公開日:2021.02.23 / 更新日:2021.03.09   

高木ブー「役者として渋谷ジァン・ジァンの舞台に立った日のこと」【連載 第37回】

『8時だョ!全員集合』が幕を閉じたとき、いかりや長介さんは言った。「16年間がんばってきたんだから、そろそろみんな好きなことやろうや」。ドリフの活動は続けつつ、メンバーはそれぞれ「次の道」を探し始めた。じつは高木ブーさんは、ウクレレを本格的に再開する前に、役者の道を歩みかけたことがある。その顛末を聞いた。(聞き手・石原壮一郎)

高木ブーさんが役者として舞台に立ったときの心境とは?(写真/菅井淳子)

長さんよりも早く役者としての活動を始めた

 ザ・ドリフターズのメンバーで「役者」っていうと、ほとんどの人は長さん(いかりや長介)を思い浮かべるんじゃないかな。『踊る大捜査線』シリーズの和久平八郎の役なんて、すごくよかったよね。年齢を重ねてますます渋くていい役者になれたはずなのに、72歳で亡くなっちゃったのは本当に残念だった。

 1985年の秋に『8時だョ!全員集合』が終わったとき、長さんが僕ら4人に「16年間がんばってきたんだから、そろそろみんな好きなことをやろうや」って言ったんだよね。それまでドリフは「バラ売り」はしないっていう方針だったんだけど、もう縛りはなくそうってことになって、長さんもドラマに出始めた。

 何を隠そうというかじつはっていうか、役者をやったのは長さんより僕のほうが早かったんだよ。昔からドリフが主演の映画があったりもしたけど、それはまた別の話としてね。「全員集合」が終わってわりとすぐの頃に、劇作家の別役実さんが脚本を書いた二人芝居に出ないかって話があった。

 マネージャーから聞いたときに、最初は「無理だよ。やめようよ」って言ったの。だけど「とりあえず話を聞きに行こう」っていうことで別役さんに会いに行ったら、もう話がほぼ決まってて、断りづらい感じになってた。たしかにいい経験だし、これから役者っていう道もあるかもしれないなと思って、結局は引き受けたんだよね。

 別役さんは毎年6月に、奥さんで女優の楠侑子さんと渋谷の「ジァン・ジァン」で二人芝居の公演をやってたんだけど、僕はその相手役。『湯たんぽを持った脱獄囚-求むな、されど与えられん-』って作品だった。田舎のバス停で男と女が謎めいたやり取りをするお話なんだけど、台本がとっても分厚くて3cmくらいあった。

「全員集合」のときは「あー」とか「うわー」とか言ってただけなのに、最初に台本を見たときは「どうすんだよ、これ」って呆然としちゃった。しかも別役さんは不条理劇の人だから、セリフが脈略なくあっちこっちに飛んで覚えづらいのなんの。当時は妻の喜代子さんが元気だったから、相手役をやってもらって毎日必死で練習した。付き合わされるほうも、たいへんだったと思うよ。

 あとから娘に聞いたんだけど、僕が台本を握りしめながら「このまま電車に飛び込んじゃおうかな」って言ったらしい。そういえば、そんなこともあったかな。もちろん冗談だけど、そんな物騒な冗談を言い出すぐらい追いつめられてたんだよね。

「高木ブーさんは佇まいがいい。素敵な役者です」とホメられた

 どうにかこうにかセリフを覚えて、渋谷のジァン・ジァンでの公演も無事に終わった。そしたら、自分でも意外だったんだけど、今までに味わったことがない達成感だったんだよね。しかも、別役さんが何かのインタビューで「高木ブーさんは佇まいがいい。素敵な役者です」ってホメてくれた。あれは嬉しかったな。僕も調子に乗りやすいほうだから、役者って面白いな、もっとやってみたいなって思っちゃった。

 そのあと、別役さんの家に遊びに行ったときに、彼が「来年のジァン・ジァンの二人芝居は何をやるかまだ決まってない」って言うから、「じゃあ、僕向きのを書いてよ」って頼んじゃった。それが『トイレはこちら』っていう作品で、やっぱり楠さんとの二人芝居なんだけど、コミカルな内容だったからか、セリフは前に比べると覚えやすかったな。

数々の舞台で名演技を見せた高木ブーさん。左から『トイレはこちら』(渋谷ジァン・ジァン)『花のお江戸のかぐや姫 我楽苦多一座奮戦記』(明治座)、『あたしは…モンスター』(三越劇場)に出演したときの雄姿

 ほかにも舞台では、宮本亜門さん演出のミュージカルに出たり、藤田まことさんや黒柳徹子さんと共演したりもした。セリフを覚えるのは、いつまでたっても苦手だったな。ウクレレのほうが忙しくなったこともあって、だんだん音楽中心の活動になっていった。僕はいつも成り行き任せで、何を目指そうとかどっちに進もうとかはないんだよね。でも、一時期たくさんお芝居をやらせてもらったのは、楽しかったし、いい経験だったな。

毎回大人気のYouTube『【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう』の最新回Part11が公開になった。今回、高木さんはロカビリーのスタイルでエルビスプレスリーの歌など披露している(画像はイザワオフィス公式チャンネルより)

 思い返せば、たくさんの人に導かれて、いろんな世界を見せてもらった。ありがたいよね。この歳になっても、初めて経験することがいっぱいある。3月6日には、初めての生配信ライブ「【ドリフ&ももクロ生出演】高木ブー88歳だョ!全員集合」をやります(詳しくはこちらをクリック)。加藤(茶)や仲本(工事)も出てくれる。「全員集合」の頃には生配信なんて影も形もなかったから、当然それでいっしょに何かやるなんて想像もつかなかった。人生って面白いよね。

「何を隠そう役者の道を歩みかけたこともあった。セリフを覚えるのはたいへんだったけど、楽しかったなぁ」

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高木ブー(たかぎ・ぶー)

1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう」( イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評!  初めての生配信ライブ「【ドリフ&ももクロ生出演】高木ブー88歳だョ!全員集合」(視聴チケット3,000円)は3月6日(土)18時スタート。詳しい情報は⇒こちら

LET IT BOO

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「恥をかかない コミュマスター養成ドリル」。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。

●「ドリフの歴史、話しておこうか」高木ブーが今改めて振りかえる【連載 第24回】

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