思わないことです。

●「死んじゃいたい」という言葉になってしまうのには理由がある

 余裕があったら、なぜ「死んじゃいたい」のか聞き返してみることをおすすめしましたが、その理由のもうひとつは、うつ状態にあると、うまく表現することができなくなっているからです。

 ごくごく単純に言えば、活力が落ちて頭が回らないと、自分の状態を冷静に考えることも、言葉にすることも難しくなくなってしまいます。だから、ちょっといやなことがあると、いきなり白か黒かの黒で「死んじゃいたい」と言っていることも多いのです。ゆっくり「どうしてそう思ったの」と聞き出して掘り返していくと、何が問題だったか新たにわかることもあるかもしれません。

 次回も、うつ状態の親御さんへの接し方を、お話したいと思います。

 まだ新型コロナで外出への不安はある上に、暑さや梅雨も重なって、介護していると大変な日々が続きますが、無理なさらないようにお過ごしください。

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教えてくれた人

宮子あずさ

宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。

構成・文/新田由紀子

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