2020.07.26 |暮らし   

初めての看取り【介護士ブロガーの実体験】100歳のお婆さんの看取りケア

 初めて看取りに直面したとき、どんな思いなのか? どう対処するのが正解なのか――介護士ブロガーのたんたんさんこと深井竜次さんが、介護施設で実際に体験した“看取りケア”についてのエピソード。特養で出会った100才のお婆さんとプリンにまつわる不思議なお話だ。

初めて看取りケアを体験したのは20代

 初めまして、介護士ブロガーのたんたん(深井竜次)と申します。

 僕は5年間介護施設で介護士として経験したことを元に「介護士さんの幸せな働き方の実現」を目標としてブログを運営しています。

 いつもは介護士さん向けに「介護士の働き方」の記事を書いていますが、今回は介護職側から見た、介護施設でのエピソードについて書いてみたいと思います。

 仕事がきつい大変、給料安い…そんな風に捉えられがちな介護の仕事ですが、働いている中で心が温かくなることもたくさんあるのです。僕も介護士の仕事を始めた時は介護に対してネガティブなイメージを持っていました。しかし、実際に現場で利用者様や同僚と関わっていく中で、苦しいことばかりではないと思えるようになりました。

 今回は、僕が経験した「看取りケア」にまつわるお話を紹介します。介護の仕事って「ちょっとイイな」と思ってもらえたら嬉しいです。

寝たきりのおばあさんのイメージ

たんたんさんが特養で体験した看取りとは…(写真はイメージ)写真/AFLO

介護施設にいた100才のお婆さんの実話

 僕は介護士になる前は保育士として子供たちと奮闘をする日々を送っていました。しかし、激務で体調を崩しうつ状態になって1年も満たずに退職を余儀なくされました。

 その時に当時付き合っていた彼女にオススメされて始めたのが特別養護老人ホーム(通称、特養)での介護の仕事でした。

 無資格で始めた介護の仕事でしたが、介護職員初任者研修の資格を取得し、職場の人間に恵まれて多くのことを教わって徐々に出来ることが増えてきました。

 介護の仕事を始めて3か月で3人の利用者様の担当に付くことになりました。

 その中でもとくに印象的だったのが当時100歳のお婆さん、野原ヨリコさん(仮名)。施設で最年長だったヨリコさんは、みんなからヨリさんと呼ばれ、親しまれていました。

 ヨリさんは、要介護度5で生活の大部分は介護士の介助が必要な利用者様でした。会話はほとんどできないけれど、話しかけると笑顔で「へへへ」と返してくれる。とても愛嬌があって、ご家族だけではなく職員や他の利用者様からも愛されていました。

 ヨリさんはご飯の食べっぷりがよくて、とくにプリンが大好物。いつもはコンビニで買ったグリコのプッチンプリンを、ご家族が面会に来るときだけは、地元の島根・出雲市で有名なケーキ屋さんのちょっと高級なプリンを実においしそうに食べていました。

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看取りケアが始まったきっかけは…

 僕が担当を持ってから半年ほど経った時に、ヨリさんは出されたお昼ご飯に全然手をつけなくなりました。

「調子が悪いのかな?」と思って食事介助をしても全然口を開けられずにいつもしっかり握っているスプーンも力が入らないのか、持たせようとしてもスルリと落ちていきました。声かけをしても反応が悪かったです。

 最初は「そんな日もあるかな…」と思っていたのですが、それから何度も介助を試みるも口を開くことすら難しくなりました。

「いつもと違うかも」と、かかりつけの医師に連絡をすると、すぐ施設にきて様子をみにきてくれました。

 医師には「もう高齢なので先は長くないかもしれません」と言われ、看取りケアの指示をされたのです。

看取りケアって何をする? 実体験してみたら…

 看取りケアとは、命が長くない状態だと医者に判断された方にその人なりに充実した最期を迎えられるように支援やサポートをする事。僕が働いていた特養では、多いときには月2~3回、看取りに直面していました。

 介護施設での看取りケアは、介護福祉士などの資格がなくても携わることができます(僕の場合は介護職員初任者研修を取得していました)。利用者さんの身の回りのことやご家族のサポートなども行います。

 最近では、「看取りまでしてほしい」という要望が増え、介護施設でも看取りケアを実施することが増えています。一方で、自宅で最期を迎えたいという人も増え、在宅での看取りも増えています。

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看取り―最期を迎えたい場所は?

 厚生労働省の看取りに関する調査報告書(※平成30年3月「人生の最終段階における医療に関する意識調査」より)によると、どこで最期を迎えることを希望しますか?」の問いに対し、「自宅」が63.5%で最も多く、次いで「介護施設」が32.5%、「医療機関」と答えた人はわずか3.4%という結果に。

 また、介護士に看取りに関する研修の有無を聞いたところ、「施設内で独自に実施している研修がある」と答えた人が85%を占めた。介護の現場でも看取りケアの必要性が増しているようだ。

※平成30年3月「人生の最終段階における医療に関する意識調査」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/saisyuiryo_a_h29.pdf

100才のお婆さんの看取りケアで起きた奇跡

瓶に入ったプリン

 ヨリさんが看取りケアになって1か月半の間は、点滴で命をつなぐ日々でした。

 しかし、「点滴のまま最期を迎えていいのか?」「何か手はないだろうか…」と介護士の仲間たちからも声が上がりました。

 僕は「最期まで大好きな物を食べて欲しい!」という思いから、医師やご家族にも相談をして承諾していただき、ヨリさんが大好物のプリンを朝の10時と昼の15時に食べて頂くことにしました。

 出雲で人気のケーキ屋さんのプリンは、コンビニのプリンよりも100円も高いもの。瓶に入っていて新鮮な卵を使っているせいか非常になめらかで味わい深い。僕も時々買うプリンです。

 すると、ヨリさんは、今まで食事や他の栄養食品を食べられる様子はなかったのですが、このプリンだけは、しっかり咀嚼をして飲み込むことができたのです。

 その後、徐々に飲み込む力も回復し、1か月後には介助ありですが、食事も摂れるようになり、看取りケアが解除になりました。

 2か月以上ベッドでの生活を繰り返していたので、以前のようにご自身でご飯を食べることはできなかったし、声かけへの反応もは悪くなってしってました。

 それでもご家族はとても喜んでおられ、僕も他の介護士たちも安心しました。

 実はこの翌年、体調が悪化してまたしてもヨリさんは看取りケアをすることになりました。しかし、その強い生命力から再びピンチを乗り越えて3か月ほどで看取り解除になりました。

 2度目の看取りケアでも、あのプリンが奇跡を起こしたのです。

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【まとめ】2度の看取りケアで学んだこと

 100才のお婆さん、ヨリさんは僕が最初に経験した担当利用者様の看取り経験でした。

 初めてのことで戸惑いながらも、「看取り」に対して「好きな物を食べてもらう」というアプローチはとても大事なことではないかと気づかされました。

 その人の最期にありたい姿を実現するためのお手伝いをするのが介護士の仕事なんだと感じました。

 介護士を始めたての時は「看取りは苦手だな」と思っていたのですが、介護士や家族の捉え方で良い看取りにできるかできないかが大きく変わってくることを知りました。

 看取りになる前の元気な時に本人の「叶えたいこと」をどれだけ叶えられるかが、介護をするうえで大事です。

 介護が必要な人が大好きな食べ物は何ですか?

 看取りの前に食べてもらいたいものは何ですか?

 元気なうちに大切な人と最期に食べたい物について話してみてはいかがでしょうか。

文/たんたん(深井竜次)さん

たんたん(深井竜次)さん
島根県在住。保育士から介護士へ転職し、介護士として働いた経験を持つ。主に夜勤を中心に介護施設で働きながら介護士の働き方について綴ったブログ『介護士働き方コム』(https://www.tantandaisuki.com/)を運営。著書『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)が話題に。

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