2020.09.03    3

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第57回 誰かに救ってほしい…」

 若年性認知症を患う兄と2人暮らしをするライターのツガエマナミコさんが綴る連載エッセイ。

 父の突然の死後、母の認知症が進み、兄妹で介護を続けてきたが、母の死と時期を同じくして兄の様子にも変化が・・・。それから4年あまり兄をサポートしながら一緒に生活するツガエさんが、ときにくじけてしまいそうな胸の内を明かします。

「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。

前の話を読む 

 * * *

もう少し頑張って。絶対助ける!

 ここ数か月、ゲーム実況配信なるものを見るようになってしまいました。昭和に大流行したスーパーマリオゲームですら触れたことがなく、ましてやオンラインゲームなどまったく興味がございませんでした。が、「あつまれ どうぶつの森」にハマっている人があまりに多いので、「どんなもんなん?」と実況配信を覗くようになってから、いろいろなゲーム実況配信の存在を知ることとなりました。

 特にどハマりしておりますのが、1殺人鬼に対して4人が助け合いながら廃墟から脱出するというゲームで、気付くと深夜2時になることがしばしば。もちろん実践はせず、観戦一筋でやらせていただいているのですけれども…。

 残虐シーン満載のこのホラー脱出ゲームになぜこんなにハマっているのか、自分でもわかりませんでした。終始ハラハラドキドキなのが醍醐味ですが、先日ふと、実況者のこんな言葉が胸に刺さっていると感じたのでございます。

「もう少し頑張って。絶対助ける!」

 殺人鬼につかまってしまった仲間を思い、身を挺して救いに行くその瞬間がたまらないのです。わかっていますよ、ゲームなのですから得点を稼ぐためだということは…。

 とどのつまり、わたくしも誰かにそんなことを力強く言ってもらいたいのだなと自己分析。「夢見る夢子かっ!」と一人ツッコミいたしました。

 年甲斐もなく誰かに頼りたいとか、救われたいとどこかで思っているのでございます。まぁ、この身一つでも重いのに、兄まで背負って生きるのですから「そうなります」ってことでお許しください。

 そもそも妹というものは、長年兄姉の庇護の下で生まれ育った生き物です。具体的に庇護されたわけではなくても、「困ったときはお兄ちゃんがいる」という精神的な逃げ道を持っているのが妹の強みでございましょう。そんないわゆる末っ子体質を半世紀かけてじっくりがっつり熟成させてまいりましたのに、ああ、それなのに、わたくしはここへ来て妹の強みを失ったばかりか、逆に「困ったときはマナミコちゃんがいる」とベッタリネットリ頼られてしまう立場になったのです。

 自分がこんなことになってみて、世の中の兄姉のご苦労ご心労に思いをはせるようになりました。運命とはいえ兄姉の方々はその存在だけで偉大でございます。

 わたくしの周りには兄妹間で介護をしている同世代はいないのですが、ネットを検索すると障がいのあるきょうだいを持つ人は思いのほか多く、「学校から帰ると妹の世話をさせられ、友達と遊べなかった」とか「親は兄にかかりきりで私には無関心だった」とか「一生面倒をみなければならないのか」「親がいなくなったらどうすればいいか」「結婚は諦めないといけないのか」という切実な投稿を目にいたしました。

 比較するのは失礼なことですが、物心ついたときからずっと背負わなければならないきょうだいがいて今後も終わりの見えない介護が続くお若い方々に比べれば、人生も後半まで気ままに暮らしてきたわたくしなどは恵まれているケースでございます。そうわかっていても尚、不満が尽きない自分に呆れかえるばかり…。

 でも思うのです。「ならば、わたくしはどうなったら幸せなのか?」と。

「見捨てて一人で暮らせば幸せか?」「施設に入れてしまえば幸せか?」「誰かが代わってくれれば幸せか?」「消えてくれたら幸せか?」

 どれもピンとこないのは、罪悪感が付いて回るからにほかなりません。結局、このまま自然の成り行きにまかせるのがベストで、先回りして悩むのはやめようというところに落ち着きます。このトラックをいままで何周回ってきたことか。

「もう少し頑張って。絶対助ける!」

 今日もまたこの言葉が聞きたくてゲーム実況配信の沼にハマってしまうツガエでございます。

つづく…(次回は9月10日公開予定)

◀前の話を読む  次の話を読む 

この連載の一覧へ!

文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。ハローワーク、病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

●「無駄に思えることが人生を豊かにしてくれる」毒蝮三太夫、生きる極意【連載 第25回】

●ズボラ介護のすすめ|介護疲れしないための4つのアウトソーシング

●猫が母になつきません 第216話「ログアウト」

コメントが付けられるようになりました▼

この記事が役に立ったらシェアしよう

  •  3

▶コメント

※編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
※寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

  1. ひまわり より:

    毎週の配信、楽しみにしております。
    嫁いで以降、義母、義父、実父の順で介護し、今は実母の介護真っ最中です(^。^)
    『誰か助けて!』と言うお気持ち、痛いほどわかります。
    差し出がましい様ですが、ケアマネさんを頼まれては如何でしょうか。地域によっては、入浴だけのデイサービス、体力作りのデイサービス(フィットネスみたいな感じ)、
    認知症専門のデイサービスなどがあります。料金も(回数によりますが)月に数千円程度です。長年介護保険料を支払っておられるのですから、使わないのは勿体ないです。
    また、世帯分離すると(一件に世帯主が二人いるイメージ)税金の優遇があるかもしれません。
    これら諸々、ケアマネさんに相談されては如何でしょうか。少しでも荷が軽くなるかと思います。

    いつまで続くか、先の見えない介護ですが、どうぞお身体大切になさって下さいませ。

    15+

  2. ぷち より:

    分かるわぁ、、てシミジミと。

    ワタシ妹です。
    兄いました。素行の悪かった兄。
    けど、若くして病気で世を去り。

    思うことはまだやり残したことのある兄は可哀相だと思う反面、まだ兄が生きていたら引続き苦労を掛けられていたかと思うと凄く怖い、恐ろしい。。(笑)

    素行の悪い兄でしたが、やはり存在としては「兄」であり、存在としての安心感があったのです。精神的な逃げ道、まさにソレだったと思います。

    二番目の存在であるワタシが一番目に繰り上がる。コレはなんとも言えなく不安、違和感なのです。。(笑)

    いつの頃からかワタシの認識として植えついた「世の長男は甘えたで頼りない」ですが、ワタシとしては迷惑、面倒を掛けられた兄であっても居なくなった今としてはなんだかやはり寂しいです。。

    あー、そんな兄の命日もうすぐやん。
    天国へ行けたと信じたい兄から「俺のこと思い出してやー」の打診されてるんかな。。(笑)

    マナミコさんが毎日笑って過ごせますように心から願います(*^^*)

    6+

  3. ねこずー より:

    毎回、興味深く拝見しております。お兄様のこと、愛情深く見守ってらして毎日大変な事と思います。
    ええ、「愛情深く」と言わせて頂きます。
    私にも兄がおりまして、若年性認知症です。ご苦労(ご立腹も)、よくよく分かります!
    一つ違うのは、うちの兄は幼い頃から(第一子、初孫のせいか)専制君主、将軍様で私たち兄弟(私の下に弟2人)はいじめられてました。 成績は兄が一番良く、県下一の進学校へ、でも「美容師になる!」と言い出して親とは毎日大ゲンカ、いつかは父を殴って父が血を流したらしい(私はこわくて自室にこもっていた)。
    そんな奴なのに、「なんかおかしい、自殺したくなった」とこの妹に電話してきて…、
    それからは上京していた兄を実家に連れ帰り、病院を巡り(しかしすぐには診断がつかず、数年は病院巡りを断念して放置)、、一昨年親が亡くなり、病院巡り再開(いい具合に症状が進み、めでたく認知症の診断が降り)、施設探し、で、やっと受け入れ先の施設が決まり、今はようやく私たち兄弟に平和が戻ってきました。(施設入所時、兄61才、私58才)

    いよいよ進んだら、自宅で素人が面倒を見るのは限界がありますし、親なら、ゴールは自分がまだ体力のあるうちに来ますが、兄弟だと下手するとこちらが先に参りますからね…。 施設に罪悪感など持たれなくていいですからね、行政や福祉の手を上手に借りてくださいね。

    数は少ないとは言え、兄弟が若年性認知症になったという人はいますよ!それぞれ状況は違うので一概に言えない部分はありますが、読んでいてお兄様のお優しい性格に羨ましくもあります、そういう記憶があればまだお兄様の為に頑張れる気がします。でも、それでもイラッとする瞬間が多々あるのも同時に分かります。

    どうか、お兄様との日々が少しでも平穏でありますように、そしていよいよ進んだ時には双方納得のいくいい解決策がありますように。

    ツマガエナミコ様とお兄様のお優しい性格、そしてユーモラスな表現に救われている読者は多いと思います。ずっと応援しております。

    12+