2020.09.18   

認知症の母が77歳で白髪染めと化粧を続ける理由…認知症と美の話

 岩手・盛岡に住む認知症の母の遠距離介護を続ける作家でブロガーの工藤広伸さん。遠距離介護は今年で8年目に突入し、この夏に喜寿77歳を迎えたお母さんは、毎朝化粧は欠かさず、艶やかな黒髪も維持している。しかし、あるとき生え際の白髪が気になってーー。今回は、白髪染めと化粧…認知症介護と”美容”にまつわる話だ。

工藤広伸さんのお母さんの白髪の生え際が見える写真

認知症の母は生え際の白髪が気になると…(写真提供/工藤広伸)

認知症の母の願いは「いくつになってもキレイでいたい」

「お母さん、お化粧されるのですね」

 記者の方がわたしに取材をする際、こう言われることがあります。

「お母さんは(認知症が進行しても)、お化粧されるのですね」

 わたしはこう解釈して答えるのですが、おそらく認知症が進行すると、化粧をしなくなる、あるいは化粧の仕方が分からなくなると思っているから、このような質問になるのだと思います。

 今日は、認知症と「美」の関係について、わが家の例をご紹介します。

認知症の母が化粧を続けるためにやっていること

 母は毎朝、化粧をします。

 週2回のデイサービスの時はもちろんのこと、外出せず自宅にいるときも、化粧は欠かさずやります。介護職の方が毎日いらっしゃるので、きちんとお化粧しておきたいと思っているようです。

 化粧はファンデーションと口紅を塗る程度の簡単なもので、ファンデーションを塗るスポンジと、口紅を塗るための筆を使って行います。

 これら化粧道具は、黒の大きなバニティケースに入れておくのですが、保管場所が安定しません。そのため、化粧前になると、

「この前、娘が欲しいと言って、スポンジを持って行った」

「デイサービスの人に、スポンジを分けてあげた」

 と、自分がスポンジを片づけた場所を忘れ、誰かが取ったことにする「ものとられ妄想」の症状が出て、朝から大騒ぎになります。

 そうならないよう、スポンジや筆が定位置にあるかを確認する作業が、わたしの毎日の介護の中に組み込まれています。

 しかし、母があまりにスポンジを失くすので、近所の100円ショップで10個入りのスポンジを購入しました。10個も買っておけば、家のどこかでスポンジを見つけてくれるだろうという狙いで大量購入したのですが、そのおかげでケンカの回数も減りました。

 大騒ぎしながらも、母は毎日化粧を続けていますが、同じレベルで確認していることが、母の白髪の状態です。

母の認知症を理解している美容室

 ある日のことです。

 母が「デイサービスに行きたくない」と、駄々をこね始めました。

 最初は理由が分からなかったのですが、根気よく探ってみると、白髪混じりの頭のまま、人には会いたくないという気持ちが働いたようです。

→黒髪がキレイな工藤さんのお母さんの姿|コロナ禍で再開した話

 美容室は2か月から3か月に1回のペースで通っていて、わたしか妹が付き添います。手足が不自由な母はひとりで外出できませんし、美容室の場所が分からなくなってしまったので、必ず付き添いが必要です。

 美容室には、母が認知症であることや、手足が不自由なことは伝えていますが、何年も変わらず、普通のお客さんとして受け入れて頂いています。

 母を美容室に預けたあと、わたしは近所のカフェで原稿を書きながら終わるのを待ち、カットや白髪染めが終わると、わたしの携帯に連絡してもらう仕組みで、母を迎えに行くシステムになっています。

 デイサービスは休まず行って欲しいので、母の白髪チェックは欠かせませんが、ある日ふと思ったことがあります。それは、77歳の母はいったい、いつまで化粧や白髪染めを続けるべきか?ということです。

白髪染めや化粧は70代、80代…いつまで続ける?

 一般的に、女性は何歳まで化粧をして、何歳まで白髪を染めるのか? をネットで調べたことがあります。母は77歳だし、80歳を過ぎたらノーメイクでもいい、白髪を染めなくてもいいのでは? と、わたしが一方的に考えたからです。

 あるアンケート調査によると、女性は何歳までメイクをするかという問いに対し、「一生」と答えた方が圧倒的に多かったのです。

 このアンケート結果を知ってからというもの、わたしは、母の認知症が進行して、美容への意識が回らなくなるまで、今の習慣を続けようと思うようになりました。また、美容室へ通えなくなった場合は、自宅でカットや白髪を染める訪問美容に切り替えるつもりです。

 化粧が終わったあとや、白髪を染めたあとの声掛けも大切にしています。

「あれ、10歳くらい若返ったねぇ、いいんじゃない」

 わたしのこの言葉に、母はいつもご満悦な表情を浮かべます。おそらく、いくつになってもキレイでいようというモチベーションにつながっていると思います。 

認知症の進行と美への意識…

 亡くなった認知症の祖母は、晩年、病院のベッドで寝る時間が長くなっていました。

 真っ白な髪の毛は肩まで伸びてしまったので、病院のベッドの上でカットをしたことがありました。認知症が相当進行していた祖母でしたが、わたしが、

 「あら~、サッパリしていいね~」

 と声を掛けると、目を細め、口角をしっかり上げて笑った顔が、今でも忘れられません。

 どんなに認知症が進行していても、女性にとって美への意識は大切なものなんだなと気づいた瞬間でもありました。

 母の認知症は進行しつつありますが、美への意識は忘れて欲しくないので、これからも化粧道具を揃え、美容室に連れて行きたいと思っています。
  
 今日もしれっと、しれっと。

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工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

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