2020.08.16   

新『半沢直樹』4話|バブル入社世代から就職氷河期世代へのエール「君たちの倍返しを期待している」

 堺雅人主演『半沢直樹』新シリーズ。4話では、半沢(堺雅人)と大和田(香川照之)の関係にも、半沢自身の考え方にも大きな変化がもたらされ、シリーズ後半に向けて物語に大きなうねりを予感させる展開となった。『半沢直樹』の人気は、目に付きやすい派手な芝居だけではない、人物の心理が行動に結びつくまでの緻密な描写にもあるのではないか。日曜劇場研究ライター近藤正高が改めて絶大な人気の理由を考察する。

半沢直樹4話イメージイラスト

イラスト/サイレントT

『101回目のプロポーズ』みたいな半沢

『半沢直樹』新シリーズは先週、8月9日放送の第4話をもって前半(原作小説ではシリーズ3作目の『ロスジェネの逆襲』に相当)が終わり、後半へと折り返した。前半のクライマックスでは思いがけない展開が用意されていた。半沢(堺雅人)がある目的のために宿敵・大和田(香川照之)に歩み寄り、一時的とはいえ手を組んだのだ。

 印象的な場面があった。半沢が東京中央銀行の本部から出てきた大和田に協力を依頼したところ、「おまえなんかと誰が手を組むか。死んでもいやだね!」と断られてしまう。そのまま大和田はクルマに乗りこむと、運転手に発進させるのだが、半沢はいきなりその前に立ちふさがったのだ。これを見て筆者は、いまから29年前の大ヒットドラマ『101回目のプロポーズ』の有名な場面を思い出してしまった。そう、武田鉄矢演じる冴えない四十男の主人公が、好きになった女性(浅野温子)から恋人(事故で死んでいた)を再び失うのが怖いと告白され、いきなり道に飛び出したかと思うと、走ってきたダンプカーの前に立ちふさがった場面である。このとき武田が叫んだ「僕は死にましぇん!」というセリフは流行語となった。

 シチュエーションはまったく違うとはいえ、主人公が覚悟を決めたという点では共通しよう。武田は自分はけっして死なず、浅野を幸せにすると覚悟を決めた。そして半沢は、自身の信念を貫くため、この際あえて敵と手を組むと覚悟を決めての行動であった(同時に、彼には現在銀行から出向している子会社の証券会社からさらに別のところへ出向させられる恐れもあったが、もちろんそれも覚悟のうえだった)。半沢の本気に、大和田も耳を傾けざるをえなかった。

半沢が大和田に歩み寄ったのは

 半沢の目的とは、IT会社・電脳雑技集団(以下、電脳と略)による買収案件に対し、巨額の追加融資が銀行の役員会議で認められてしまうのを阻止することであった。ドラマではここまで親会社の銀行と子会社の証券会社が、この買収案件をめぐって激しく争ってきた。しかし半沢はやがて電脳の不正を嗅ぎ取る。銀行がこのまま融資に踏み切れば、カネをみすみすどぶに捨てることになりかねない。そうとわかれば、銀行は証券の敵ではない。むしろ手を組んで、真の敵である電脳に立ち向かわなければならない——。そう半沢は考えたのだ。そこで彼がまず連絡したのは、大和田ではなく伊佐山(市川猿之助)だった。

 しかし伊佐山は電話しても出ないうえ、半沢が銀行に赴いても現れず、代わりに部下の諸田(池田成志)をよこす始末。しかたがないので半沢は電脳について考え直すようメモを書いて諸田に渡すのだが、それは伊佐山の手に渡る途中で何者かに握りつぶされてしまう。結局、伊佐山が一向に動かないので、半沢は大和田に歩み寄ったのである。このとき大和田は、それまで結託していたはずの後輩の伊佐山に裏切られ、「土下座野郎」とまで呼ばれていた。その直後に、ほかならぬ自分に土下座をさせた張本人である半沢が現れたのだから、「おまえとなんか誰と手を組むか!」と言いたくなるのも、まあ当然であろう。

 それでも結果的に大和田は半沢の申し出を聞き入れる。半沢の要求は二つ、そのうちの一つは翌日の役員会議で発言させてもらうことだった。半沢は7年前の前シリーズで大和田を土下座させた場所で、今回は大和田の協力のもと、電脳が決算を粉飾していたことを暴露したうえ、伊佐山がそれを見抜けないまま追加融資を通そうとした責任を追及する。さらには、先の伊佐山宛てのメモを握りつぶしたのが副頭取の三笠(古田新太)ではないかと問い詰めた。三笠はしらばっくれるも、半沢の部下の森山(賀来賢人)が電脳の平山社長夫妻(土田英生・南野陽子)から、三笠に融資を認めてもらう見返りとして裏金を渡していたとの証言を引き出していた。それが決め手となって伊佐山、三笠、そして諸田は銀行内で失脚、そろって電脳へ出向させられるにいたった。

 先の半沢がクルマを止める場面といい、半沢から問い詰められた伊佐山に三笠が無理やり謝罪させた場面(イラスト参照)といい、今回も派手な見せ場には事欠かなかった。しかし、こうした見せ場も、その前後で半沢が部下たちを率いて地道に動いていたからこそ生きたのだと思う。半沢たちはまず、電脳の不正疑惑の鍵を握る同社の財務担当・玉置(今井朋彦)を、彼の父親(高橋長英)が社長を務める電脳電設(旧ゼネラル電設)で見つけ出す。ゼネラル電設は電脳が粉飾決算の隠れ蓑とするため、所有する特許もろとも買収されていた。半沢と部下たちは、玉置を味方につけるべく同社の特許を買い戻すため、証券会社の強みをフルに発揮し、支援してくれる企業を探し回る。しかしやっと支援企業を見つけたものの、伊佐山の差し金で阻止されてしまう。そこで半沢は大和田に対し、先のもう一つの要求として支援を認めるよう迫った。おかげで玉置は裏帳簿のコピーを半沢に提供してくれたのである。

半沢の変化に驚かされる

 今回のシリーズでは、半沢がことあるごとに、ほかの何よりも顧客を大事にしなければならないとセリフや行動で示してきた。第4話でも、大和田に協力を依頼するのを前に、森山に「仕事は客のためにするものだ、ひいては、世間のためにするものだ。その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をする。自分のためだけにした仕事は内向きで卑屈で、醜くゆがんでくる」と語っていた。さらにすべてが終わって、銀行に戻ることが決まったあとには、証券会社の若手社員たちに次のような激励の言葉を送っていた。

「君たちは40代から20代、大半は就職氷河期で苦労をした人間だ。そうした事態を招いたバカげたバブルは、自分たちだけに仕事をした連中が顧客不在のままマネーゲームを繰り広げ、世の中を腐らせてできた。その被害をこうむった君たちは、俺たちの世代とはまた違う見方で組織や社会を見ているはずだ。そんな君たちは10年後、社会の真の担い手になる。君たちの戦いはこの世界をきっとよくしてくれるはず。どうかこれからは胸を張って、プライドを持って、お客様のために働いてほしい。たとえ相手が銀行でも遠慮することはない。君たち世代の逆襲を……いや、君たちの倍返しを、私は心から期待している」

 前シリーズでは、半沢のモチベーションの根本は大和田への私怨にあった。それを思えば、彼の変わりようにあらためて驚かされる。それというのも、銀行から出向させられた証券会社で多くの部下たちを抱え、バブル入社世代という己の恵まれた立場を見直したからこそだろう。半沢はこうした体験から、上に立つ者は責任を持たねばならないことも学んだはずだ。だからこそ、責任をとらないどころか、仲間を裏切ってものうのうとして謝ろうともしない者が許せない。その意味で第4話の後半で彼が、証券会社を裏切って銀行に戻っていた諸田を連れ出し、社員たちに謝らせていた場面は象徴的だった。

『半沢直樹』というドラマがこれほど支持を集めるのは、芝居がかった演技ばかりが理由ではなく、このように半沢がしっかり裏をとって敵を追いつめていく姿もちゃんと描かれているからではないか。現実の世界でも、ここ何年か、政官界などでさまざまな疑惑が浮上してきた。だが現実には、たとえ追及の手がおよんでも、肝心の文書が隠蔽・改竄(かいざん)されていたり、当事者がしらを切り通したりと、けっしてドラマのようにはいかない。そんな現実に対する人々の不満を『半沢』が解消する役割を担っているとすれば、何とも皮肉である。

 第4話の終わりがけでは、後半のパート(原作小説ではシリーズ4作目の『銀翼のイカロス』に相当)がさっそく幕を切った。銀行に戻った半沢は、中野渡頭取(北大路欣也)肝煎りの帝国航空の再建計画に携わることになる。どうやら大和田の推薦らしいが、そこにどんな魂胆があるのか、さっそく気になった。加えて、今度の半沢は国家権力をも相手にするらしいことがほのめかされ、いやが上にも期待が高まる。

江口のりこと柄本明

 ドラマのなかでは内閣改造のサプライズ人事として、国土交通大臣にまだ当選2回の元キャスター・白井亜希子が抜擢された。白井に扮するのは江口のりこだ。15年ほど前の映画『パッチギ!』やドラマ『時効警察』あたりから彼女を知る者には、今回の配役自体がちょっとしたサプライズだった。ちなみに白井のバックにつく与党幹事長・箕部の役は、江口が所属する劇団「東京乾電池」の主宰者・柄本明が演じている。前半の香川照之・市川猿之助の親戚共演に続き、後半では江口・柄本の師弟共演にも注目したい。

 それにしても、白井の大臣就任会見での「い・ま・じゃ・な・い」というセリフには苦笑してしまった。たぶん、前シリーズの放送された2013年の流行語である「今でしょ!」と「お・も・て・な・し」を合体させたのだろう。いずれも『半沢』の「倍返し」とともに同年の新語・流行語大賞を受賞しているが、こうなると一緒に大賞に選ばれた「じぇじぇじぇ」もいずれ劇中に出てくるかもしれず、油断ならない。

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新『半沢直樹』3話「待ってました」片岡愛之助登場!急展開に次ぐ急展開をていねいに解説

『半沢直樹』(新シリーズダイジェスト)は配信サービスParaviなどで視聴可能(有料)

半沢直樹スピンオフ企画「狙われた半沢直樹のパスワード」は配信サービスParaviで視聴可能(有料)

『半沢直樹』(前回シリーズ)は配信サービスParaviで視聴可能(有料)

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

近藤正高の似顔絵です。イラストはまつもとりえこ

イラスト/まつもとりえこ

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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