2018.06.28 |サービス   

5分100円の御用聞き 高齢者の孤独死を防ぐことも

「これからは御用聞きの時代だ」。セブン-イレブンの元会長・鈴木敏文氏は10年以上前から口癖のようにこう言っていたという。彼の言葉通りの仕事で、社会を変えようとしている企業がある。その名も、株式会社「御用聞き」。齢39才で同社代表を務める古市盛久さんの日常は、超高齢化社会を迎えた日本の縮図ともいえるものだった。

5分100円から家事代行を行う御用聞き

「ビンのフタを開けて」…小さな願いに寄り添う

 古市さんが経営する御用聞きは、5分100円からの家事代行を行う会社だ。電球や電池の交換、宛名書きなどを請け負う。「ビンのフタを開けてほしい」という依頼が全体の1割にも及ぶという、人の小さな願いに寄り添う仕事である。

 福祉、商業、行政などさまざまな分野と、生活者を繋ぐハブ(拠点)を目指す──そんな御用聞きは、「2025年問題」へ向けたソーシャルベンチャービジネスとして今注目が集まっている。

 同年を境に800万人の団塊の世代が75才以上の後期高齢者となり、日本が超高齢化社会に突入するからだ。

 少子化と核家族化で、都会に限らず地域社会が失われている現代。そのなかで孤立する高齢者への支援は、公的サービスではまかないきれない。

「指のささくれって、最初見つけたときはすごく小さいものなのですが、気になってむいちゃうと痛いですよね。ぼくらの生活にもそんなささくれがある。自分だけではどうしようもない、そんな痛みに向き合う仕事です」(古市さん)

 部屋の模様替えをしたくても、重いものを移動できない。

「子供はいるけれど、子育てに仕事にと忙しい。仕事を休んでまで来てもらっては申し訳ない」と遠慮や思慮深さがのぞく。

 テレビのリモコンの乾電池の交換ができない。

「そんなことを誰かに頼むのが恥ずかしくて…」と依頼者はうつむく。

 たったそれだけのこと。現役世代にはそう映るが、高齢者には大きなストレスとなる。そして、そこを支援するサービスは、医療にも介護制度の周辺にも見当たらない。

「会話」の中で、その人の困りごとを知る

 そんな御用聞きの仕事でいちばん重要な要素は「会話」だという。人とふれあい、その人の困りごとを知ること。

「会話で世の中を豊かにする」。それが彼らのビジョンだ。

 このほっこり温かいサービスは口コミで広がるとともに、昨年から新聞やテレビなどのメディアで続々と取り上げられるようになった。

照明器具のカバーを取り外して清掃する古市さん(写真左)

 日本テレビ系列の『NEWS ZERO』では、芥川賞作家でお笑い芸人の又吉直樹が番組の企画で御用聞きに参加。今年5月には、NHKの『クローズアップ現代+』に取材協力をすれば、TBS系の『ビビット』でも取り組みが紹介された。

 設立から8年間での依頼総数はのべ6000件以上。その多くは60~70才以上の高齢者からだ。顧客満足度はすこぶる高く、100円家事代行は3か月以内のリピート率が8割を超えている。

 注目される新機軸の事業でありながら、代表取締役の古市さんと今年取締役に就任した前出の松岡さんの2人で経営する。

 彼らの手足となって現場に駆けつけるのは「担い手」と呼ばれるスタッフ。現在の登録者数は70名で9割が学生だ。研修プログラムを受けてから現場へ出るが、最初はベテランスタッフに同行し、付き添ってもらいながら、ノウハウを身につける。

 大学時代から担い手を始めた松岡さんは、「古市さんは日々進化している感じの人。尊敬しています」と照れくさそうに言う。

 2人で議論しながら、できることと、できないことを徐々に明確にしていった。今の時代、おおよそのことはネットで調べられるため、「推奨取り説リンク」としてデータをため込んでもいる。

「パソコンに詳しい人、手先が器用で機械修理が得意な人など、それぞれの得意分野もあるのですみ分けができるようになりました」(松岡さん)

 これまでの活動区域は、御用聞きの事務所がある高島平団地のある東京都板橋区、練馬区や清瀬市、新座市、横浜市港南区の一部だけだったが、6月1日からサービスを「都内23区全域」に拡大した。

「こういうちょっとしたことが気軽に頼めるサービスが欲しかった」

 そう言って電話をしてくる人が多い。

毛布や洋服を整理する。御用聞きのスタッフには学生も多い

思いがけない役割を果たすことも

 さらにはこの仕事、御用聞きのサービスを超越する。

 さかのぼること4年前。期間限定で御用聞きに入った某市での出来事だ。

 古市さんは毎日通うなかで、介護事務所や地域の民生委員たちと顔見知りになっていった。ある日、仕事を終えて数人で立ち話をしていると、ある女性が「そういえば」と思い出したように口を開いた。

「あそこのマンションの○号室のおばあちゃん、1週間前から連絡が取れないんですが、どなたか知りませんか?」

 すると「そういえば最近見かけない」と全員の顔が曇り始めた。

「すぐに見に行きましょう」

 古市さんは先頭を切って、女性宅に向かって走り出した。到着すると、まだ夕刻の明るい時間にもかかわらず、部屋に明かりがついている。インターホンの応答はなし。

「絶対に怪しい」

 管理事務所はすでに閉まっている。通報してやってきた警察官は、「親族か大家さんの許可がないとドアは開けられない」の一点張り。

 マンションを見上げていた古市さんはひらめいた。台所側の窓へは柵をつたっていけば上がれる。外出時は施錠しても、在室の際は台所に面した窓の鍵をかけない人もいることを知っていた。

「開いてくれ」と祈りながらぐいぐい登って窓に手をかけると、スルッと窓が動いた。

(開いてる!)

 20㎝ほど窓を開けると、視界のなかに、うす茶色のビニール床の上であおむけに倒れた女性の額が見えた。

「大丈夫ですか!」

 渾身の力で叫ぶと、女性の眼球が動いた。その瞬間、古市さんと目が合った。

「生きてます!」

 ほどなくサイレンが鳴り、消防車、救急車、パトカーが駆けつけた。

 ネットワークの力が孤独死を防いだ瞬間だった。

「ぼくらの役割の1つは、こういうことだと思いました」と古市さんは振り返る。

 御用聞きに回る日々のなかで培った経験や知見が生かされた出来事だった。

※女性セブン2018年6月28日号

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