2018.05.18 |暮らし   

85才、一人暮らし。ああ、快適なり「第20回 料理人(シェフ)はアーチスト」

 日本の雑誌文化に大きな影響を与えた雑誌『話の特集』の編集長を創刊から30年にわたり務めた矢崎泰久氏。その手腕は、雑誌のみならず、映画、テレビ、ラジオのプロデューサーとしても発揮され各界で活躍した伝説の人だ。

 世に問題を提起する姿勢を常に持ち、今も執筆、講演活動など精力的に続けている。

 現在、85才。数年前より自ら望み、一人で暮らす。そのライフスタイル、人生観などを矢崎氏に寄稿していただく。

 今回のテーマは、「料理人」だ。親交の深いシェフを尊敬し、長い付き合いをしているという矢崎氏。食事に対する想いや、健康のために日々心がけていることとは…

 悠々自適独居生活の極意ここにあり。

料理好きを自認する矢崎氏。レパートリーも多い

 * * *

美味しいものを食べ続けるために作ったルール

 毎日、美味しいものが食べたい。これが私の願いである。

 一日三食の楽しみを大切にする。一食たりとも疎かにしない努力をする。

 しかし、これはそう簡単に実現できる願いではない。あくまでも希望であって、そんな贅沢はなかなか叶わない。規則正しい生活を送り、万全な体調を維持しなくては、現実的には実現不可能だ。

 老いは容謝なく肉体を蝕(むしば)んで行く。歯は次第に衰え、固いものを受付けなくなる。食欲はあっても胃に負担をかけ過ぎると、たちまち体調を崩してしまう。第一、肝心な味覚すら怪しくなってくるのだ。こんな悲しいことは他にない。

 そこで私は食生活にルールを作ることにした。自分の食生活は、自分で厳格に管理することにしたのである。

 自分自身で料理を作る。メニューを考え、食材を吟味する。手間暇かけることを厭わない。つまり、なるべく外食しない決心をするということである。

 週に一、二度は、和、洋、中華の料理人を厳選して、外食する。そして、友人になってもらう。

 もちろん一朝一夕にしてできることではない。自分の味覚に合った料理人を尊重する。少なくとも7人くらいとは、良い関係を作る必要がある。

 面倒臭がらずに自炊を楽しみ、料理人(シェフ)をアーチストとして尊敬し、決して礼を失することのないよう付き合ってもらう。これで万全な食生活を獲得することが出来る。騙されたと思って、是非真似して下さい。

50年の付き合いになる中華料理のシェフ

 横浜の馬車道に『楊子江(ようすこう)』という中華料理店がある。小さな店に73歳の老シェフの黄成恵(こうせいけい)さんが、たった一人で開店している。私との付き合いは、50年ほどに及ぶ。

 横浜中華街で上海生まれの父母に育てられ、老舗(しにせ)中華料理店『楼外楼(ろうがいろう)』に17歳で修行に出た。20代に原宿・表参道の支店で支配人に就任し、そこで私たちは出会った。

 独立して店を持ったのは30代。六本木に『彩威門(さいもん)』を開店し、3年後に杉並区井草に大衆的な大型店『八彩苑(はっさいえん)』を経営、3年後に横浜中華街に戻った。

『三洸園(さんこうえん)』での6年間の内、5年にわたって、永六輔、中山千夏、小室等、きたやまおさむ、そして私の5人によるディナー・ショウを毎月一回開催した。

 1500円のディナー・ショウは200人の参加者でいっぱいだった。観客も私たちも、高級中華料理の介在(きょうりょく)によって、大いに満足した催しであった。

 黄さんは両親が経営する横浜・桜木町の『楊子江(ようすこう)』に移り、10年後に父親が他界し、2010年、母親と二人で馬車道に店を移した。

 10人ほどしか入れない新しい『楊子江』にはメニューは存在しない。完全予約制にして、親しい客に合った料理を提供している。

 店の壁に「塗糊得難(トゥズゥドゥンナ)」という中国語が額に大書(たいしょ)されている。意味は「単純な作業をキチンとやりなさい」という訓戒。黄さんは座右の銘としている。

 最後には、たった一人で料理を作ると決めていた。まさにアーチストの身上(てつがく)である。

横浜・馬車道に店を構える黄氏(写真右)とは、店が変わっても付き合いを続けてきた

創意工夫溢れる西洋料理を吉祥寺のシェフの店で

 私には現在、黄さんを加えて7人の料理人(シェフ)の友人がいる。吉祥寺『ピッコロモンド』(西洋料理)の渡邊友二さんは厨房に誰も入れない。58歳の円熟期にある料理人(シェフ)である。創意工夫がしみじみ味わうことの出来るアーチストのひとりだ。

月に2回は、渡邊シェフの店「ピッコロモンド」へ通う

 他の5人はいずれも独立して間のない若手(と、言っても40前後だが)ばかり。料理に挑む姿勢に感動させられて通うようになった。客の期待を絶対に裏切らない料理作りに毎日専念している。

 最後の晩餐に何を食べるか。この質問に私は答えることが出来ない。ようやく腹八分目が実行可能になった現在にあって、7人の料理人(シェフ)の為に、最低でも一週間が必要だからでもある。やっぱり自分で作るしかないか。

 私は食いしん坊なのか、それとも食道楽なのか。これまた答えは見つからない。料理というアートをじっくり味う。これこそが無上の楽しみなのだから、なかなか人生を終わらせる勇気がないのである。

 衣・食・住のどれに一番金を投じるかという質問には、簡単明瞭に答えられる自信がある。

 食に決まっている。人は食に始まって、食に終わる。食で満ち足りたら、遊びにうつつを抜かす。他に何があると言うのだろうか。

 

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矢崎泰久(やざきやすひさ)

1933年、東京生まれ。フリージャーナリスト。新聞記者を経て『話の特集』を創刊。30年にわたり編集長を務める。テレビ、ラジオの世界でもプロデューサーとしても活躍。永六輔氏、中山千夏らと開講した「学校ごっこ」も話題に。現在も『週刊金曜日』などで雑誌に連載をもつ傍ら、「ジャーナリズムの歴史を考える」をテーマにした「泰久塾」を開き、若手編集者などに教えている。著書に『永六輔の伝言 僕が愛した「芸と反骨」 』『「話の特集」と仲間たち』『口きかん―わが心の菊池寛』『句々快々―「話の特集句会」交遊録』『人生は喜劇だ』『あの人がいた』など。

撮影:小山茜(こやまあかね)

写真家。国内外で幅広く活躍。海外では、『芸術創造賞』『造形芸術文化賞』(いずれもモナコ文化庁授与)など多数の賞を受賞。「常識にとらわれないやり方」をモットーに多岐にわたる撮影活動を行っている。

→このシリーズの他の記事を読む

第1回 そもそものはじまり
第2回 老いはするが老人にはならぬ
第3回 自由って何だろう
第4回 おいしい生活
第5回 通院の帰り道
第6回 好色のすすめ
第7回 夢の続き
第8回 耽るということ
第9回 テレビの功罪
第10回 遊び
第11回 ギャンブル好き
第12回 便利は復讐する
第13回 老作家が描くエロスの凄み
第14回 スマホって何だろう
第15回 不倫スキャンダル
第16回 明治維新と向き合う
第17回 無駄遣い
第18回 ラブレター
第19回 老いらくの恋
第20回 料理人(シェフ)はアーチスト

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