2020.08.23   

新『半沢直樹』5話|「あなたからは腐った肉の臭いがする」シェイクスピア劇みたいな「帝国航空」編

 堺雅人主演『半沢直樹』新シリーズ。先週放映の5話から、経営不振に陥った帝国航空の再建に挑む新章が始まった。経済的には絶望的な状況の帝国航空だが、就労の現場を観察した半沢は社員たちの働きぶりに可能性を見出す。歌舞伎役者に加え、柄本明、江口のりこなど小劇場出身の名優の活躍もチェックしておきたい。日曜劇場研究ライター近藤正高が新章序盤のストーリー、設定を解説する。

新『半沢直樹』5話イラスト

イラスト/サイレントT

帝国航空にとってもっとも不要なコストは

「それ以上近づかないでいただきたい! あなたからは腐った肉の臭いがする。倦んでただれた肉の臭いです。あなたの好物なんでしょう」

 まるでシェイクスピア劇に出てきそうな大仰なセリフである。現実にこんなセリフを吐けば、きっとしらけてしまうだろう。しかし半沢直樹が口にするとさまになるから不思議だ。

 先週8月16日放送の『半沢直樹』第5話では、半沢(堺雅人)が、経営不振に陥った帝国航空の建て直しにいよいよ本格的に乗り出した。だが、彼が同社の経営状況を調査のうえ、経営陣に再建計画の草案を提示したところ、その内容の一部が社内への一斉メールで露見しまう。現場に対するリストラ案だけが故意に抜き出されたそのメールを見て、社員たちの怒りが爆発する。とりわけ、半沢が協力を求めていたグレートキャプテンの称号を持つベテラン機長・木滝(鈴木壮麻)は、彼に強い不信感を抱く。

 IT企業の買収が描かれた前半にしてもそうだが、『半沢直樹』ではよくよく重要な情報がリークされて半沢が窮地に陥りがちである。もちろん彼は今回も挫けない。リークしたのが帝国航空の幹部で、自分と同じ東京中央銀行出身の永田(山西惇)だと目星をつけると、周辺を洗い出す。そのやり方はいつものごとくエグいまでに徹底しており、今回もわざわざ伊勢志摩まで証拠探しに赴いたりしている(出張費は出るのだろうか?)。当の永田も、そんな彼の動きに気づいて、「俺がやったという確固たる証拠を出せ!」と迫った。冒頭にあげた半沢のセリフは、このとき永田に向けて発せられたものである。

 調べてみると、永田はたしかに腐っていた。何しろ、伊勢志摩にある自分と関係の深い会社に仕事を発注しては、請求額を水増しさせ、帝国航空からまんまとカネをせしめていたのだから。そうやって得たカネの一部は、与党・進政党の代議士を務める兄(八十田勇一)にも献金されていた。

 帝国航空に対しては、半沢の再建計画とは別に、時の進政党政権もタスクフォース(国土交通大臣が設置した再建検討チーム)による救済策を推し進めようとしていた。永田からすれば、兄が与党に所属する以上、半沢の再建案がつぶれても安泰だった。むしろ、再建計画によりコストカットが徹底されれば、自分の関連会社との取引を切られかねず、どうしても計画をつぶす必要があったのだ。リークのメールも、関連会社である丸岡商工の社長(粟根まこと)に、永田が命じて流させたものだった。

 だが、永田の不正は、半沢と木滝の手で社員説明会にて暴露される(イラスト参照)。木滝は結局、半沢が会社を思う気持ちに打たれ、一転して協力を買って出てくれたのだ。半沢たちは、丸岡商工の社長が、永田とタクシーで密談するところを収めたドライブレコーダーを入手。さらには、丸岡を直接問い詰め、不正を白状させた。事実を知った社員たちが騒然となるなか、半沢は「帝国航空にとってもっとも不要なコストは、永田、おまえだ!」と叫び、永田に引導を渡す。そのうえで再建計画への協力を木滝とともに社員に呼び掛けるのだった。

半沢のまわりは敵だらけ

 今回の永田といい、前半で証券会社の買収案件を銀行が横取りするため陰で動いた諸田(池田成志)といい、このドラマではどうも銀行からの出向者が悪者になりがちだ。ここには、出向者は銀行から出された負い目から卑屈になり、自分のことしか考えられなくなるという筋立てが見てとれる(現実の銀行からの出向者が本当にそうなってしまうのかはともかく)。これに対し半沢は、証券会社に出向させられてもこうした負のスパイラルに陥ることがなかった。そこで思い出されるのは、出向中の彼が部下の森山(賀来賢人)を相手に語った「仕事は客のためにするものだ、ひいては、世間のためにするものだ。その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をする。自分のためだけにした仕事は内向きで卑屈で、醜くゆがんでくる」というセリフだ。この言葉からすれば、諸田も永田も見事に「大原則を忘れた」人間に当てはまる。

 他方、帝国航空では、半沢の言う大原則がしっかりと守られていた。半沢が現場を丁寧に見てまわったところ、社員たちは私利私欲に走るどころか、それぞれの持ち場でたしかに客のため、安全のために働いていたからだ。半沢はそこに同社が自力で再建する可能性を見出す。計画案もそれを踏まえてのものだった。社員たちは、幹部の永田をばっさり切った半沢の態度にすっかり心を動かされ、結束する。これを後ろ盾に半沢はタスクフォースに乗りこむと、そのリーダーの乃原(筒井道隆)に対し、政府による救済策で示された帝国航空に対する銀行の債権の放棄を拒否すると宣言した。

 気づけば、半沢のまわりは敵だらけだ。乃原はもちろん、帝国航空のメインバンクである開発投資銀行の「鉄の女」こと谷川(西田尚美)は、自分たちを差し置いて再建計画を作成する半沢に憤りを感じていた。国土交通大臣の白井(江口のりこ)にとっても、半沢による計画は政府の策への妨害以外の何物でもない。そのため、彼女は帝国航空に乗りこむと、神谷社長(木場勝己)に圧力をかけてきた。

 さらに不気味なのは、白井のバックについた進政党幹事長の箕部(柄本明)である。内閣の支持率回復のため、実績はないながら元キャスターで国民から人気の高い白井を大臣にねじ込むべく、箕部は総理の的場(大鷹明良)に土下座までしていた。普通の人なら屈辱でしかない土下座も、この老政治家にはまったく躊躇がない。そんな海千山千の人間を相手に、半沢は今後いかに戦っていくのだろうか。

小劇場の名優がひしめいている

 それにしても、前半では歌舞伎役者たちが大活躍したのに対し、後半では「劇団東京乾電池」の柄本と江口をはじめ小劇場出身の俳優が続々と登場している。永田兄弟を演じた八十田勇一と山西惇は、京大の演劇研究会を母体とする「劇団そとばこまち」の出身で、ドラマでの共演も多い(10年以上前に放送された『ホレゆけ!スタア大作戦』というドラマでは、その名も「八十山兄弟」なる兄弟役で共演していた)。永田と結託した丸岡を演じた粟根まことは、前半で銀行の副頭取を演じた古田新太と同じく人気劇団「劇団☆新感線」に所属する。また、銀行の審査部次長で、半沢に嫌味を言いまくっていた曽根崎役の佃典彦は、名古屋を拠点に「劇団B級遊撃隊」を主宰、劇作家としても活躍し、岸田國士戯曲賞も受賞している。

 このほか、帝国航空の神谷社長役の木場勝己も、蜷川幸雄主宰の「櫻社」を経て「斜光社」を旗揚げするなど、やはり長らく小劇場畑を歩んできたし(日曜劇場では『天皇の料理番』での宮内省大膳寮のベテランシェフ役が記憶に残る)、総理役の大鷹明良も、寺山修司の流れをくむ「演劇舎螳螂(かまきり)」の出身だ。さらに銀行のニューヨーク支店から本店に戻った紀本常務役の段田安則は、80年代の小劇場ブームを牽引した「劇団夢の遊眠社」の看板役者のひとりである(そういえば、段田演じる紀本は、どことなく次期首相との呼び声もある自民党政調会長の岸田文雄と似ている気がするのだが……)。そもそも主演の堺雅人からして、早稲田大学の演劇研究会を母体とする「東京オレンジ」出身と、小劇場を出発点としている。ドラマの前半については歌舞伎にしたらどうかという声も聞かれたが、後半は、シェイクスピア劇風の演出で舞台化してみたら面白そうだ。

 とはいえ、歌舞伎役者たちも前半に続いて活躍を見せている。第5話では、尾上松也演じるスパイラル社長の瀬名が、半沢のリーク元探しのためひと役買っていた。さらに今夜放送の第6話では、片岡愛之助演じる金融庁の黒崎が再登場する。黒崎といえば、原作者の池井戸潤は、今回のドラマ後半の原作となる小説『銀翼のイカロス』を雑誌に連載中、当初は彼を出す予定はなかったのが、ちょうどそのころ放送されていたドラマの前シリーズでの愛之助の演技に衝撃を受け、小説でも登場場面をつくったという(『日曜劇場 半沢直樹 公式ガイドブック』講談社)。原作者の心をも動かした演技を今回も堪能したい。

新『半沢直樹』これまでのレビューを読む

新『半沢直樹』1話|半沢の変化に注目!もうおじさんで銀行に戻れるかどうか瀬戸際か

新『半沢直樹』2話|まるで幕末の群像劇のようで興奮!若手社員とのチームプレイで銀行に勝負を挑む

新『半沢直樹』3話「待ってました」片岡愛之助登場!急展開に次ぐ急展開をていねいに解説

新『半沢直樹』4話|バブル入社世代から就職氷河期世代へのエール「君たちの倍返しを期待している」

 

『半沢直樹』(新シリーズダイジェスト)は配信サービスParaviなどで視聴可能(有料)

半沢直樹スピンオフ企画「狙われた半沢直樹のパスワード」は配信サービスParaviで視聴可能(有料)

『半沢直樹』(前回シリーズ)は配信サービスParaviで視聴可能(有料)

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

近藤正高の似顔絵です。イラストはまつもとりえこ

イラスト/まつもとりえこ

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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