2020.09.13   

『生放送!!半沢直樹の恩返し』が期待以上に恩返しだった。俳優たちの演技プランに興味津々

 堺雅人主演『半沢直樹』新シリーズ。先週9月6日は、コロナ禍による撮影の遅れを調整するための特番『生放送!!半沢直樹の恩返し』が放送された。冒頭の迫真のコントの衝撃、豪華出演陣による裏話トークの見どころを、日曜劇場研究ライター近藤正高が解説します。

半沢直樹の恩返し

イラスト/サイレントT

こんな場面あったっけ?

ファ〜〜ン〜〜

『半沢直樹』は毎回、たいていこんなジングルで始まる。一気に緊張感が高まり、視聴者をドラマの世界へといざなう合図だ。先週9月6日の放送もそうだった。事前に告知されていたとおり、この週は本来放送予定だった第8話が間に合わず、生放送での特番となった。それがいきなり、いつものようにドラマから始まったので、筆者は「ははーん、すでに放送された回からの名場面集だな」と思って見ていた。

 半沢(堺雅人)はなぜか渡真利(及川光博)とともに金融庁の黒崎(片岡愛之助)から呼び出され、ものすごい勢いで叱責されている。「あれ、これまでのドラマのなかでこんな場面あったっけ?」と思っていると、謝罪をうながされた半沢から出た次のセリフで、ようやくこれが今回のために撮った映像であることがわかった。

「我が東京中央銀行……いえ、TBSドラマチームは、放送に間に合わせるべく全力で挑んでまいりました。しかし、感染を予防しながらの撮影で、どーーしてもスケジュールが延びてしまい、きょうの放送を、見送らざるをえないことになりました! 本当に……申し訳ございませんでした」

 このあと、このあとスタジオに切り替わり、堺、及川、愛之助のほか、大和田役の香川照之、笠松役のアンジャッシュ児嶋一哉に加え、司会の安住紳一郎アナウンサー、それから『半沢』ファンという久本雅美とヒロミによりトークが繰り広げられた。出演者が全員40代以上、しかも女性は久本だけで、あとはおじさんばかりというのも考えたらすごい。番組ではあらかじめ視聴者から質問を募り、キャスト陣がそれに答えるという趣向だったが、結局、話が盛り上がりすぎて、回答できたのは3つにとどまった。それでも、ファンにとっては十分すぎる「恩返し」であった。

アドリブの多さ、監督の粘り

 そこであらためて確認できたのは、『半沢直樹』は俳優による裁量が大きいドラマだということだ。俳優たちがおのおの演技プランを立てて収録にのぞみ、ときにその場で話し合ってセリフをアドリブでつくっていく。第2話で大和田が半沢に言い放った「お・し・ま・い・death」、第7話で銀行内部から政府につながっている人物が紀本(段田安則)だという確証を得るため、半沢と大和田が曾根崎(佃典彦)を問い詰める際の「さあ、さあ、さあ」(歌舞伎の“繰り上げ”という型を採り入れたもの)といった名ゼリフも、そうやって生まれたのだという。

 収録ではカメラをそうとう回すのだということもわかった。たとえば、先の曾根崎を問い詰めるにあたって、半沢から協力を求められた大和田が「大事な7文字」を言うよう促した場面。大和田が求めたのは「お願いします」の7文字だったのに対し、半沢が指を折って数えたのは3文字だった。これも、何パターンか撮ったなかから3文字を数えるカットが使われたという(ちなみにこの3文字を堺は「頼む」、福澤克雄監督は「土下座」と考えたとか)。

 筆者は、本作と同じく福澤監督が手がけた日曜劇場のドラマ『ルーズヴェルト・ゲーム』(2014年)のロケにエキストラとして参加したことがあるが、あのときも同じ場面を何度も繰り返し撮っていたのを思い出す。ねばりにねばって、これぞという演技を俳優から引き出そうという執念には恐れ入る。ただ、そのことが今回のように撮影が放送に間に合わない原因にもなったのだろう。これについては番組中でも安住アナが指摘していた。『半沢』第4話での大和田と伊佐山(市川猿之助)の密談シーンにいたっては、長々と撮ったにもかかわらず、放送時間の関係で泣く泣くカットしたと監督が明かしていた(ディレクターズカット版では復活させる意向らしいが)。

 視聴者からの質問のなかには、「渡真利は半沢のため情報収集ばかりしているが、自分の仕事は大丈夫なのか」のように、筆者も以前から気になっていたこともあった。たしかに渡真利は、銀行内で敵も多い半沢のため、いつもスパイのように動き回っているだけに、左遷されてもおかしくはないのに、なぜか本部にとどまり、それなりに出世もしているらしい。これについては演じる及川光博が、付けている指輪を指しながら、彼の結婚相手はたぶん大口の取引先の資産家令嬢で、銀行上層部も軽々に扱えないからではないかと推測していたのが面白かった。そんなふうに俳優が、演じる人物について自分なりに設定を考えることは、演技や作品の世界観に奥行きをもたらしてもいるのではないだろうか。

半沢夫妻の子どもの設定は?

 今回の生放送ではとりあげられなかったものの、『半沢』ではほかにも気になることがいくつかある。たとえば、7年前の第1シリーズでは、半沢夫妻には子供がいたのに、今回のシリーズではまったく出てこないどころか、いる気配すらないのはどういうわけか? これについて筆者は、「新シリーズに際して子供は最初からいなかったことになった」と見ている。それというのも、このドラマの場合、子供がいると物語を展開させにくいような気がするからだ。たとえば、第7話では、半沢の妻・花(上戸彩)が半沢行きつけの小料理屋でこっそり待ち構えていて、その夜、退社後に来店した彼をあわてさせるシーンがあったが(花はその日、勤務する花屋で井川遥演じる小料理屋の女将の智美とたまたま知り合っていた)、あれなど、夫婦に子供がいたらつくりにくいシチュエーションだろう。

 花の話が出たついでに書いておくと、彼女の勤務する花屋の店主役が吉田羊というのが、出番の数からするとなかなかぜいたくな起用に思える。『半沢』の今回のシリーズではこの手の俳優が結構いて、ITベンチャー・スパイラルの創業メンバーのひとりを演じていた井上芳雄といい、帝国航空編に入ってからの金融庁検査で黒崎の部下として登場した宮野真守といい、それぞれミュージカル俳優、声優としての地位を思えば、出番が少なかったのがちょっともったいなく思えた。

 一方で、これから出番が増えそうなのが、生放送にも出演した児嶋一哉だ。番組ではなぜ児嶋を起用したのかという話になり、福澤監督は『ノーサイド・ゲーム』に出てもらったときの演技がうまくて、非常に印象に残ったからと答えていた(ただ、『ノーサイド・ゲーム』というのは監督の記憶違いで、児嶋が出ていたのは『ルーズヴェルト・ゲーム』である。『半沢』と同じく池井戸潤原作のこのドラマで、児嶋はドラマの舞台となる電子部品メーカーの営業部長を演じた)。福澤監督は、児嶋のことを、香川照之がよく使うという言葉を借りて「いいエンジンを持ってる」と絶賛し、『半沢』最終回では「非常に大きな役どころ」で活躍するともほのめかした。先週のレビューで、児嶋演じる笠松は、ひょっとすると白井国交大臣の秘書という立場から半沢の側に寝返るのではないかと予想したが、それが的中するかもしれない!?

「頭取」をやりたいのは香川照之? それとも

 生放送では終了間際になって、「自分の役以外にやるとしたら、どの役を演じたいか」との久本雅美の質問に、堺が「大和田」、及川が「黒崎」、香川が「頭取」、愛之助が「渡真利」、児嶋が「半沢」とそれぞれ答えていた。さらに話が膨らみそうなところで放送が終わってしまったのが残念である。ただ、大和田役の香川が「頭取」と言っていたのは、劇中で北大路欣也が演じる中野渡頭取を演じたいわけではなく、大和田がゆくゆくは頭取になりたいという意味ではないかと思ったのだが、どうだろう。

『半沢』関連では、きのう・きょう(9月12日・13日)と、ドラマに登場した脇役たちのサイドストーリーを描く朗読劇が公演中で、ネットでの配信も予定されている。そして今夜放送の第8話では、いよいよ半沢が政界の黒幕・箕部(柄本明)に切り込んでいく。筆者としては、両者の闘いと合わせ、紀本役の段田安則と同じく「劇団夢の遊眠社」出身の浅野和之が、紀本とは逆に半沢の味方と思しき役で登場するのが気になるところである。

新『半沢直樹』これまでのレビューを読む

新『半沢直樹』1話|半沢の変化に注目!もうおじさんで銀行に戻れるかどうか瀬戸際か

新『半沢直樹』2話|まるで幕末の群像劇のようで興奮!若手社員とのチームプレイで銀行に勝負を挑む

新『半沢直樹』3話「待ってました」片岡愛之助登場!急展開に次ぐ急展開をていねいに解説

新『半沢直樹』4話|バブル入社世代から就職氷河期世代へのエール「君たちの倍返しを期待している」

新『半沢直樹』5話|「あなたからは腐った肉の臭いがする」シェイクスピア劇みたいな「帝国航空」編

新『半沢直樹』6話|仲間たちのクビを切るのはつらい、だが会社を守るためには…闘う石黒賢

新『半沢直樹』7話|白井大臣をやり込めたキーワードは半沢の原点「ネジ」!

 

『半沢直樹』(新シリーズダイジェスト)は配信サービスParaviなどで視聴可能(有料)

半沢直樹スピンオフ企画「狙われた半沢直樹のパスワード」は配信サービスParaviで視聴可能(有料)

『半沢直樹』(前回シリーズ)は配信サービスParaviで視聴可能(有料)

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

近藤正高の似顔絵です。イラストはまつもとりえこ

イラスト/まつもとりえこ

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

●最終回『MIU404』が終わらない「ゼロ地点から向かいます。どうぞー!」

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