2020.07.21   

阿木燿子さんが毒蝮三太夫に教えてくれた「義父の介護を救ってくれた言葉」とは?「連載 第22回」

 人は言葉で傷つくこともあれば救われることもある。介護という「極限状態」では、なおさら言葉が大きな意味を持つ。宇崎竜童さんの父親を長く介護した阿木燿子さんが、毒蝮さんに教えてくれた「私に介護を続けさせた3つの言葉」とは? そしてその言葉は、介護を受ける人だけではなく、誰にとっても大事だとマムシさんは言う。(聞き手・石原壮一郎)

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毒蝮三太夫

毒蝮さんの高齢者の気持ちに寄り添った温かいアドバイスに定評がある

親を心配しているという気持ちを伝えることが大切

 今年はいったいどうしちゃったんだろうな。コロナ禍はぜんぜん落ち着かないし、あちこちで豪雨災害が起きてる。テレビで現地の様子を見ると、気の毒で胸が詰まるよね。離れて暮らしている高齢の親は、まだまだ元気だとしても、ニュースを見てきっと心細い思いをしてる。こっちが東京に住んでたりすると、今はそう簡単に顔を見に行けないしな。

 とりあえずは電話して、「変わりないかい。今年は水害が多いけど、何かあったら早めに避難するんだよ」って言ってやってくれよ。山や川が近くにある場合はもちろんだけど、災害なんてなさそうな平地に住んでても、そんなことは関係ない。気にかけてるよ、心配してるよっていう気持ちを伝えることが、何よりの元気の素になるんだ。

 言葉っていうのは不思議なもんで、目に見えないし腹の足しにもならないんだけど、すごく大きな力がある。以前、阿木燿子さんが「介護を受ける側が口にしてほしい3つの言葉」について、俺に教えてくれた。前回は「介護の場面で避けたい3つの“いじ”」の話だったけど、今回は積極的に口にしたい「3つの言葉」の話だ。

→3つの“いじ”の記事を読む

阿木燿子さんが教えてくれた3つの言葉

 阿木さんは、夫の宇崎竜童さんのお義父さんをずいぶん長いあいだ介護してた。お義父さんは遠洋の船に乗ってて、粋な人で、若い頃はモテたらしい。歳をとって寝たきりになって、阿木さんが介護することになったんだけど、なんせ昔の男だからワガママなところもあったみたいだ。

 たいへんだっただろうし、腹の立つこともいっぱいあったと思う。だけど彼女は「私はお義父さんの3つの言葉で救われた」って言うんだよ。

 その3つの言葉っていうのは「ありがとう」「すまないね」「惜しいなあ」。

 この3つの言葉のおかげで、苦労と思わずに介護を続けられたとも言ってたな。

 何かしてもらったら「ありがとう」って言うのは当然なんだけど、テレ臭いのか当たり前と思っているのか、口にしない人も多い。笑顔で「ありがとう」って言うことで、介護している側がどんなに救われて、どんなに力を与えられることか。俺はあちこちでジジイやババアに、嘘でもいいから口に出せって言ってる。言ったほうも元気になるんだよ。

「すまないね」は、ねぎらいの言葉だよな。こう言われたら、相手はホッとする。あなたがたいへんな思いをしていることは、ちゃんとわかってますよ、しっかり受け止めてますよっていう気持ちも込められてるわけだ。「いつもお世話になってます」と同じ意味だけど、それだけだとよそよそしいし長いから、心を込めて「すまないね」って言えばいい。

 3つ目の「惜しいなあ」は、介護する人が失敗したときに、笑顔といっしょに言いたい言葉だな。食事にせよお風呂にせよ着替えにせよ、されてる側は身体が思うように動かないんだから、ちょっとした失敗は付きものだ。「何やってんだ!」って怒ったら、失敗したほうはますます萎縮しちゃうし、お互いに気まずい思いをすることになる。

 そういうときに「惜しいなあ」って言えば、「もっと君は上手にできるはずなのに、今回は惜しかったね」っていう意味になるし、ちょっとした笑いも生まれるよね。そういう雰囲気を作ったほうが、気持ちよく介護してもらえる。ちょっとしたユーモアや気遣いっていうのは、相手も自分も幸せにしてくれるんだ。言ってみれば、生きる知恵だな。

毒蝮三太夫

相手も自分も幸せにしてくれる言葉の力があると語る笑顔あふれる毒蝮さん。周りの人をいつも明るく照らす

 阿木さんのお義父さんは、昔気質だったかもしれないけど、粋な人だったからこうした言葉が自然に口にできた。俺はこの話を聞いてから、介護施設とかに行くとそこにいるジジイやババアに「いいか、3つの言葉を言うんだぞ」って伝えてるんだ。「さっそく、お世話になってる職員さんに『ありがとう』って言ってみよう。せーの」って呼びかけて言わせたりもする。そうすると、職員さんたちが涙ぐんで喜んでくれるんだよね。

 だけど考えてみたら、この3つの言葉が大切なのは、介護してもらっている人たちだけじゃない。元気に暮らしている年寄りも、年寄りじゃなくても、夫婦や親子でお互いにどんどん使いたいよな。距離が近くて気心が知れた関係だからこそ、言葉に手を抜いちゃいけない。言葉に手を抜くっていうのは、相手に甘えてるってことなんだ。

 介護っていうのは、お互いにとってある意味「極限状態」だから、人間にとって何が大事かを教えてくれる。年寄りってのは、まったくありがたい存在だよ。

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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

撮影/政川慎治

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