2018.04.13 |ヘルス   

認知症介護 「褒める」を実践した人たちから届いた声とは

 認知症の母を盛岡ー東京の遠距離で介護し、その経験をブログや書籍などで発信している工藤広伸さん。家族の視点で”気づいた”、”学んだ”エピソードの数々は、とても役に立つと評判だ。当サイトのシリーズ「息子の遠距離介護サバイバル術」でも、介護中の人へのアドバイスのみならず、介護を始める前の人にも知ってもらいたいことが満載。

 今回のテーマ「褒める」。今までも「褒める」ことが大切だと説いてきた工藤さん。そのアドバイスを実践してきた人の声もふまえ、改めてそのメリットを検証してもらった。

褒められると誰でもうれしいもの(写真/アフロ)

 * * *

 わたしが書いた1作目の著書『医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 』(廣済堂出版)の中に、認知症の人を「褒める」という話を書きました。この心得に対する反響は大きく、実践した全国の介護者からたくさんの声が寄せられました。

 そもそも、わたしが認知症の人を褒めようと思いついたのはなぜか、認知症の母はどう反応したのか、そして「褒める」を実践した全国の方々はどんなメリットがあったのかについて、今日はお話しします。

「ほめてやらねば、人は動かじ」

 認知症の祖母が子宮頸がんとなり、同時に母の認知症が分かったわたしは、介護離職を決断しました。離職前はある企業のマネージャーという立場で、チームをまとめる大切な役割がありました。

 わたしはよく、連合艦隊司令官・山本五十六のこの言葉を思い出しながら、チームメンバーに仕事を依頼していました。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」

 特に「ほめてやらねば、人は動かじ」の部分を意識していて、当時のチームのモチベーションはこの「褒める」のおかげで、高く保てていたと思っています。

 母の認知症介護を始めて2年が過ぎた頃、この「褒める」を母にも試したらどうなるだろう?と思い、やってみたのが最初でした。

2分前に話した内容も忘れる母が、数週間前に褒められたことを覚えていた

 実家の冷蔵庫を開けたら、母はひとり暮らしなのにラーメンを6玉も買っていて、ビックリしたことがあります。

 認知症の人が同じものを何個も買ってしまうことはよくあります。冷蔵庫の中身を記憶できないため、スーパーで目に入った物や、思い入れのある物を、何個も何個も購入してしまうのです。

 しかし、なぜラーメンばかり何個も購入してしまうのか…

 自分の記憶を辿ってみると、母をこう褒めていたことを思い出しました。

「このラーメンさ、昔ながらのシンプルな味でお店をオープンできるほどおいしいよ!」

 昨日、病院へ行ったことも、2分前に話した内容も忘れてしまう母なのに、数週間前にラーメンの味を褒められたことだけは忘れない…すごく不思議な経験でした。

 この経験を裏付ける医学的な話はないだろうかとネットで調べてみたところ、新聞の記事に三重県・榊原白鳳病院の笠間睦医師のこんな言葉を見つけました。

「認知症に対するリハビリテーションの基本は、『褒める』ことです。ですから、難しい課題を与えてはいけません。達成可能にして成功体験を繰り返し、目一杯褒めて、モチベーション・生きがいを高めていくことが大切なのです」

 記憶との因果関係までは分からなかったものの、「褒める」ことは、認知症の人に対してリハビリ効果があるということが分かり、自分の著書やコラムで紹介しました。発表してみると、全国から次のような声が寄せられたのです。

認知症の人を褒めてみたらこうなった!

 Aさんの認知症のお母様は、Aさんが褒めたことで自信のある表情に変わり、次の日から会話の内容が変わったそうです。Aさん自身もお母様に対する対応方法が増え、介護が楽になったそうです。

 Bさんは「子どもを叱るにしても、まず褒めてから」と親からしつけられ、ご自身の子育てでも実践されたそうです。それは認知症の人に対しても変わらないことが分かったそうです。

 Cさんは、ご自身が褒められてうれしいのに、なぜか認知症の人を「褒める」ことを忘れていたということで、現在実践中ということでした。

 一方でDさんは、認知症の人を褒めることに葛藤があるとのこと。

 認知症になる前から義父にいじめられていたDさんは、どうしても「褒める」ことができないでいるそうです。「褒める」ことで認知症介護が楽になるという理屈は分かっていても、いじめられたトラウマからどうしてもできないという話を教えてもらいました。

認知症の人を褒めるのは介護者自身のため

 他にも「毎日毎日、認知症の家族から暴言や暴力を振るわれているのに、褒めるなんてできない」というご意見を頂いたこともあります。

 わたしも亡くなった父との関係は決して良好ではなかったので、長年連れ添った家族との関係は簡単に修復できるものではないことも理解できます。

 だとしても、自分の認知症介護が楽になるための技術と割り切れるのであれば、「褒める」ことは有効だとわたしは思います。褒めることができないという葛藤も、わたしにはその方が介護を頑張ろうとしている、愛情の裏返しのようにも思います。
 
 介護に無関心な親族には、こういった葛藤は生まれませんし、そもそも介護にも参加していません。わたしの本やコラムを読むという姿勢、それは、なんとか認知症介護をうまくやろうと思っている証拠なのだと思います。

 認知症の人を「褒める」ことで、その人から笑顔を受け取り、つられて自分も笑顔になる。その笑顔でまた、認知症の人も幸せな気持ちになるという、幸せの循環が生まれることが褒めることの一番のメリットだと思います。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/

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