公開日:2020.11.24 / 更新日:2020.12.23   

毒蝮三太夫が大学生に説く高齢者とのコミュケーション極意とは【連載 第31回】

 半世紀以上続いているラジオの生中継を通じて、誰よりも多くのお年寄りと交流してきた毒蝮さん。同年代や先輩に元気を与える「歩くパワースポット」であるとともに、若い世代にとっては高齢者の考えや気持ちを伝えてくれる「伝道者」でもある。女子大学で講義を持つ毒蝮さんは、学生に何を話し、何を伝えようとしているのか(聞き手・石原壮一郎)

高齢者の気持ちを若い人に伝える「伝道者」としても活躍中の毒蝮さん

女子大の客員教授として20年以上講義をしている

 こう見えても俺は、大学の客員教授なんだ。聖徳大学の松戸キャンパスで、介護や保育や看護の仕事を目指す女子学生に向けて、もう20年以上講義をしている。専門的な話は何もできないけど、最近の学生は年寄りと接する機会が少ないから、こんな俺の経験談や「年寄りっていうのはこういうもんだ」って話を興味深く聞いてくれている。

聖徳大学の客員教授として講義を続けている

 前の学長の川並弘昭さんが大森高校の先輩で、ある場所でお会いしたときに「石井君、ウチの学生に高齢者のことを教えてやってくれないか」って頼まれた。川並先輩とはそのときが初対面だったけど、俺がラジオで「ジジイ、ババア」って言っているのを知ってたんだな。俺でいいのかなって不安だったけど、先輩にそう言われちゃ断れないよ。

 今年はコロナで、前期の講義はなかった。後期は人数を絞って教室に集まって、リモートでも中継するっていう形で4回やれることになったんだ。その1回目が10月末にあったんだけど、俺が孫以上に歳が離れている女子学生の前でどんな話をしているのか、チラッと紹介しようと思う。女子学生になったつもりで読んでくれ。

コミュニケーションの基本は「まず、相手を知ること」

 将来、介護の仕事に就くかどうかは別として、これからの日本はますます年寄りが増えていく。コミュニケーションの基本は、相手を知ることだ。目の前で話している人は、どういう時代を生きて、どういう感覚を持っているのか。もちろん、すべてを知ることはできないけど、「マッチって何? 関係ないし」なんて思ってたら話にならない。いくら口先で「おばあちゃん、今日もいい天気ですね」なんて言ってても、心が通うことはないだろうね。

 昭和の暮らしはどうだった、昭和の映画スターはこうだった…と言われても、学生にとっては生まれるはるか前の昔話だよ。すぐに役に立つ話じゃないけど、いつか必ず「おばあちゃんがしてくれた若い頃の話がよくわかった」「黒澤明の名前を知ってたから、おじいちゃんが喜んでくれた」っていう日が来るはずだ。そう思って話している。

アクリル板をものともせず、毒蝮さんの熱い想いが教室全体を包む

固定電話だった時代の話

 空襲のこととか俺の両親のこととか、いろんな話をしたけど、今と昔が大きく変わったという点では、たとえば電話だ。学生の世代だと生まれたときには携帯電話があった。今はほぼ全員がスマホを持っている。電話をするっていうことの意味が変わったんだよな。

→毒蝮三太夫インタビュー|「この歳になって親の人生から教わること」

戦時中の話では、写真も紹介しながら、若い人にわかりやすく語りかける毒蝮さん

 スマホだと間違いなく本人しか出ない。俺たちの時代は、女の子をデートに誘おうと思ったら、家の固定電話に電話するしかないからたいへんだった。親が出たらどうしよう、たまたま来てた叔母さんが出るかもしれない、不機嫌そうに「どちらの石井様ですか?」って言われたら、なんて答えればいいんだ。俺のことをよく思っていないお父さんに「いません」って切られたこともある。だから「何時にかけるから」って示し合わせたりもした。

『海と毒薬』や『沈黙』で知られる作家の遠藤周作さんは、娘に電話がかかって来たら相手を驚かせてやるんだって言ってたな。知らない男から娘に電話があると「ああ、あなたですか。このあいだウチの娘と3泊4日の旅行に行ったっていうのは」って言っちゃう。もちろん娘さんはそんな旅行は行ってないんだけど、相手は驚くよね。

 別のときは、わざと受話器を押さえずに「おーい、○○っていう人から電話だぞー。いないことにしておくか。よし、わかった」って言って、おもむろに「すいません、あいにく娘は出かけてまして」って伝える。相手の男は、自分はすっかり嫌われているんだと思っちゃうよね。かわいそうになあ。

 遠藤さんはイタズラ魔としても有名だったから、これはちょっと極端な話だけど、今の親はやりたくてもできない芸当だ。固定電話の時代の若者は、好きな異性と連絡を取るのがたいへんだった。そういう時代風景があったと知ることで、親やおじいちゃんおばあちゃんが若かった頃も、異性を思ってドキドキする気持ちを持ってたんだってことを想像してくれると嬉しい。そして時代が変わっても、娘を心配する親心は変わらないんだよな。

文明は発達したけれど…

 文明が発達して、世の中は便利になった。コミュニケーションを取る方法も増えたし、いつでもどこでもコミュニケーションを取れるようになった。ただ、文明が発達して伝える手段や表現する方法は増えたけど、本当に伝わっているかどうかはまた別だよね。気持ちを伝達するっていうのは、文明じゃなくて文化の話だ。ひとりひとりの心の話だ。

 最初に言ったように、ちゃんと伝達するには相手のことを知って、相手がどう受け取るかを考えなきゃいけない。講義を聴いてくれた女子学生が、昔の話を通じてそういうことを感じたり、具体的にお年寄りとの話のネタにしてくれたりしたら、俺としては本望だよ。

マムちゃんの極意

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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!

たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

撮影/政川慎治

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