2020.08.07   

認知症の母の誕生会 ケーキとキャンドルに込めた想いと消えた記憶

 作家でブロガーの工藤広伸さんは、毎年、岩手・盛岡に住む認知症の母と一緒に誕生日を祝っている。母が年齢の記憶を失わないためにーー。

 誕生祝いは、ろうそくを飾ったケーキとお寿司が定番。母と過ごすコロナ禍の夏、77歳(喜寿)のバースデーに起きたこととは?

工藤広伸さんが認知症の母のために用意した豪華お弁当とケーキ

認知症の母の誕生日、ケーキと豪華なお弁当を用意したら…

認知症の母、77歳(喜寿)を迎える!

 8月1日は、母の77回目の誕生日。喜寿を迎えました。

 わが家では毎年、母の誕生日会を行います。認知症になる前は行わなかった誕生日会を、なぜ急にやり始めたのか?

 そして、認知症に関係する特別なお祝いのやり方を、今日はご紹介します。

誕生日会を毎年行うようになった理由

 母は認知症のテストとして広く用いられている、長谷川式認知症スケール(30点満点)で、今は12点しか取れません。

 しかし、わたしが介護を始めた8年前は、28点を取れていたこともあります。

→長谷川式認知症スケールを受けた母の最新結果でわかった大切なこと

 その頃のわたしは、母に年齢をしっかり教えたら、テストで答えられるようになるかもしれない、いい点数をキープできるかもしれないという期待を持っていました。

 その手段として、母の誕生日会を行い、年齢の話を何度もすることで、記憶の奥底に定着すると思っていたし、たとえ記憶が定着しなかったとしても、消えゆく記憶に少しだけあらがうことができるかもしれない、そんな思いでした。

 母の誕生日会は決まって、お寿司とケーキでお祝いしています。当初、バースデーケーキはホールケーキで、72歳までは長いろうそくを7本と短いろうそくを2本用意していました。

 ところが、40代のわたしと70代の母では、胃がもたれてしまってホールケーキを完食できず、翌年からショートケーキを2個買ってお祝いするようになったのです。

 ショートケーキにたくさんのろうそくは挿せませんが、ろうそくの火を消すという定番の祝い方は残しておきたいと考えたわたしは、ケーキ屋さんでナンバーキャンドルを見つけました。

 ナンバーキャンドルであれば、77歳なら「7」の数字の形をしたろうそく2つで済みます。73歳からは、ナンバーキャンドルでお祝いするようになりました。

 74歳の誕生日会のとき、使い終わったナンバーキャンドルを処分しようとしたら、さっきまであったはずのキャンドルが見当たりません。

 母が廃棄したと思っていたのですが、意外な場所から、ナンバーキャンドルは見つかったのです。

キャンドルが居間の飾り棚に…

 母は、ナンバーキャンドルを居間の飾り棚に飾っていました。

 息子として、少しうれしい気持ちにもなり、そのまま飾っておいたのですが、このナンバーキャンドルがある日、わたしの認知症介護をラクにするグッズへと変わりました。

 母:「ねぇ、わたしはいくつになったの?」

 母は、自分の年齢を繰り返し、わたしに聞いてきます。

 最初は、毎回口頭で返事をしていたのですが、毎日繰り返される質問にストレスを感じるようになりました。何かいい方法はないだろうかと悩んでいたとき、居間の飾り棚のナンバーキャンドルが目に入り、

 わたし:「ほら、飾り棚みて!数字が2つあるでしょ、あれが年齢」 と答えるようになりました。

 母:「あー、77歳なのね、わたし」

 年齢を口頭で答えずに、指差しだけで済むようになり、わたしのストレスは軽減されたのです。

 また、母も何度もナンバーキャンドルを見て、自分の年齢を確認するようになりました。

2020年の誕生日会は?

 2020年も寿司とケーキで母の誕生日を祝おうと思ったのですが、今はコロナ禍。思いもよらない有名店やホテルが、デリバリーを行っています。

 たまたまチラシで見つけた、盛岡の老舗有名ホテルが「ホテルの味をご自宅で」というキャッチコピーでデリバリーを行っていたので、利用してみることにしました。

 1人前3000円もする和洋折衷弁当は、地元のタクシー会社が自宅に届けてくれました。そしてショートケーキはいつものお店で、ナンバーキャンドルも「7」を2つ購入しました。

 YouTubeにあったHappy Birthdayの歌をスマホで流しながら、親子で手拍子。母にろうそくの火を消してもらい、77歳の誕生日会が始まりました。

 母:「この豪華なお弁当は、どこから買ってきたの?」

 母:「なんで今日は、こんなに豪勢なお弁当を食べているの?」

 ろうそくを消して10分も経たないうちに、母は自分の誕生日会を忘れているようでした。

 その後もお弁当を食べ終わるまで、これらの質問は繰り返されました。

 わたし:「今日は、77歳の誕生日だから」

 わたしは何度も返事をしながらも、2人ともお弁当だけでお腹いっぱいで、ケーキは食べられませんでした。

 ーー誕生日会の1時間後。

お祝いしたことを忘れた母。1日に2度のサプライズ

 母:「あれ、夕ご飯は食べたかしらね?」

 夕ご飯を忘れているということは、お腹もそこそこ消化したのかなと思い、母にケーキを勧めてみると、「食べる」といいます。

 誕生日のケーキとは思っていない母に、再び今日が誕生日であることを告げると驚き、そしてショートケーキを2人で完食しました。

 母の認知症が軽度だった頃は、誕生日会を行うことで、年齢を思い出してくれることもありました。しかし今は、認知症もだいぶ進行して、いい意味で「諦め」の境地に達しています。

 ムリに年齢を思い出す必要はないし、誕生日を祝っているその瞬間さえ楽しんでくれればそれでいい。期待から諦めに変わった今のほうが、純粋に誕生日を楽しめているような気がします。

 今日もしれっと、しれっと。

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工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

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