2020.10.09   

認知症の親の預金を家族が引き出すには?今後しやすくなるってホント?

 認知症などで本人の判断能力が低下すると、銀行の預金を引き出せなくなることも。高齢化で認知症患者数が増える中、銀行の対応について新たな指針が示された。現行の制度から新たな対応策まで、ファイナンシャルプランナーの大堀貴子さんが解説する。

認知症の人の銀行口座からお金をおろしやすくなる?(写真/GettyImages)

認知症患者の預金は原則、引き出しできない

 高齢化に伴って認知症患者数は増え続け、認知症患者が保有する金融資産は2030年には215兆円に上る見通しだ※。そんな中、認知症患者の銀行口座の引き出しができずに困る家族も増えていることが予想される。

 しかし、認知症などで銀行口座名義人の判断能力が低下した場合、原則として本人の意思が明確に示されない限り、資金を引き出すことができない。

 また、銀行は不正引き出し防止の観点から、銀行口座名義人が認知症になったと判明すれば銀行口座が引き出されないよう凍結してしまうこともある。

※第一生命経済研レポート 2018.10より
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/monthly/pdf/1810_5.pdf

原則不可だが6割の銀行は引き出しに対応

 認知症などで判断能力が低下した名義人の銀行口座の取り扱いに関しては、原則は引き出せないのだが、現状では、銀行側の判断に委ねられており、家族なら引き出せる銀行もある。

 例えば、ある銀行では、普段から名義人や名義人家族についてよく知っており、名義人本人の医療費分なら引き出しに応じるが、別の銀行では、名義人本人が認知症と判明した時点で口座を凍結し、ATMからも引き出せないといったケースも。

 現在は、約6割の銀行が家族による認知症患者の銀行口座からの生活費の引き出しに対応している。残りの4割は対応せず、または支店・行員の判断に委ねられており、グレーな部分となっている。このように銀行によって対応がまちまちなのだ。

「成年後見制度」を使う手も

 資産が凍結され、預金を引き出せなくなった場合、名義人本人が認知症で介護施設に入居して多額の入居費が必要になったときなど、必要な資金を引き出せず、家族が負担しなければならなくなる。

 このような場合には、「成年後見制度」を利用する方法がある。

「成年後見制度」は、大きく分けて2種類ある。

 判断能力が低下する前であれば、1.「任意後見制度」を利用する。

 また、判断能力が低下した場合には、2.「法定後見制度」を利用し、いずれも家庭裁判所によって選ばれた後見人が財産管理を行う方法がある。以下で解説していこう。

→成年後見制度の手続き|認知症になってからでは手遅れ!ボケる前にやるべきこと

「任意後見制度」と「法定後見制度」の違いは?

 判断能力があるうちには本人の意思をもとに、信頼できる身内に財産の管理を託す「家族信託」または「任意後見制度」により、認知症になったときの財産管理を任せる人を選ぶことができる。

 これらは、実際に認知能力が低下したら、自分が決めておいた受託者または後見人のもと財産管理が行われる。

→蛭子能収が認知症発覚で始めた妻への家族信託|どんな制度?メリットは?

任意後見制度、家族信託、法定後見制度の違い

任意後見制度、家族信託、法定後見制度の違い(表作成/大堀貴子さん)

 一方、何も対策をしないまま判断能力が低下してしまった場合は、「法定後見制度」しか選べなくなる。

「法定後見制度」の開始後は、銀行で「後見制度支援信託」や「後見制度支援預金」を作ることで対応する(対応していない銀行もある)。

 大きな資金を引き出すときには家庭裁判所の指示書が必要となるが、小口の生活資金の引き出しであれば家庭裁判所の指示なしで引き出しが可能になる。

 しかし、この「法定後見制度」にはデメリットが2つ考えられる。

参考/厚生労働省 成年後見制度の現状 https://www.mhlw.go.jp/content/000639267.pdf

「法定後見制度」にはデメリットも…

1.手続きに時間がかかる

 制度利用のためにはまず家庭裁判所に申し立てを行い、調査や審理が行われ、後見人が家庭裁判所から選任され、後見制度が開始される。後見人のもと銀行口座から資金を引き出すことができるようになるまで4か月程度かかってしまうため、急いで資金が必要な場合には間に合わない。

→家族信託のメリット|相続対策などにも有効。手続き、費用などを解説

2.大きな資金の引き出しには家庭裁判所の許可が必要

 大きな資金の引き出し、または自宅を売却して介護資金に充てる等は家庭裁判所の許可が必要となる。その判断は本人のためになるかどうかのみ考慮されるため、認められないこともある。

「法定後見制度」は、上記のようなデメリットがあるため、判断能力があるうちに「任意後見制度」や「家族信託」を利用するほうがいいだろう。

 しかし、本人が認知症にはならないと考えていたり、制度自体を知らなかったりする場合も。または、子供の側からは言い出しにくい、法律家に相談するほどではないなどの考えから、制度を使わないうちに、判断能力の低下に至ってしまうケースもある。

「代理人指名手続き」とは?

「任意後見制度」や「家族信託」以外にも、本人の判断能力があるうちに対策をしておけるのが「代理人指名手続き」だ。

 これは、判断能力があるうちに、銀行で代理人指名手続きを行い、家族を指名することができる制度。代理人指名手続き後、「代理人キャッシュカード」を作ることができ、代理人は普通預金をATMから1回または1日のATM引き出し限度額まで引き出すことができる。

 また、限度額を超える金額であれば窓口で引き出すことができ、定期預金の解約も指名された代理人が行うことが可能だ。

新たな銀行指針で預金が引き出しやすくなる!?

 前述の通り、これまで認知症などで判断能力が低下した口座名義人の預金引き出しについては銀行によって対応にバラつきがあった。そこで新たに金融庁は、銀行全体に指針作りを求める報告書を公表した※。

 この新たな指針により、銀行の対応が統一され、銀行窓口で戸籍抄本、介護施設や医療機関の請求書などを示せばお金を引き出せるようになることが考えられる。

 認知症本人の口座から生活費や医療費、介護費用などが引き出せないときは、まずは、銀行に相談してみるとよいだろう。

※金融庁/金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 -顧客本位の業務運営の進展に向けて- https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20200805/houkoku.pdf

→マネー記事シリーズ一覧を見る

文/大堀貴子さん

ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。

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